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おひとり様の最期を託せる人は誰か?「法的には死亡届出、火葬・埋葬の申請は特定の人しかできない」【弁護士解説】

 弁護士の前園進也さんは、身寄りのない認知症の高齢者のおひとり様の成年後⾒⼈としても活動を行っている。おひとり様が最期を迎えるにあたり、火葬・埋葬を取り仕切ることがあるが、その様子に考えさせられることが多いという。最期の時に備えて、おひとり様はどんな準備をしておけばいいのか。実例をもとに解説いただいた。

この記事を執筆した専門家

弁護士・前園進也さん

弁護士・前園進也さん

サニープレイス法律事務所代表。https://sunnyplace.law/

弁護士、認定心理士。埼玉県を拠点に障害福祉分野を中心に活動を行う。一児の父。埼玉県LGBTQ支援検討会議アドバイザー、埼玉県立精神医療センターの外部評価会議委員などを務める。著書に、知的障害をもつ息子の子育て体験から着想した『障害者の親亡き後プラン パーフェクトガイド』(ポット出版プラス)などがある。YouTubeチャンネル「障害者家族サポートチャンネル」https://www.youtube.com/channel/UCuVwAjhMEX5S7kxVTY-3jMw

成年後見人が見たおひとり様の最期

 私は弁護士ですが、現役の成年後⾒⼈※としても活動をしています。

 成年後⾒⼈とは、認知症や知的障害などで判断能力がない人に代わり、必要な契約の締結や、財産の管理などを行います。ある高齢者の成年後見人として、おひとり様の⽕葬、埋葬を取り仕切ったことが何度かあります。私が経験したおひとり様が亡くなった後の葬儀などの実例を紹介します。

※成年後見/裁判所から認められた後見人(家族や弁護士や社会福祉士などの専門家)が、本人に代わり契約や手続き、資産などを管理する制度。

実例「葬儀場で淡々と火葬・埋葬される」

 成年後⾒⼈が必要となる認知症の⾼齢者や障害をもつかたの場合、ご本⼈とコミュニケーションが取れないことが少なくありません。

 成年後見人は⽇頃からご本⼈と交流があるわけではありません。そのため、おひとり様が亡くなった後の火葬、埋葬などの⼿続きは淡々と事務的に処理されることになります。

 涙する家族や友⼈が⽕葬に参列するわけでもなく、棺には故⼈を偲ばせる遺品などが入れられるわけでもありません。

 一方で、⽕葬場では多くの参列者に⾒送られる故⼈も⾒かけます。そのようなよくある⽕葬場の光景を見ると、私はいつも考えてしまいます。

「ご本⼈は縁もゆかりもない成年後⾒⼈と葬儀会社の担当者だけに⾒送られるという最期を望んでいたのだろうか」と。

成年後見人は本人の財産から火葬・埋葬費用しか支払えない

 ご本⼈に葬儀を取り仕切ってくれる家族、親族、友⼈がいない場合には、成年後⾒⼈が家庭裁判所の許可を得て、⽕葬と埋葬をすることが法律上認められています。

 法律上認められるという意味は、⽕葬と埋葬に関する費⽤を「ご本⼈の財産から⽀払うことができる」ということです。

 ただし、注意すべきなのは、火葬場で荼毘に付す費用と墓地に埋葬する費用以外の「葬儀・葬式の費⽤」については、ご本⼈の財産から⽀払うことは認められていません。

 その理由は、葬儀・葬式の⽅式や費⽤について相続⼈と揉めるリスクがあるからといわれています。
そのため、ご本⼈に菩提寺があったとしても、お坊さんに読経してもらったり、戒名をつけてもらったりすることはできません。

 読経や戒名をつけてもらうためには、⼀般的に十数万円以上のお布施を⽀払うのが慣例です。このお布施をご本⼈の財産から⽀払うことができないため、成年後⾒⼈としてはお坊さんにお願いはせずに、直葬を選択することが少なくありません。

 なお、直葬とは、通夜、葬儀、告別式などを⾏なわず、遺体安置場所から直接⽕葬場に向かい、⽕葬をすることです。

成年後見人から見た「死後~埋葬までの流れ」

 成年後見人に選任された私が体験した、おひとり様が亡くなってから埋葬するまでの手続きの流れを次に紹介します。

1. 施設などからご本人が亡くなったと⼀報が入る。

2. 亡くなったご本人の住所がある地域の葬儀会社を探して、ご遺体を引き取ってもらう。

3. おひとり様で⾃宅には誰もいないため、葬儀会社の⽅で⽕葬までご遺体を安置してもらう。

4. 葬儀会社に火葬場の空きを確認してもらい、成年後見人が⽕葬の⽇程を決定する。

5. 葬儀会社にご本人の死亡届の提出、火葬・埋葬許可申請を依頼する。

6. 成年後⾒⼈と葬儀会社で荼毘に付す。

7. 成年後見人の方では遺⾻を保管できないので、葬儀会社に保管してもらう。

8. 地方自治体、宗教法人などが経営する墓地を探して埋葬する。

 成年後見人ができるご本人の死後の事務は、このように最低限なことしかできません。

 進行する宗教の方式に則った葬儀を行うことはできません。一方、無宗教のかたの場合、お別れ会を行うこともできません。

 冒頭で述べたように、成年後見人が選任されるかたとは、なかなかコミュニケーションをとることが難しいため、そもそもお知らせする友人や知人の連絡先がわからないケースがほとんどです。

 埋葬についてはお布施をお支払いすることができないので、戒名をつけてもらったり、四十九日の法要を行ったりすることもできません。

 ご本人が海洋散骨などを望んでいたとしても、散骨など必ずしも一般的ではない埋葬方法の費用を、ご本人の財産から支払うことを裁判所から許可を得るのは難しいのです。

おひとり様が本人の希望に沿う最期を迎えるためには?

 ご本人の希望に沿った葬儀や埋葬を行うためにはどうしたらいいでしょうか。その方法を解説します。

 まずは、死後事務を適法に行える権限を有する人、または法人を見つけて、死後事務のすべてを依頼することです。死後事務とは、相続以外の死後にまつわる諸手続きのこと。

 死後事務の中でも、生前にご本人から依頼されてもできないものがあります。代表的なのが、死亡の届出、火葬・埋葬の許可申請です。これらができる人は法律で以下のような人に限定されています。

・死亡の届出と火葬・埋葬の許可申請ができる人

【1】親族

【2】同居人

【3】家主、家屋の管理人(賃貸住宅の大家、管理会社、病院、施設など)

【4】成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人、任意後見受任者

***

【4】について補足すると、私自身も活動している成年後見人など「成年後見制度」に基づいて選任された第三者に対しても、死亡の届出と火葬・埋葬の許可申請を託すことができます。なお、成年後見制度には法定後見・任意後見の2種類があります。

 成年後見人、保佐人、補助人は、判断能力に問題がある人に対する法律で認められたサポーターのことで、裁判所に選任されます(法定後見)。

 本人に判断能力がない場合は成年後見人、判断能力がかなり不十分な場合は保佐人、判断能力が不十分な場合は補助人が選任されます。

 一方、任意後見人は、成年後見人、保佐人、補助人と同じく、判断能力に問題がある人に対する法律で認められたサポーターです。ただし、裁判所が選任した人ではなく、判断能力が問題になる前に、ご本人が選任した人です(任意後見)。

 任意後見受任者とは、ご本人と任意後見契約を締結した人で、ご本人が認知症などで判断能力に問題が生じた場合に、ご本人の任意後見人になる人のことです。

 もっとも、ここに挙げた人以外であっても、死亡の届出や埋葬許可の申請以外の死後事務自体はできます。

 しかし、死後事務は複数人で分担するよりも、ひとりまたはひとつの法人に任せた方が効率的ですし、わかりやすいでしょう。

 つまり、上記【1】~【4】の中から誰かを選んで、その人に死後事務のすべてを任せるのがおすすめです。

 おひとり様の場合、親族や同居人(【1】【2】)はいない前提なので、【3】か【4】のどちらかが候補となります。このうち、あらゆる場合に対応できるのは【4】の中で「任意後見受任者」のみとなります。

「任意後見受任者」はあらゆる場合に対応可能

 任意後見受任者があらゆる場合に対応できる理由は次のとおりです。

 死亡の届出などができる人のうち、【3】は亡くなった“場所”の関係者です。人はどこで死ぬかを選ぶことはできませんので、不確定な要素が入り込みます。

【4】の中でも、「任意後見受任者」以外は、おひとり様ご本人が認知症などで判断能力に問題が生じてから選任されます。

 おひとり様が亡くなる前に判断能力に問題が生じるかはわかりません。ピンピンコロリのように認知症などにならずにお亡くなりになることもあります。そのため、ここにも不確定な要素が入り込みます。

「任意後見受任者」は亡くなった場所には関係ありませんし、ご本人が認知症などで判断能力に問題が生じた場合に、任意後見人になる人なので、ご本人の判断能力の有無にも影響を受けません。これが、任意後見受任者があらゆる場合に対応できる理由となります。

おひとり様の最期に備えておこう【まとめ】

 おひとり様の葬儀や埋葬について不安を感じている場合は、あらゆるケースに対応できる「任意後見受任者」を選んでおくのが安心です。

 ご自身の望む葬儀や埋葬を実現してくれる信頼できる人や法人を見つけて、任意後見契約をして任意後見受任者になってもらい、死後事務委任契約を締結します。なお、契約内容には、ご自身が望む葬儀や埋葬についての詳細を指定します。

 死後の事務を託せる家族がいないおひとり様の場合は、「任意後見契約」と「死後事務委任契約」という2つの契約を結ぶことで、自分が望む葬儀や埋葬を実現することができます。

 相談先は、お住まいの近くの公証役場や弁護士などです。公証役場の場所については、「日本公証人連合会」のウェブサイトに公証役場一覧のページがあり、都道府県ごとに調べることができます。

■公証役場一覧 https://www.koshonin.gr.jp/list

 身寄りのないおひとり様、そして自分が認知症などで判断能力が失われる前に、最期を迎えるための準備について考えておくことをおすすめします。

●「法律上では、身元保証人等がいないことを理由に入院や入所を拒否できないのです」弁護士が注意喚起!おひとりさま高齢者の不安をあおる終身サポート事業者には要注意を!

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