中尾彬・池波志乃夫妻「終活って新婚に戻る感じ」
親を看取り、子供も巣立ち、いよいよ人生の後半戦。再びふたりに戻った夫婦の前に立ちはだかるのが“終活”だ。家のこと、思い出の品、お墓のこと、お金のこと…それらに頭を悩ませる人、けんかする人は数知れず。
そんな熟年夫婦の間で、中尾彬と池波志乃が先ごろ刊行した『終活夫婦』(講談社)が話題を呼んでいる。芸能界きってのおしどり夫婦が行っている、人生を楽しむための"終活"とは――。
遺言状は、残る人のためにも必要
彬:5年前にふたりで遺言状を書いたんだよな。
志乃:あとで揉めないようにしておくことが大事かなって思ってね。自分がいなくなった後に、舌打ちされるのは嫌じゃない?
彬:昔、伊丹十三監督の映画に『お葬式』っていう作品があったけど、あれは大ヒットしたね。人が死ぬってことは、「あぁ、こういうことだったのか…」と。悲しんでばかりはいられなくて、容赦なく事務的なことが次々起こる。死んでしまったらもう、自分の意思は伝えられない。だから遺言状は、残る人たちのためにも必要なんだ。
志乃:そう、責任だよね。だからお墓もちゃんと決めておく。
彬:今や、ロッカーのようなコンパクトなお墓もあるしね。
志乃:散骨は託された人の負担が大きいし、大変な思いをさせるでしょ。もし、お墓が建てられなくても、コンパクトなお墓を自分で見つけて、自分の意志で「気にしないでここに入れてね」って、生前に伝えておくのは大切なことだと思う。
元気なうちに、あとどれだけ楽しめるかを考えた方がいい。終活は死ぬための準備じゃない、楽しむための準備をしているんだから。けんかをしていたら、つまらないじゃない。
彬:たとえば、捨てるものを整理している時に、旅先で買ったお土産品を見て、「あの時の旅行楽しかったよね」という思い出話から、「じゃあ、またふたりで行ってみようか」っていう話になったり、また新たな楽しみが広がっていく。
志乃:「次、どこに行こうか?何を食べようか?」って、いつもふたりでワクワクしてる。旅に出るには、身軽にしておく必要があったから自然と(千葉県木更津市の)アトリエや(沖縄の)別荘も手放せたのね。
終活へと導いた父と母の教え
彬:志乃がそういう(終活をする)発想になったのには理由があるんだよな。
志乃:そうね、父(十代目金原亭馬生)は54才、私たちが結婚して4年目に亡くなっているので、早くから死について考えていたかもしれないわね。母は若い頃に夫を亡くして、さらに両親を自宅介護で看取って…、ひとりできちんと自分の身を終った女性。そんな背中を見ていたので、人の“最期”をずっと意識してきたのかも。今となれば、早くから終活について考えるチャンスをもらったんだと思う。
彬:普段の生活の中に、親父とお袋の教えはある。毎日の暮らしの中で、していいことといけないことは、教えてくれたんだよな。そういうことは、学校では教えてくれないからね。
志乃:そうね。最後まで私たちが捨てられないものって、結局“父の言葉”かしら。
彬:え? おれじゃなかったの??(笑い)
終活をして新婚時代に戻ろう
志乃:実は“終活”という言葉は、私たちにはちょっと違うのかなって思っていて。人生最後の、もう1回夫婦で楽しむための“新しい活動”だから。終活をしていると、また新婚に戻る感じがするわよね。
彬:うん、おれたちの原点に戻るというか…41年、今まで一緒にやってきたからこそ、そう言えるよな。
志乃:終活中には「ほら、あんなもの! あの時反対したのに!」とか、絶対に言っちゃダメね。
彬:ふふ、なんだか言い慣れていない?(笑)
志乃:役者だからね(笑い)。せっかくここまで一緒にいて、終活をする夫婦にまでふたりでたどり着いたんだから、今こそ気を使うべきだと思うの。若い頃は気を使わなくていいんですよ。どうせ気なんて使えないんだから。それよりもお互いを知るためになるべく自分をさらけ出した方がいい。でも、今こそ、長く一緒に寄り添ってきたからこそ、気を使うべき。
彬:すごいねぇ、志乃。…感心しちゃう。
志乃:うふふ、偉そうだった?
彬:うん(笑い)。
撮影/寺澤太郎
※女性セブン2018年6月7日号
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