【世界の介護】福祉大国スウェーデン「制度を越えた暮らし方」
美しい北欧の国として、日本人にも人気の高いスウェーデンは、「高福祉だが高負担の国」と呼ばれている。国民全員が、必要となれば手厚い介護を受けられる半面、収入の半分近くを税金として支払うため、裕福な人は意外と少なく、ほとんどの家庭が定年まで夫婦共稼ぎという状況だ。とはいえ、身銭を切って支払われた税金により、世界的に見本となる福祉制度の先陣を切ってきた。
世界各国で高齢者施設を取材してきた、ジャーナリストで社会福祉士の資格を持つ殿井悠子さんが、ユニークな取り組みをしている海外の高齢者施設を紹介するシリーズ。今回はスウェーデンにある『3つの財団』を紹介。
日本のシニアライフの未来を考える。
制度に合わせて変化した施設
スウェーデンの医療福祉の分岐点は、1992年に国が実施した「エーデル改革」。この改革では、それまで身体の状態によって施設を転々とさせられていた高齢者を、「状態が変化しても同じ場所で住み続ける」ことを目標に、ばらばらだった福祉の財源や運営などの権限をコミューン(市町村)に移行した。その結果、病院の延長のような相部屋のナーシングホームは閉鎖し、個室の高齢者施設が増設され、自宅を建築する際もバリアフリーの設計が奨励されるようになったのだ。
『3つの財団』とは財団が3つあるということではなく、スウェーデンで2番目に大きな都市である、ヨーテボリ市から委託されて高齢者特別住居を運営する1つの団体の名称だ。
高齢者特別住居は従来の療養型施設とは異なり、24時間介護職員が常駐しているものの「住まい」というカテゴリーに属しており、賃貸法の対象であるため住宅手当の支給対象になる住居。
入居者数360名に対し、360名のスタッフでケア
財団の設立は1726年にさかのぼる。当時は「貧民高齢者への救済施設」という慈善事業を行っていたが、国の政策に合わせて形を変えていき、現在は慢性疾患用、認知症用、老人精神病用の3タイプの棟を持つ施設を運営している。
3施設の総入居者数360名に対し、スタッフは総勢360名と手厚いことが特長。一日のケア料金は、人件費、総務費、食費、リハビリ費、その他の費用で約1000クローナ(約1万3420円)、家賃は約200クローナ(約2680円)。
ヨーテボリ市に税金を納めている市民が入居することができ、ケア料金の約95%が税金により賄われる。また、「経済的な理由で施設ケアを受けられないことがないように」という国の方針もあり、入居者の約40%がそこからさらに割引された、95%以上の援助を受けたケア料金で利用している。
行政の負担が大きいため施設に入れる条件はかなり厳しく、入居者のほとんどは、要介護度がかなり高い人たちだ。そのため、入居後の平均寿命は長くはない。
財団でユニットチーフを務めるマーリン・スヴァンバリさんは、こう話す。
「この国の介護では、各専門家の職務内容が法律で細かく決められ、提供するサービスが必要かどうかを市の職員が審査します。『徹底して決められた“制度”という枠の中で、どういうケアをするのが、一番その人らしく暮らせるのか?』施設で働く私たちは、この視点を何より大切にしています」(マーリンさん、以下「」内は同)
財団では制度の変遷に合わせて、“してあげる介護”から“させていただく介護”へと、スタッフの意識を変えていくために、ハード面での改革を最初に手掛けたという。