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2025.06.27 16:00

全国の自治体に広がるヤングケアラー啓発動画「アニメやドラマで理解が深まる」当事者が注目する動画5選

　今、ヤングケアラーの啓発動画を発信する自治体が増えてきている。高次脳機能障害の母のケアを続けているヤングケアラーのたろべえこと高橋唯さんが注目する啓発動画を5つ厳選。言葉の意味や当事者の想い、周囲はどのような対応をしたらいいのか――。あなたの身近にいるかもしれないヤングケアラーのこと、動画を通じて理解を深めてみませんか。

執筆／たろべえ（高橋唯）さん

「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯（高ははしごだか）。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』（ちくまプリマー新書）、『ヤングケアラーわたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』（生活書院）などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/

子ども・若者育成支援推進法にヤングケアラーが明記されて1年

　子ども・若者育成支援推進法が改正され、国・地方公共団体等が支援に努めるべき対象に「ヤングケアラー」が明記されてから１年が経過した。各自治体でヤングケアラー啓発のための様々な取り組みが進められている。筆者も講演会や動画の出演など、メッセージを伝える機会が増えている。中でも注目なのがヤングケアラーの啓発動画だ。今、筆者が注目する動画を５つ紹介する。

1.東京都中野区　話題の制作陣が手がける本格アニメ―ション

　テレビアニメを数多く制作するMAPPAと、長編アニメ映画『この世界の片隅に』の新作を手がけるコントレールが、中野区とタッグを組んで制作されたアニメーション。

東京都中野区『きかせてほしいきみのこと』
https://youtu.be/cx7wwb4_PCA

　主人公の小学生・ゆうまが、家事や家族のケアをしている友人・ケンタを通じて「ヤングケアラーとは何か」を知っていくストーリーだ。

　ヤングケアラー本人視点ではなく、友人の視点であることや、ケンタの「せっかく俺たちのことを考えて待ってくれている人がいるなら頼っちゃった方がいいのかなと思った」というセリフが印象的だった。

　アニメ好きの筆者としては、ヤングケアラーに関することで有名アニメ制作会社の名前を目にすることができたことも嬉しかった。

　中野区立中野東図書館8階の特別展示室にて、動画の絵コンテやキャラクター設定集を展示する特別展示会も開催された（6／26まで）。

2.栃木県が発信するヤングケアラー理解促進ムービー

　2023年にケアラー支援条例が制定された栃木県の啓発動画は、【中高生向け】【おとな向け】の2篇が制作されている。ドラマ、インタビュー、グラフィックスから構成されていて、ドラマでは同じヤングケアラーの主人公が登場する。

病気の母親のケアをしながら小学生の弟の面倒も見ているヤングケアラーの女子中学生が主人公だ

栃木県「今日もわたしたちは家に帰る」

【ヤングケアラー（中高生向け）今日もわたしたちは家に帰る〜その遅刻、本当に寝坊？〜
https://www.youtube.com/watch?v=6YmwtXh86_0&list=WL&index=8

【ヤングケアラー（おとな向け）】今日もわたしたちは家に帰る〜急に変わった志望校。変わらない将来の夢。
https://youtu.be/gd1jO8SNl0U?si=KJsO2L-7CZXKieWt

　2つの動画を通して、家族の世話や家事を担う中学生と、その周囲の友人や先生が少し先の未来を一緒に考えていく姿が描かれる。

　ドラマパートでは、ヤングケアラーの中学生の生活がイメージしやすい。筆者としては友人や先生の距離感も程よく、こんな風に接してもらえるとありがたいと感じた。また、当事者のかたと支援者のかたのインタビューのパートもとても心強く感じられた。

3.兵庫県　大人も見るべき！やさしいアニメで描く深い内容

　今月公開されたばかりの兵庫県の動画では、ヤングケアラーの概要（ケア内容の例、お手伝いとの違い、学業や生活への影響等）や、家族のケアを担う児童や生徒が一人で悩みを抱え込まないようにとのメッセージを紹介している。

知っていますか？ヤングケアラーのこと（中高生向け）【兵庫県】
https://www.youtube.com/watch?v=WgbFurx5wKw

ヤングケアラーって知ってる？（小学生向け）【兵庫県】
https://www.youtube.com/watch?v=tUH3xXhXe0w

　お手伝いとの違いというのは筆者もよく聞かれるが、「これをしていたらヤングケアラー」とか、「1日何時間未満ならお手伝い」とか、そういった明確な違いは存在しない。しかしながら、兵庫県の動画で紹介されている「子ども自身がやらないとたちまち家族が困ったことになってしまうかどうか」というのは1つの判断基準として重要だと感じた。

4.山梨県　アニメ版・吉本芸人版ともに見応えあり

　山梨県では、「気づいてつながろう　山梨コネクトヤングケアラー」を合い言葉に、県民がヤングケアラーについて正しく理解を深め、ヤングケアラーとその家族を支えられるよう様々な取組を行っている。

　YouTubeでは、県出身のイラスト作家によるイラストを用いたアニメーションや、よしもと芸人が中高生に扮したドラマ仕立ての動画が公開されている。

ヤングケアラーって知ってる？　～ふくろう先生に聞いてみた～　完全版
https://www.youtube.com/watch?v=N6jguDpPouA

『コネクトヤングケアラー～全編～』　ヤングケアラー啓発動画【山梨県×吉本興業×ヤングケアラー協会】
https://www.youtube.com/watch?v=vRdXwT4KvWQ&t=136s

　また、山梨県ではヤングケアラー啓発にTikTokも活用していて、アニメーションやポエム調のメッセージ、著名人からのメッセージなどの動画を公開している。

　日頃、行政が発信している情報は「こちらからわざわざ調べて見に行かないと把握できない」と感じることもあるが、当事者世代を中心に幅広い世代が親しみやすい工夫を取り入れることで、積極的に啓発できているのではないかと感じた。

5.茨城県「支える人を支える社会に」

　茨城県では2021年に「茨城県ケアラー・ヤングケアラーを支援し、共に生きやすい社会を実現するための条例」が制定された。筆者は茨城県のケアラー・ヤングケアラー支援事業の一環として制作された2本の動画に当事者として出演している。

ヤングケアラーとケアラー支援啓発の2本のメッセージをお伝えしています。よかったら見てみてください

支える人を支える社会に（ケアラー支援）
https://www.youtube.com/watch?v=IsnkO5J8p5g

支える人を支える社会に（ヤングケアラー支援）
https://www.youtube.com/watch?v=6MLsABn5YfU&t=3s

　まずヤングケアラー支援啓発の動画では、母がアルコール依存症だったときのことも含めた幼少期から高校生くらいまでの経験談、自分がしていたことをケアと認識していたか、ヤングケアラーへのメッセージなどをお話させていただいた。

　さらにケアラー支援啓発の動画では、2年前に母が認知症と診断されたことも含めた、より最近のケア経験談や、支援者のみなさんへのメッセージなどを伝えさせていただいた。

　2本の動画で話している内容は異なるが、ヤングケアラーも、ケアラーも、ケアを受けている人も年齢による切れ目なく支えられる社会になってほしい。

ヤングケアラーがやがて大人になってケアラーへ。ケアに切れ目はない。写真は幼少期の筆者と母。

自分の住む自治体のケアラー、ヤングケアラー支援をぜひ確認してほしい

　各自治体が様々な啓発活動に取り組んでいるが、動画は学校や職場、地域での啓発活動にも取り入れやすいと思う。みなさんのお住まいの地域は啓発動画を制作しているだろうか。

　動画では、各自治体の相談先の情報も伝えているケースが多いので、いざ自分や身近な人がヤングケアラーやケアラーになったらどこに頼ればよいのか、今一度確認してみてほしい。

　自分の住む自治体の動画ではなくても、多様なケアラーの実情や他自治体にはどんなサポートがあるのかを知るということも、支援につながる第一歩だと思う。

　動画を観ることで「見えない存在」になりがちなヤングケアラーのことを「見て」知ることができる。ぜひ視聴して、自分や身近な人の生活を振り返るきっかけとしてほしい。

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ヤングケアラーに関する基本情報

言葉の意味や相談窓口はこちら！

■ヤングケアラーとは

　日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。

■ヤングケアラーの定義

『ヤングケアラープロジェクト』（日本ケアラー連盟）では、以下のような人をヤングケアラーとしている。

・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている