配信で観るアカデミー賞候補作『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『ドライブ・マイ・カー』など傑作揃い
第94回アカデミー賞授賞式が、いよいよ2022年3月27日(現地時間)に開催されます。中でも、日本映画で初めて作品賞にノミネートされた『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督、西島秀俊主演)には注目が集まっています。その他たくさんの候補作の中から、作品賞にノミネートされた配信サービスで鑑賞できる映画を、『はぁって言うゲーム』などで知られるゲーム作家でライターの米光一成さんが解説します。
配信で視聴可能な4作品を紹介
第94回アカデミー賞作品賞ノミネートの10作品のうち4作品がすでに配信で視聴可能なのだ。日本映画で初めて作品賞にノミネートされた濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』、Netflixオリジナル作品が初めて作品賞を受賞するのではないかと噂される大本命『パワー・オブ・ザ・ドッグ』、レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンスW主演の『ドント・ルック・アップ』、画的な迫力が半端ない10部門ノミネート『DUNEデューン 砂の惑星』。配信で視聴可能な4作品を紹介する。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』:ベネディクト・カンバーバッチの新境地
作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚色賞など最多の11部門12ノミネートである。1925年のアメリカ北西部モンタナ州が舞台。カウボーイを率いる「男らしい」兄のフィル(ベネディクト・カンバーバッチ)と、牧場の事務担当でスーツ姿の弟ジョージ(ジェシー・プレマンス)、弟の妻となるローズ(キルスティン・ダンスト)と、息子のピーター(コディ・スミット=マクフィー)。主要登場人物はこの4人。美少年ピーターが作ったペーパーフラワーを西部劇の生き残りのようなフィルが燃やす場面から、緊迫感で破裂しそうな人間関係の変化を緻密に積み重ねていく。それぞれが隠していた真実とやり口がじょじょに判明していった先に突如訪れるクライマックスに驚愕して、すぐさま再度観直してしまう傑作だ。監督は『ピアノレッスン』のジェーン・カンピオン。Netflixオリジナル作品。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、キルスティン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディ・スミット=マクフィー原作:トーマス・サヴェージ 監督脚本:ジェーン・カンピオン
『ドライブ・マイ・カー』:作品賞ノミネート、日本映画史上初の快挙
日本映画で初めて作品賞にノミネートされたのが濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』。原作は、村上春樹の短編。チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を異なる言語の持ち主が演じる舞台のオーディションから、本読み、稽古、本番までを描く「メイキング・オブ・ワーニャ伯父さん」であり、そこに村上春樹の短編を絶妙に織り交ぜ、さらにそのうえで濱口節を炸裂させる。感情を抜いて棒読みをするところから自然な演技に進んでいく舞台と、演劇化していく日常の発話という奇妙な構造を成り立たせるディテールも見事。表情豊かな韓国手話を使うイ・ユナ(パク・ユリム)と、エレーナ(ソニア・ユアン)が平和記念公園で野外稽古する場面も素晴らしい。演劇映画であり、車映画(赤のサーブ900!)であり、コミュニケーションの映画であり、広島の映画でもあって、さまざまな視点から語り得る傑作。作品賞のほか、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の4部門ノミネート。U-NEXT、AmazonPrimeで配信中
『ドライブ・マイ・カー』
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン 原作:村上春樹 監督:濱口竜介
『ドント・ルック・アップ』:ディカプリオとジェニファー・ローレンスW主演
『バイス Vice 』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・マッケイ監督脚本のブラック・コメディ『ドント・ルック・アップ』。惑星が地球に衝突し、6ヶ月後には人類が滅亡することを報せようとする2人の天文学者をレオナルド・ディカプリオとジェニファー・ローレンスが演じる。まともに聞く耳を持たない政治家やメディアによって歪んで伝えられ、世界は分断されていき、大混乱。登場する人物すべてが愚かで収拾のつかないドタバタ劇なのだが、まさに今の世界の戯画であり似姿である恐ろしさよ。作品賞、脚本賞、編集賞、作曲賞の4部門でノミネート。これまたNetflixオリジナル作品。
『ドント・ルック・アップ』
出演:レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス 監督脚本:アダム・マッケイ
『DUNEデューン 砂の惑星』:SF小説の傑作がついにガッツリ映像化
『メッセージ』『ブレードランナー2049』のドゥニ・ビルヌーブ監督が、1965年のSF小説を映画化。長い原作を無理して縮めることはせず、155分で前半までを描いて「続く」のだ。西暦1万190年の未来、香料メランジの唯一の生産地である砂の惑星を巡って、それぞれの大領家たちの陰謀と政治がうごめく『アラビアのロレンス』+『鎌倉殿の13人』+『風の谷のナウシカ』な映画。なにしろ画がカッコいい。巨大宇宙船、巨大なサンドワーム、羽ばたき飛行機の見せ方はもちろん、シールドや、暗殺器、サンドワームをおびき寄せるサンパー等、小道具も魅力的だ。U-NEXT、AmazonPrimeで配信中。
『DUNEデューン 砂の惑星』
出演:ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン原作:フランク・ハーバート 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
『tick, tick…BOOM!:チック、チック…ブーン!』などまだまだ観られる!
作品賞ノミネートは全10作。他にケネス・ブラナー監督作品の『ベルファスト』、ウィル・スミス主演・製作『ドリームプラン』、 ポール・トーマス・アンダーソン監督の青春映画『リコリス・ピザ』、フランス映画『エール!』のリメイク『コーダ あいのうた』、スティーヴン・スピルバーグ監督『 ウエスト・サイド・ストーリー』、ギレルモ・デル・トロ監督『ナイトメア・アリー』がある。
その他の賞のノミネート作品にも、配信で観られるものが多数ある。
アンドリュー・ガーフィールドが主演男優賞ノミネート、Netflix配信『tick, tick…BOOM!:チック、チック…ブーン!』は、名作ミュージカル『RENT レント』の作曲家ジョナサン・ラーソンの自伝ミュージカルを映画化。
ハビエル・バルデムが主演男優賞ノミネート、ニコール・キッドマンが主演女優賞ノミネート、AmazonPrime配信『愛すべき夫妻の秘密』は、人気シットコム『アイ・ラブ・ルーシー』の舞台裏を描いたアーロン・ソーキン監督脚本作品。
デンゼル・ワシントンが主演男優賞ノミネート、Apple TV+配信『マクベス』は、デンゼル・ワシントンとフランシス・マクドーマンド主演、ジョエル・コーエン監督がシェイクスピアの戯曲を映画化した作品。
まだまだある。ノミネート作品をチェックしておけば、アカデミー賞発表もさらに楽しくなるだろう。ぜひ。
文/米光一成(よねみつ・かずなり)
ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「変顔マッチ」「あいうえバトル」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。