猫が母になつきません 第442話「ひさしぶり」
先日、訃報が届きました。東京にいたころ一緒にお仕事をさせていただいた方で、まだ60代なのに心筋梗塞での急な死でした。なんの根拠もなくまたいつか必ず会えると思っていました。私が実家に戻ってからも毎年かかさず年賀状をくださっていました。大家さんちの桜を見ながら、東京もまだ桜が残っているみたいだから、桜吹雪に送られていくのだなと思いました。またいつか会えると思っていた人ともう会えない…そんなことがきっとこれからどんどん増えていくのでしょう。
「いつか」というのはある程度遠い将来のことであって、私の「いつか」はあとどのくらいあるのだろう、と最近は思います。いつかいつかと思いながらきっと何もしないうちに死んでいくんだわ、そうよ、そうよ。どーせそうよ。体力も根気もなくなってくるせいか、歳をとるとあきらめがよくなります。会社員でもなく「高齢者一人暮らし」だと人間性に関係なく社会的信用は地に落ちているので「やりたくてもできない」ことも多く、諦めざるを得ない現実にも直面します。介護で仕事の第一線を離れた人は、60代とかで親を見送ったあとに何かを始めようと思っても苦労することが多いのではないでしょうか。人生100年時代ならまだ半分近くも残っているのに。
ひさしぶりに外に出たさびは鼻を高くあげてくんくんと外の風の匂いをかいでいました。実家にいたときは庭に出していたので木に登ったり、とかげを捕まえたり、自然児だったさび。私と一緒に庭を歩くのも好きだった。いつか田舎の古民家にでも引っ越してまたさびが外で過ごせるようにしてあげたいな。私は野菜を作ったり、梅の木もあるといい。裸足のまま庭に出てさびをつかまえて、桜を見上げながらそんな「いつか」を夢想しました。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母と暮らすため地元に帰る。ゴミ屋敷を片付け、野良の母猫に託された猫二匹(わび♀、さび♀)も一緒に暮らしていたが、帰って12年目に母が亡くなる。猫も今はさびだけ。実家を売却後60年近く前に建てられた海が見える平屋に引越し、草ボーボーの庭を楽園に変えようと奮闘中(←賃貸なので制限あり)。
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