人生最後の片づけが難しい3つの理由。モノを捨てられないのは寂しさの裏返しか
老後に備えた身辺整理の最大の敵は「思い出」。誰しも、なつかしさや寂しさでつい手が止まり、結局は捨てられずじまい、という経験はないだろうか?そもそも、なぜ「人生最後の片づけ」は難しいのか…。その理由について、精神科医の保坂隆さん、片づけヘルパーの永井美穂さんら専門家に聞いた。思い出の品を捨てるのが難しい背景を知り、改めて身辺整理に向き合いたい。
「人生最後の片づけ」が難しいのはなぜ?
連れ合いや子供に迷惑をかけないよう、自分の身の回りを整理してから旅立ちたい。人生の折り返しが始まると、多くの人がこんなことを考えるようになるはずだ。財産分与や葬儀に関することは、めんどうだが、手続きさえ終わらせてしまえばなんとかなるもの。
1.思い出の品に折り合いをつけるのは難しい
しかし、気がかりなのは、終の住処にあふれかえる「モノ」のこと。暮らしにくいのはもちろんのこと、自分がこの世を去った後、子供や孫に整理させることになるのも気がかりだ。こればかりは、正解が1つではない。なにせ、日用品や洋服だけでなく、「思い出の品」まで、折り合いをつけて片づけなければならない。「人生最後の片づけをするぞ!」と意気込んでみても、どうしていいかわからない。
2.モノを捨てる=喪失感を味わうこと
そもそも、なぜ「人生最後の片づけ」は難しいのか。
『精神科医が教える 心が軽くなる「老後の整理術」』などの著書を持つ精神科医の保坂隆さんによれば、「モノを捨てる」ことは「喪失感」に直結するという。
「どんな人にとっても、モノを捨てる=喪失感を味わうことです。思い出の詰まった品や大切な人からもらった品は、いわば“自分自身の一部”。モノを捨てるのは体の一部を捨ててしまうことと同義です。年を取れば、思い出もモノも増えるのは当たり前のこと。喪失感が埋まらないかぎり、モノを捨てるのには苦痛が伴います」(保坂さん)
自分の家を「ゴミ屋敷」にしてしまう人は、多くがひとり暮らし。その人たちがあれほどまでにモノに執着するのは、寂しさの裏返しの場合が多いと、保坂さんは続ける。
3.自分ひとりのための片付けは意義を見い出しにくい
一方、『親の健康を守る実家の片づけ方』の著者で、日本初の「片づけヘルパー」として活動する永井美穂さんは、年齢を重ねた女性には、寂しさのほかにもう1つ、特有の理由があるという。
「例えば、若い頃はきれい好きだった母親が、子供が独立した後、急に片づけられなくなるといったケースは多い。これは、いまの高齢の女性が育ったのは、“自分を犠牲にして夫や子供に常に尽くすことが美徳”とされていた時代だったため。家族の誰かのために片づけることは得意でも、自分ひとりのためだと思うと、意義を見出しにくいのです」(永井さん)
元気なうちに「片づけ」は済ませるべき
とはいえ、元気なうちに「人生最後の片づけ」を済ませておくことは、自分のためのみならず、残される子供たちのためでもある。老前整理コンサルタントの坂岡洋子さんが言う。
「年を取ったら、いつ動けなくなるかわかりません。明日転倒してけがするかもしれない。そうなってからでは、大がかりな片づけはできません。
実際、親の遺品整理をした人は皆、“自分の子供にはあんな思いをさせたくない”と語ります。親を失ったショックが癒えないまま、親の残した膨大な荷物を片づけるのは、想像以上に心身をすり減らす大変な作業なのです」
体が元気に動くうちに、「人生最後の片づけ」を終わらせてしまおう。
教えてくれた人
保坂隆さん/精神科医、永井美穂さん/片づけヘルパー、坂岡洋子さん/老前整理コンサルタント
※女性セブン2021年4月22日号