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暮らし

ヤングケアラーが明かす心の叫び 追い詰められた体験を振り返って気づいた本当に必要な支援とは

 障害のある母を幼い頃からケアしてきたたろべえさん。高校生のときに綴っていたノートの言葉を振り返りながら、ヤングケアラー時代に抱えていた葛藤を語ってくれた。18才未満の子どもが大人に変わって家族のケアや介護、感情面のサポートをするヤングケアラーである子どもは、そのときどんな心境なのか――。実体験をもとに、ヤングケアラー支援について考えてみたい。

ヤングケアラー時代に綴ったノートより

 写真は高校時代に使っていたノートに残されていたメモだ。

『でも、心は、人間であるという権利(人間としての母の存在は)私が殺した』と殴り書きされている。当時の私は、母のケアをこんな風に感じていた。

 高校時代、毎朝母は目玉焼きを作って食卓に出していた。その目玉焼きはいつも油まみれで、ほとんど油に浸かっているようなものだった。あまりにもひどいときは、食べずに捨ててしまうことも多かった。

 学校から帰ってくると、毎晩、母が作った油まみれの肉野菜炒めが食卓に出されていた。肉も野菜も火が通っていないことがほとんどで、毎日レンジで火を通し直していた。お世辞にもおいしいと言える物ではなかったが、もったいないので嫌々食べていた。たまに自分で作るご飯の方がおいしかった。母には料理を作らないで欲しかった。

 母は掃除も下手だった。汚れている部分を汚れている雑巾で拭き、汚れを広げてしまっていた。洗い物も、油まみれのシンクで、油まみれのスポンジを使ってお皿をなで回しているので、いっこうに綺麗にならなかった。

 母が掃除や洗い物をしても、どうせやり直さなければいけないのだから、最初から何も触らないで欲しかった。

 母が話しかけてくるのも嫌だった。

「今日ね、お父さんがバナナ一本食べたのー!」

 だから何?私は忙しいんだからどうでもいいことで話しかけないで欲しい。母には静かにしていて欲しかった。

「お金ちょうだい!」 と言ってくることもあった。

 子どもにお金をせびらないで欲しかった。自分は自由にコンビニで新発売のお菓子を買うことも放課後に友達とマックに行くこともできるけど、それができない母を可哀想だと思う気持ちはあった。だけど、なんでも子どもに頼らないとできない母を惨めで情けないとも思っていた。

ヤングケアラーは親のできることを奪う?

 母ができないことを代わりにすることは、一見、優しいことだし、母自身も楽できて喜んでいた。でも、私が代わりに家事をし続けると、だんだん母は今までできていたことができなくなってしまう。家事は専業主婦である母の仕事だ。仕事を失った母はこの家で母としての存在価値がなくなってしまう。しかしその方が私は生活しやすかった。

 母はうるさいので黙っていて欲しかった。母にお金をあげるのも嫌だし、買い物や病院へ連れて行ってあげるのも面倒だった。

 私にできることを奪われて、自由に発言もできず、自由に行動もできない母は、果たして人間らしいのか?生きていると言えるのか?

 母に行動させず、しゃべらせず、言動をなかったことにするのは、この世から母の存在を消してしまうようだと感じていた。

 私は母のできることを奪うと楽になるけれど、母のできることと引き換えに自分のできることを増やしていいのかわからなかった。そこまでして私は生きていていい人間なのかわからなかった。

 そんな風に考えていると辛くなってくるので、私も人間をやめて、感情のないロボットになろうとした。

『感情のみが体を動かすのでは無い。感情以外のものも体を動かす事ができるのだ』というのは、どんな感情のときでも、感情によって体が動いているわけではないのだから、とにかくやるべきことをこなせ、という自分自身への命令のつもりで書いた。

 学校の宿題はたくさんあるし、部活もあるし塾にも行ってるし、いちいち母の言動に惑わされずに淡々と生きなければやっていけない。

 そして、母のこともロボットだと思おうとした。

『電気信号のみで動く物体を私は母と呼んでいたのだ。授業参観に来ていたのは、毎日食事を作っていたのは”母”という名前で呼ばれるロボット』

 母は脳を損傷したから、プログラムが壊れてちょっと変わった行動を取ってしまうだけ。それ以上の理由なんてない。

 母はロボットなんだから、毎日毎日私に怒られてばかりでも別につらくなんてない。

 だからこれでいいんだ。

他人に話せない、助けを求めることもできない

 今思えば考えすぎだと思うが、高校時代は本気で自分のことを「肉親さえも手にかける残虐な殺人ロボット」だと思っていた。毎日毎日、ケアに向き合う日々が続いていたことで、そんな感覚に支配されてしまっていたのだと思う。

 醜い自分のことを他人になんて話せないし、助けを求めることさえもおこがましいと思っていた。

「頼りたい」と思ったときに手を差し伸べて

 今はやっと、当時のことを「ノートにこんなこと書いていて、恥ずかしい。ちょっとおかしかったんだわ」と笑って人に話せるようになった。

 ヤングケアラーを支援する立場の大人は、なるべく早く子どもが抱える問題を解決したいと思うかもしれないが、どうか焦らず、子どもが自分から話せるようになったときに手を差し伸べることができる位置で待っていて欲しい。

 ヤングケアラーが、いざ「頼りたい」と思ったときに、話ができる人がすぐに思い浮かぶような支援が広がって欲しい。

ヤングケアラーとは

 日本ケアラー連盟による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。

 令和2年度の厚生労働省の調査※によると、中学校の46.6%、全日制高校の49.8%にヤングケアラーが「いる」ことが判明し、中学2年生の17人に1人がヤングケアラーだということが明らかになった。

 また、厚労省による最新の調査によると、「家族の世話をしている」と回答した小学生は6.5%いるということもわかってきた。

※厚生労働省「ヤングケアラーの現状」https://www.mhlw.go.jp/young-carer/

相談窓口

・厚生労働省「子どもが子どもでいられる街に。」

相談窓口の一覧を見られる。

児童相談所の無料電話:0120-189-783

https://www.mhlw.go.jp/young-carer/

■文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」

0120-0-78310

https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm

■法務省「子供の人権110番」

0120-007-110

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html

文/たろべえ

たろべえさんの顔写真

1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。母は高校通学中に交通事故に遭い、片麻痺・高次脳機能障害が残ったため、幼少期から母のケアを続けてきた。父は仕事中の事故で左腕を失い、現在は車いすを使わずに立ってプレーをする日本障がい者立位テニス協会https://www.jastatennis.com/に所属し、テニスを楽しんでいる。現在は社会人として働きながら、ケアラーとしての体験をもとに情報を発信し続けている。『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)の3章に執筆。
https://twitter.com/withkouzimam  https://ameblo.jp/tarobee1515/

●ヤングケアラー、小6の6.5%という調査結果 当事者が明かす介護「誰にも話せない大嫌いだった母のこと」

●どうして障害のある母は私を産んだ?ヤングケアラーが親の話をするときの複雑な心境

●高次脳機能障害の母が作る料理に困惑したヤングケアラーの本音「必要だったのは一歩先の支援」

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