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兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第52回 おうちでZoom」

 雑誌などの取材、原稿執筆などを生業としているツガエマナミコさんは、若年性認知症を患う兄と2人暮らしをしている。コロナ禍では、ほぼ家でのみ生活する兄との時間にも変化があったという。今回は、ツガエさんの新たなチャンレジとそれを見守る兄のお話だ。

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

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 * * *

文明の力「WEB会議システム」を導入

 我が家ではときどき玄関に常備している男物のサンダルが、ひとりでにベランダやリビングのゴミ箱に移動するという怪奇現象が見られます。兄は「え~、いつの間に?」と驚いておりますが、わたくしはもうその程度のことには動じなくなりました。ツガエでございます。

 新型ウイルスは、人々の生活からいろいろなものを奪いましたが、日常の当たり前がいかにありがたかったかを知れたのは収穫だったのではないでしょうか。そして、わたくしにとりましてはZoom(WEB会議サービス)という文明の力を得たことが大きな変化でございました。

 思えば原稿用紙手書きから始まったフリーライター生活でございます。その後ワープロだ、フロッピーディスクだ、パソコンだ、携帯電話だと進んできましたが、ここ10年ぐらいは停滞し、ガラケーでLINEもやらないアナログ人間として生きてまいりました。

 もう新たな文明は必要ないとさえ思っていたのですが、このコロナ禍で必要に迫られ、老脳にムチ打ってなんとか獲得したのがZoomでございます。

「Zoomの始め方」という動画を、昼夜を問わず何度も拝見いたしました。「たったこれだけ、とっても簡単!」と画面の中の方はおっしゃるのですが、時代遅れの中高年には、たっぷりと脳汗をかく作業でございました。もう3年以上愛用している自前のパソコンにカメラやマイクが内蔵されていると知ったときの感動はもはや胸キュン。「え?アナタそんな素敵なパソコンだったの?」と思わず抱きしめたくなりました。

 でもいざパソコンの画面に自分の動画が映し出されると、下ぶくれで顔色が悪く、鏡で見るのとはまた違った気持ち悪さがございます。録音で自分の声を聴くときの、あのいや~な感じに似ております。おまけに画面には生活感あふれる部屋も映り込んでしまうという二重苦。映る範囲だけでもスッキリとさせなければいけない手間もかかりました。

 Zoomで取材をする際は、顔映りを少しでも良くするため、リビングの大窓からの自然光がほしいので、兄には自室にこもっていただいております。

 当然Zoomを知らない兄には、なんのこっちゃわからず、「え?顔が映るの?テレビに出るってこと?」とか「何時に来るの?」「何人ぐらい来るの?」と質問攻めにあいます。いろいろ説明して「へぇ~すごいね」と落ち着いても、またしばらくすると「何時に来るの?ワタシどうすればいい?」とオタオタ。「誰も来ないから心配しないで。でもお仕事だからしばらく部屋に入ってておくんなまし。終わったら言うからそれまでお願い」というやり取りが毎回のように行われます。

 正直、家に居るテンションと仕事のテンションは違うので、Zoom取材はやりにくいものです。実際に会うことでわかる雰囲気やその場の空気感がZoomでは得られないのも不満要因です。

 でも、交通費やお茶代などの経費がかからず、移動時間0分で遠方の人ともお話しができるのはとても便利でございますから、これからはコロナ禍に関係なくリモート仕事が増えそうです。

 今度こそ本当に「もうこれ以上の文明は必要ない」と思っておりますが、数年後にはさらなる発明品が現れて、必要に迫られるのかと思うと恐怖でしかございません。

 今回同じ時期にZoomを始めた同年代のライター同士ではこんな会話をしております。

「Zoom導入、頑張りましたね、私たち」
「ほんとほんと自画自賛ですわよ」
「でも何が嫌って自分の顔見ながら取材、やりにくくない?」
「ああ、わかる…。自分の顔が気になってお話しが入ってこない!(笑)」

 動画慣れしている現代っ子にはなんの抵抗もないのでしょうね。彼らが50~60代になる頃には、介護の在り方も変わっているのでしょうか。認知症なんて治る時代になっているといいのですけれど…。

つづく…(次回は8月6日公開予定)

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

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