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認知症高齢者と学童保育の共存、幼老複合施設がもたらす効果とは

子供と高齢者はお互いを認め合っている

 多世代交流施設とは、高齢者介護と学童保育を併設したもの。ユーカリ優都ぴあは、学校の授業を終えた60人程度の小学生を預かる託児施設と、18人の高齢者が居住するグループホーム(集団生活型介護)を合わせた施設だ。

 学童保育に登録された子供たちは、学校が終わると自宅に帰る前に施設を訪れる。グループホームを利用しているお年寄りに「ただいま!」と声をかけ、高齢者たちは「おかえり!」と返事をする。ひと声かけ終われば、子供たちは外で遊ぶなり、室内でゲームをするなり自由に行動。高齢者たちもやはり自分の好きなように、遊ぶ子供たちを眺めたり、一緒に遊んだり、テレビを見たりして過ごす。

 この光景は、各家庭での祖父母と孫の過ごし方と似ている。お年寄りと子供たちは、施設職員が特にイベントを提供しなくても、ごく自然に交流しているのだ。

 保育士と介護士の資格を持つ、学童施設担当の高橋直美さんはこう語る、

「長年、子供たちと認知症のお年寄りに接してきた経験では、両者は似ている点があると感じています。子供は、好き嫌いの感情はあるにせよ、お互いの存在をあるがままに認めてしまいます。認知症のお年寄りも同様なんです。好き嫌いはともかく、その場に存在することを疑いもなく許容するんですね。子供たちは、自分のすべてが受け入れられていることを、肌身でわかっていると思います。お互いの社会的立場を取り除いて自由に純真に、他人と接することができるんですね」

 高橋さんによれば、子供たちは「評価社会」の真っ只中にいるという。

 子供たちは普段から言動で注意され、成績で区別されている。ところが、施設の高齢者たちは、そうした目で見ることは決してない。子供が目の前に来たら分け隔てなく頭をなで、おやつを分けあったりする。あいさつができればほめ、騒がしすぎれば叱る。対応があまりに自然なため、子供たちは「自分たちの遊び場に高齢者がいる」ことに違和感を覚えていないのだ。

 では、高齢者のほうはどうか。

 このグループホームで生活しているのは、70~100歳代の軽度~中等度の認知症の高齢者だ。18人の高齢者はそれぞれ個室を持ち、共有スペースでは持ち回りで料理をしたり洗濯をしたりしている。普段は高齢者同士でおしゃべりをしたり、テレビを見たりして静かに過ごしているが、子供たちがやってくる夕方になると、とたんに施設内はにぎやかになる。

「ユーカリ優都ぴあ」の介護士で、ケアマネージャーの資格を持つ職員の鈴木直人さんはこう話す。

「認知症の人は何度も同じ話をします。ところが、子供たちはけっしてそれを嫌がっていないんですね。認知症を病気だと思わす『個性』だととらえているフシがあるんです。だから、子供たちは何度でも同じ話を聞きにきます。当施設の高齢者の方々にとっては、子供は日常生活におけるスパイスのような存在です。淡々と生活している場に、毎日子供たちが現れることで、よい刺激になるようなんですね」

 鈴木さんは高齢者と子供の面白いエピソードを紹介してくれた。

 101歳になる施設最高齢者の女性が子供たちからの人気が高いだけでなく、いつの間にか縁起担ぎの対象になってしまったというのだ。

「『おばあちゃんと話すと100点が取れる!』 という話が広まったんです。おそらく100歳を超えているから100という数字に掛けたのでしょう。ところがその女性は認知症なので、自分の年齢をよく間違えるんですね。85歳だったり、92歳だったり。そのため、子供たちが『100点じゃないの!?』『じゃあ何点?』と、一喜一憂する顛末となりました」

認知症の周辺症状が悪化しない

 子供たちと認知症のお年寄りたちはトラブルもなく交流し刺激しあっているというが、「幼老複合」ならではの効果はあるのだろうか。

「ときどき認知症のBPSD(認知症の周辺症状。暴力・暴言や徘徊など)で情緒不安定になって、他の利用者や職員に怒鳴りちらす人がいます。ところがBPSDが強い人であっても、子供たちには絶対に怒鳴ったり理不尽な怒りをぶつけたりしないのです。効果といえるかはわかりませんが、不思議なことだと思っています」

 認知症や老人性うつなど高齢者の精神疾患にくわしい、ストレスケア日比谷クリニックの酒井和夫院長(精神科)は、こうした言動にについて、

「認知症、特にアルツハイマー病の患者さんではBPSDとして暴言や暴力、妄想、介護拒否などが目立ちます。理性で抑えていた感情が抑えきれなくなるのです。ところが『子供には怒らない』というのは、まだまだ理性が残っているといえます。重度になるとこうした理性は働かなくなりますから。子供への暴言がない状態が維持されているということは、幼老複合ケアは認知症患者の周辺症状に、一定の効果があったと考えていいでしょう」

 と、分析する。大阪市立大でも2009年に「幼老統合ケアに基づく世代間交流プログラムの開発と実践に関する総合的研究」を発表し、高齢者に生き甲斐と自尊心が生まれたという結果を報告している。

 認知症の家族を老人ホームなどに預ける場合、こうした幼老複合施設を選択肢のひとつとして考えてみてもいいでのはないだろうか。


【施設データ】
施設名:ユーカリ優都ぴあ
公式WEBサイト:http://www.yutokai.com/facility/yutopia.html
所在地:千葉県佐倉市青菅1023-6
最寄駅:山万ユーカリが丘線「中学校」駅 徒歩10分
類型:認知症対応型共同生活介護(グループホーム、学童保育所併設)
運営主体:社会福祉法人ユーカリ優都会(山万グループ)
居室数:18室(18床 全個室2ユニット)
定員数:18人(学童保育所の定員は小学校1年生~6年生までの60人)
入居要件:利用者本人の住民票上の住所が佐倉市にあること。医師から認知症であると診断を受けていること。要支援2以上の認定を受けていること。※生活保護を受けている方は利用不可
料金(1か月):基本使用料(1か月)13万2600円(家賃6万6000円、食材料費4万8000円、水光熱費1万8600円)
※要支援・要介護度により基本使用料に利用者負担が加わります
支払い方式:入所一時金及び施設協力金は入所時一括払い

 撮影/伊藤幹 取材・文/中江文一

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