倉田真由美さんが明かす、すい臓がんで亡くなった夫(享年56)の終末期の食生活は「食事制限一切なし」 それでも悔いの残る「食べさせてあげられなかったもの」
漫画家の倉田真由美さんは、夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)を自宅で看取った。在宅医療に切り替えてからも、叶井さんは好きなものを食べ自由に過ごしていた。新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』には、最期を迎えるまでの日々が克明に綴られている。中でも印象的なのが「食生活」だ。
自宅で過ごした最期の11日間
《家の中では歩けるし自分で歩けるし、昼には夫がリクエストしたファミチキ、おやつにイチゴや『ガリガリ君』、夜は病を得てからの定番だったマグロやイカの刺身を食べ、午後9時過ぎにはシャワーを浴びて髪を洗い、髭を剃っていました〉(新著・1章より》
――これは、亡くなる前日のことだ。
「夫は、最期まで好きなものを食べ、自宅で自由に過ごしていました。本当に特別なことはなにもしていないんですよ。いつもの日常がずっと続いていて、すっと逝ってしまった感じ。前日まで、まだ死ぬわけないよねって、本気で思っていましたから」(倉田さん、以下同)
倉田さんと叶井さんが選んだのは、終末期を自宅で過ごす「在宅緩和ケア」。病院や施設と違い、食べたいものを食べ、外出もできる。自由に過ごせるのが自宅の大きなメリットでもある。しかし、夫の奔放な食生活に、倉田さんは複雑な思いも抱いていたという。
「夫は、余命宣告されている身。本人の好きなように食べたいものは制限なく食べさせるべき、と頭ではわかっているけど、やっぱり栄養のあるものを食べてほしいじゃないですか。
お酒の飲めない夫は、甘い物や味の濃いものが大好き。家では私が作る食事をしっかり食べていましたが、『ママのご飯、味が薄い~』って言うこともありました。
ジャンクフードも大好きで、今日何食べたの?って聞くと、『ファミチキ』『あんまんとコーラ』とか。パンケーキにはバターとシロップをこれでもかっていう量をかけて食べたりしていましたから。カップ麺も好きで、懲りないなあと思うこともありました。『カレーめし』っていうのが好きで、それは動画にも残っています。
すい臓がんが進行してからは、医師から『前のように食べられないし、食べ過ぎてはいけない』と釘を刺されていたのに、カップ麺を食べて、しばらくしして腹痛で苦しむことになるんですよ。それの繰り返しでしたから、『もう二度とカップ麵なんて食べないで』と、つい強めに言ってしまって、後悔することもありました。今思えば、そう言ったところで、夫の行動は変わらなかったんですけどね。
食生活が改善できていたら、もっと長く生きたんじゃないかという思うこともありますが、それで寿命がどれほど伸びたのかはわからないですけど」
「また今度」の“また”はない
「夫が食べたいと言ったものは、万難を排してでも手に入れて食べさせてやるべきだった」と、倉田さんは続けて言う。
「食べたいもの、色々と言っていたんですよ。もつ鍋が食べたいとか、キャビア、イクラが食べたいとかね。取り寄せてやればよかった。
最期にリクエストした、ファミチキは期間限定のタルタルソース入り。近所のコンビニに売ってなかったから、普通のファミチキを買って帰ったらすごく残念そうで。別のお店を回ればあったのかもしれないのに…。
『してあげられなかったこと』が、自分の中でずっと悔いとして残っているんです。
『また今度食べさせればいい』って、その『また』はないですから。もしあの時に戻れるなら、全部コンプリートしてあげたいですね」
終末期は、それまで食べられたものが食べられなくなることもある。叶井さんも、病の進行とともに、大好物だった鰻や焼き肉、すき焼きは「食べたいのに食べられない」と言うようになった。
「晩年はこれまで飲んだこともなかった温かい紅茶が好きになって、よく紅茶を淹れていました。果物もよくむいてやりましたね。
病院に入院していたら食べられないようなものを、自宅では食べることができましたから、そういう意味では、彼は最期まで好きなものを食べて過ごしていたと思います。
『家で死ぬ』と決めたきっかけとなった最後の入院時には、病院の売店でいなり寿司を盗み食いして、看護師さんに怒られていましたからね(笑い)」

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◆倉田真由美
くらた・まゆみ/1971年福岡県生まれ。漫画家。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。最新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』が9月26日に刊行。
写真提供/倉田真由美さん 撮影/五十嵐美弥 ヘアメイク/大嶋祥枝 取材・文/桜田容子