女優・秋川リサさん「認知症の母親の介護で追い詰められた」実体験に学ぶ介護の新常識
ささいなことが積み重なり家族や親族の中でトラブルになりやすい介護の問題。介護は閉ざされた環境になりがちで、介護者の疲労やストレスも溜まりやすい。「認知症の母の介護で壊れる寸前まで追い詰められていた」と語る女優の秋川リサさんの実体験をもとに、専門家に「これからの介護の常識」について提案いただいた。
親ひとり、子ひとりの介護は関係が悪化しやすい
2020年以来「コロナ離婚」という言葉が聞かれるようになった。内閣府の調査によると2020年度のDV相談件数は前年の1.6倍に増加。夫婦が一緒に過ごす時間が増えたことで、いがみ合いも増えたのだ。
これは、介護にもまったく同じことが当てはまる。
「高齢者虐待は、1対1関係のときに頻出しています。つまり、親ひとり、子ひとりという関係性がいちばん危ない。2人きりだと関係が煮詰まってしまい、ストレスのはけ口が“相手”だけになってしまうのです」
介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんは、たとえ自宅で介護する場合であっても「第三者」にかかわってもらうことが重要だと説く。ヘルパーやケアマネジャーなどに定期的に間に入ってもらうことで、親子関係が悪化するのを防ぐことにつながるのだ。
秋川リサさん「少しも苦しくない介護ないんてない」
女優の秋川リサさん(70才)は、認知症の母親を介護した経験を持つ。秋川さんも、親戚などから「子に介護してもらえない親をかわいそうだと思わないのか」と言われ、仕事と両立しながら、自宅での介護を続けた。
「当時は、娘の協力を得て何とかやっていましたが、リフレッシュする時間どころか、休もうと考える余裕すらなく、あの頃の記憶はあいまいなんです。壊れる寸前まで、追い詰められていたと思います。次第に母とは険悪になっていきました」(秋川さん・以下同)
秋川さんはケアマネジャーのアドバイスで、母にショートステイをさせることに決めた。支度を整えていたら、残高がゼロになった秋川さん名義の預金通帳と、“娘なんて産まなければよかった。生活の面倒を見てるからってえらそうに!”と、罵詈雑言の書かれた大学ノートを見つけてしまった。
「このままでは、母も自分もダメになる」と感じた秋川さんは、施設に預けることを決意した。
「最初は私の中にも抵抗がありました。親戚や近所の人から心ない言葉をかけられたこともありますが“これ以上口を出すなら、介護費用を出してくださるんですか”と言ったら、何も言わなくなりました。母が施設に入ったら精神的な余裕が生まれ“見守る介護”ができるようになった。施設で面会するようになってからは、同居していたときより気楽に会えていた気がします」
施設に預けたことで、ようやく秋川さんにも、母親にも、笑顔が戻った。
母親の介護を終えて「介護には正解がない。前もって何をしておくのがいいか、わからないから大変なんです。少しも苦しくない介護なんてない」と語る。
「だからこそ、親は元気なうちに、子に“どう死にたいか”を自分から切り出してあげてほしい」
どう死にたいか、そのための費用はどう捻出するか話し合っておくことは、重要な第一歩だと、ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんも言う。
「加えて、認知症の症状と公的介護保険の使い方、地域の支援サービスと相談窓口にはどんなものがあるか、家族で共有しておくと安心できます。
65才以上の高齢者やその家族なら、地域包括支援センターに相談できます。親が住んでいる地域のセンターに問い合わせて、どんな介護サポートがあるのか聞いてみるだけでもいい。サポート内容は地域によって異なるので、元気なうちから把握しておくといいでしょう」(黒田さん)
やってはいけないのは「とりあえず、まずは家族だけで介護してみる」という選択。もたもたしているうちに認知症は進み、お金はなくなり、施設の空きも減っていく。
悩む前に介護のプロや相談窓口を頼って
介護は「まず、プロに相談する」のが鉄則だ。
「“地域包括支援センターに相談したのに、何もしてくれない”という不満を聞くことがありますが、介護の大前提として、過剰な手出しは認知症を進行させるだけで、本人のためにならないのです。何もしてくれないのではなく“何もする必要がなく、見守っている”というケースは少なくありません」(NPO法人となりのかいご代表理事の川内潤さん)
介護サービスや相談窓口は、使えるものがあれば積極的に利用すべきだ。ページ下部の一例も参考に、家族で検討してみてほしい。
「“ひとりでトイレやお風呂に行けなくなったら、施設介護に移行しよう”と考えている家庭が多い印象です。でも、検討する前に『もう限界』と、共倒れしそうになることもあります。そんなときは介護老人保健施設を利用しましょう。一時的に入居できる施設で、要介護1から申し込めて、入居期間は3か月ほど。いずれにしても、見学やショートステイで雰囲気を確かめたり“看取りまでしてくれるかどうか”“重度の認知症になってもいられるかどうか”など、気になることを確認して、元気なうちから検討しておいてください」(太田さん)
介護はプロに任せる。これが、これからの介護の常識だ。家族という“呪い”をといて初めて、本当の意味での親孝行ができるということを、忘れないでほしい。
元気なうちから頼れる!介護のための相談窓口
●地域包括支援センター
高齢者本人だけでなく、その家族の相談にも乗ってくれる。65才以上の高齢者の“よろず相談所”。
●社会福祉協議会
福祉に関する情報を提供してくれる。短期間のボランティアを依頼することもできる。
●保健センター
認知症や介護に関する相談に、保健師などが対応してくれる。
●民生委員
介護や福祉に関する相談に乗ってくれたり、見守りなどの援助活動をしてくれることも。
要介護状態になったら入れる介護施設例
●特別養護老人ホーム(特養)
入居は要介護3から。介護保険適用による施設のため、個室型でも月12万~14万円ほどで済み、一時金もない。ただし、順番待ちになることも多い。正式名称は「介護老人福祉施設」。
●グループホーム
介護保険適用による地域密着型サービス施設。入居者の住んでいる市区町村の施設のみ入居可能。施設ごとに費用は異なる。正式名称は「認知症対応型共同生活介護施設」。
●介護付き有料老人ホーム
「特定施設(特定施設入居者生活介護)」の指定を受けているところなら、24時間体制で介護保険のサービスを受けることができる。
●介護老人保健施設(老健)
リハビリ目的の施設のため、基本的に入居は3か月ほど。介護保険による施設。
●介護医療院
要介護高齢者の中で医療が必要な人のための、長期療養ができる介護保険施設。
教えてくれた人
太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト、黒田尚子さん/ファイナンシャルプランナー、秋川リサさん/女優、川内潤さん/NPO法人となりのかいご代表理事
文/角山祥道 取材/小山内麗香、進藤大郎、土屋秀太郎、平田淳、伏見友里
※女性セブン2023年3月2・9日号
https://josei7.com/
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