唾液の力を高めて感染予防、免疫力UP…唾液が増える食べ物は?
長引くコロナ禍で、マスクで口元を隠して生活するのが当たり前になった。しかし、目に見えないウイルスは、マスクの隙間からでも簡単に入ってくる。諦めずに、最後の砦となる「唾液」を鍛えてみてはいかがだろうか。唾液の量と質を高めれば、あらゆる病気を退けられるかもしれない―眉唾ではない、本当の話。
ウイルスの感染予防に注目の「唾液力」
9月24日、25日にかけて、東京都の新型コロナウイルスの感染者数が2日連続で100人を上回った。今後はインフルエンザの同時流行も懸念され、油断ならない状況が続くとみられる。
マスクや手洗い・うがいなどの対策はもはや当たり前。これ以上、何をすればいいのか。これはという特効薬が見つからないいま、注目したいのが、自己免疫力、つまり「唾液」の持つ力だ。
唾液の働きとは|感染予防や免疫強化に
1.免疫効果
まず注目すべきなのは、唾液の免疫効果だ。神奈川歯科大学教授の槻木(つきのき)恵一さんが解説する。
「唾液の99%は水でできており、残り1%には、健康に役立つ成分が100種類以上も含まれています。なかでもIgAは、感染症から体を守ってくれる免疫物質。
インフルエンザなどさまざまなウイルスや菌が粘膜から体内に入るのを防いで、体を守ってくれることがわかっています。新型コロナとの関係性はまだ明らかになっていませんが、ウイルスである以上、予防効果は期待できます」
2.自浄作用、誤嚥性肺炎感染予防に
感染予防においてもう1つ忘れてはいけないのは、口の中を洗い流す自浄作用だ。
「唾液には、口の中を清潔に保つ作用があります。食べかすやウイルスを洗い流すことによって、誤嚥(ごえん)性肺炎などの感染症予防にも役立ちます。
カルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分も含まれており、これが歯の表面に沈着することで、ごく初期の虫歯であれば修復もできます」(槻木さん・以下同)
3.細胞を活性化、認知症予防にも
さらに、唾液には細胞を活性化させる「グロースファクター(成長因子)」という物質も含まれる。
「グロースファクターの中で最も有名なのは『上皮成長因子』。粘膜や皮膚の表層細胞を活性化させる。これにより、“唾液によって傷が治りやすくなる”という論文も発表されています」
「このくらいの傷、つばをつけておけば治るよ」というのも、あながちウソではないということだ。さらに、グロースファクターには、認知症やうつ病の予防に役立つものまである。
「神経細胞を成長させる『BDNF』は、脳の健康維持やストレス耐性に欠かせません。これが減少するとうつや認知症の発生リスクが高まるとされています。また、神経成長因子『NGF』は、脳の老化を抑えて若返りを促します。コラーゲンやヒアルロン酸の生成を助けて、肌の老化を防ぎ、美白効果をもたらす作用もあります」
唾液が減るとどうなる?
ドライマウスのチェックを
まずは、下記の項目をチェックしてみよう。1つ以上当てはまれば、唾液が少ないドライマウスの可能性あり。3つ以上当てはまる場合は、歯科などの受診をおすすめする。
□口の中が乾く、カラカラする。
□水をよく飲む、水をいつも持ち歩いている。
□夜中にのどが渇いて目が覚めることがある。
□クラッカーなど、水分の少ない食べ物が苦手。
□食べ物が飲み込みにくい。
□口の中がネバネバする、しゃべりづらい。
□味がおかしいと感じる。
□義歯で口の中を傷つけることが多い。
参考:柿木保明「口腔乾燥症の病態と治療」(日補綴会誌Ann Jpn Prosthodont Soc7:136-141,2015)
唾液が少ないとどうなる?
明海大学保健医療学部教授で小児歯科医の渡部茂さんによると、ただ食べ物を歯で噛み砕くだけでは、飲み込むことはできない。
「充分な量の唾液と食べ物が口の中で混ざり合って粘性のある“食塊(しよくかい)”がつくられないと、うまく飲み込むことはできないのです」(渡部さん・以下同)
誤嚥性肺炎や高血圧に…
あやまって気管に食べ物が入ると、誤嚥性肺炎の原因になる。さらに、唾液の量が少ないと、高血圧にもつながりかねない。
「例えば、キャラメルは舌の上に置いただけでは味を感じることができません。噛むと同時に唾液が分泌され、唾液に溶けたキャラメルが舌にある『味蕾(みらい)』にしみ込むことで味を感じられる。唾液の量が少ないと味蕾への刺激が足りず、味を充分に感じられないため、濃い味つけを好むようになります」
虫歯の原因にも
歯を守るのも唾液の役割の1つ。オレンジジュースやコーラ、梅干しなど、酸性の強いものは歯を溶かすが、中性~アルカリ性の唾液は、口の中を中和してくれる。酸っぱいものを食べると唾液が出てくるのは、口の中を守るための防御本能なのだ。
「通常の食生活を送っていれば歯が溶けることはありませんが、酸から歯を守り切れないこともある。疲労回復にいいからと、毎日梅干しを5~6個食べていた人は、歯の表面が溶けていました」
唾液の分泌には日内リズムがあり、午後2~3時が最も多く、就寝中はゼロに近づく。
「それに伴って唾液の中和力も下がるので、寝る前の歯磨きは、虫歯だけでなく、誤嚥性肺炎などさまざまな病気の予防につながるのです」
唾液量を増やすには?
具体的に、“唾液力”を高めるにはどうすればいいのか。渡部さんは「唾液力=唾液の量」だと話す。安静にしているときの唾液は1分間に0.3ml程度。自分の唾液が多いか少ないかは、紙コップを使って量ることができる。
「まず紙コップの重さを量ります。その後、鼻呼吸しながら前傾姿勢で紙コップを口に当てます。1分ほど経つと自然と唾液が出てくるので、そのまま5分待ち、口の中にたまった唾液をすべてコップに吐き出してから重さを量ります。そこから紙コップの重さを引いて、それを5で割って1分間の唾液量を出してください。0.3~0.4mlより多ければ、充分な唾液量です」
噛む回数を増やす
一般的に、「年を取ると唾液量が減る」といわれているが、渡部さんいわく、加齢による唾液腺の萎縮よりも、降圧剤や精神安定剤などを服用している場合、その副作用によるものが大きいという。唾液量を増やすには、何よりも“噛む回数を増やすこと”だ。
「噛むことで唾液が出るのはもちろんのこと、何もしなくても分泌される『安静時唾液』よりも、噛んでいるときに出る『刺激性唾液』は強いアルカリ性なので、酸を中和する力が強い」(槻木さん・以下同)
ガムを噛む・ゆっくり咀嚼する
ガムなどを噛むことで、常に質の高い唾液が出るようになるというわけだ。食事のときにゆっくり咀嚼(そしやく)するくせをつけるのもいい。
「ご飯なら、ひと口15~20秒以上かけて飲み込んでください。食材を大きめに切ったり、歯ごたえのあるものを混ぜたりするのもいいでしょう」
唾液量を増やして唾液力を高める食べ物は?
ビタミンCやコエンザイムQ10を含む食品やサプリ
唾液量を増やす食べ物もある。アンチエイジングにいいとされる「抗酸化食品」だ。
ビタミンCやポリフェノールを含む食品のほか、コエンザイムQ10のサプリメントには、摂取することで唾液量を増やす効果がある。 ビタミンCは秋に出回る柿やれんこんに、ポリフェノールはブルーベリーや緑茶、豆類などがいい。
槻木さんは、唾液そのものの量に加えて、「IgAの量」も重要だと話す。
「唾液中のIgAが少ない“弱い唾液”の持ち主だったとしても、唾液そのものの量が多ければカバーできます。『腸唾液腺相関』といって、腸の状態がいいと唾液の状態もよくなることがわかっています。下痢や便秘がなければ、唾液には充分なIgAが含まれていると思っていい」
納豆+アボカド、ヨーグルト+バナナ
IgAは腸内環境が乱れていると減少し、腸内環境を整えることで増えるという。
「発酵食品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌などは、食物繊維をエサに増えていき、腸内環境を整える。発酵食品と食物繊維を混ぜて、一緒に摂ると効果的です。例えば、納豆には食物繊維が豊富なアボカドを混ぜて、ヨーグルトにはバナナを入れるなど。アボカドやバナナは、食物繊維だけでなく抗酸化ビタミンも豊富です」
さらに、腸内環境を改善するには、運動も忘れてはいけない。
「ただし、激しい運動は逆効果。ストレッチやウオーキング程度の軽い運動がベストです」
乾燥しやすくなるこれからの季節は、“唾液力”がモノを言う。
教えてくれた人
槻木(つきのき)恵一さん/神奈川歯科大学教授、渡部茂さん/明海大学保健医療学部教授・小児歯科医
※女性セブン2020年10月15日号
https://josei7.com/