「血圧は低めがいい」が最終結論!高血圧、薬の種類と向き合い方
現在、日本で高血圧と診断されているのはおよそ4300万人いるとされる。日野原記念クリニック所長の久代登志男先生によれば、治療が必要な高血圧患者の約半数が薬を服用しているという。
「しかし、服薬している患者さんで血圧を適切に管理できている人は全体の4分の1しかいません」(久代先生)
つまり、薬をのんでいるにもかかわらず目標値まで血圧を下げることができている人は、およそ2割しかいないということだ。
たしかに毎日、薬をのみ続けるのは面倒だ。忙しかったり、旅行に出かけると、うっかり忘れることもある。定期的に病院に通えば、時間とお金がかかる。さらに血圧の薬は一度のみ始めると”半永久的にのみ続けることになる”といわれている。
「そのため、患者さんから『先生は薬をすすめるけれど、生活習慣を改善することで血圧を下げたい』と相談を受けることがよくあります。たしかに生活習慣は大切で、塩をたくさん摂ったり、肥満があったりすると降圧薬を服用してもきちんと血圧を管理するのが難しくなります。しかし、生活習慣改善のみで期待できる降圧は、平均すると4~6㎜Hgくらい。安全圏とされる降圧目標まで下げるのは難しいのです」(久代先生)
世界的に「血圧は低い方がいい」という流れ
高血圧そのものは、コレステロールと同じで、高いからといってすぐに大きな病気につながるものではない。
しかし現在、世界的な流れは「血圧は低めがいい」に傾いている。
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが指摘する。
「以前は、75才以上の高齢者は高血圧の方がいいという考えもありましたが、’17年に発表された米国の研究結果では、75才以上でも上の血圧を120㎜Hg以下にした方が命にかかわる病気が減ることがわかっています。その結果を受けて、アメリカのガイドラインでは、血圧を下げる目標値を140/90㎜Hgから130/80㎜Hgに変更しました」
“命にかかわる病気”の中で特に恐ろしいのは心不全だ。久代先生が言う。
「心不全になると、入退院を繰り返さざるを得なくなり、日常生活もままならなくなる。欧米では、心不全を予防するために血圧をきちんと管理するための啓発活動が盛んになっています」(久代先生)
また、心不全を発症すれば食塩は1日2~4gなど厳しい食事制限を強いられ、血中の酸素が不足して顔色も慢性的に悪くなる。それらのリスクを、薬で防げるのならのまない手はないだろう。
安全性、有効性が確率された降圧剤の種類
 血圧を下げる降圧薬は大きく分けて4種類。「利尿薬」「カルシウム拮抗薬」「ACE阻害薬」「ARB」だ。
北品川藤クリニック院長の石原藤樹先生が解説する。
「どれも10年以上使われてきて、安全性も有効性も確立された薬です。利尿薬は塩分を尿として排出することにより、カルシウム拮抗薬は血管を広げることにより、血圧を下げます。ACE阻害薬とARBは、ホルモンに働きかけて血圧の上昇を抑えます。高血圧治療ガイドラインでは、4種類のどれを使ってもいいことになっていますが、1種類を使ってみて不充分なら、ほかの薬を組み合わせるのが一般的です」
気になる副作用だが、ACE阻害薬については「肺がんリスク」が指摘されている。
’18年10月24日付の英医学誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』誌上で、’95年から’15年まで降圧薬の服用を開始した高血圧患者99万2061人の追跡調査結果が発表されたのだ。室井さんは「この論文は信頼度が高い」と話す。
「99万人もの大規模な調査で得られたデータなので、大きな意味があるといえるでしょう。以前からACE阻害薬は肺がんの発生リスクを高めるのではないかと指摘されていましたが、それを示す形となった。論文によると、肺がんになるリスクが、ACE阻害薬を5年以上服用した人で1.22倍、10年以上で1.31倍になると結論づけています」
ただし、このデータは別の見方もできる。
「ACE阻害薬を服用すると体内の『サブスタンスP』という物質が増えます。これはせきを出やすくする物質で、患者のせきが増えるため医師は肺の病気を疑って肺の検査をするようになる。結果として肺がんが見つかりやすくなって、ACE阻害薬をのむ人ほど肺がん患者数が多くなっているとも考えられています」(石原先生)
つまり今回の発表によって、確実に肺がんリスクが高まると断じるのは早急だということだ。
だが、不安を感じる人は薬を変えてもらうといい。 「ACE阻害薬と同じく、ARBはホルモンに働きかけるという点では、同じ仕組みの薬です。不安な人は、ARBに変えてもらうべく、医師に相談してみるといいでしょう。特に喫煙者や身内に肺がんがいるなど、肺がんリスクが高い人は、変えてもらうといいかもしれません。ただ、ARBはACE阻害薬よりも新しい薬であるため、薬価が高いのがネックです」(石原先生)
そのほかの降圧薬も、高齢者にはさまざまな副作用がある。
「利尿薬とACE阻害薬とARBは、高齢者では脱水と腎障害が起こりやすい。どの薬にもある程度のリスクは存在しますが、それをわかったうえで、医師と相談しつつ治療法を決めるべきです」(石原先生)