「親族が来るたびに高価なお土産を用意したがる見栄っ張りな母に困っています」嘆く娘に毒蝮三太夫が優しく寄り添う|「マムちゃんの毒入り相談室」第67回
「親子だからこそ話が通じない」ことはたしかにある。見栄っ張りな85歳の母親に困らされている55歳の娘。年末年始などに親戚が集まると、母親は高いお土産やお惣菜を用意しろと言ってくる。我が家にはそんな余裕はないと説明しても、納得しない。マムシさんは娘を慰めつつ、悩ましい状況を打開する具体的な方法を指南する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:同居している母が見栄を張って親戚に高いお土産を持たせる
年が明けたと思ったら、1月もあとわずかだ。オレは干支がふたつあるんだよ。本当は子(ねずみ)なんだけど、今年みたいに巳(へび)の年には、年賀状にたくさんの人が「マムシさんの年ですね」って書いてくれるんだ。
自分がマムシだから言うわけじゃないけど、ヘビっていう生き物は素晴らしい。まず、頭と胴と尻尾しかないシンプルさがいいね。シンプルイズベストだ。脱皮を繰り返して、つまりは進化し続けてるってのもエライ。だから今年の年賀状には、オレもまだまだ脱皮するよってことで、ヘビの絵の横に「ダッピー、ニューイヤー」って書いといた。ハハハ。
今回は55歳の女性からの相談だ。なるほど、なかなか根の深い問題だな。
「85歳の母と二人で暮らしています。私は独身です。父は5年前に亡くなりました。母には、私のほかに、息子(私の弟)がいて、孫もいます。また、母のきょうだい(私の叔父や叔母)も元気です。
年末年始やお盆、父の命日などには、いつも大勢が母のところにやってきます。そのたびに、私がみんなの食事の支度やお土産の準備をしています。母は見栄っ張りなので、お土産も有名菓子店のものにしろとか、食事もデパートでお惣菜を買ってくるようにといつも言います。毎回、お土産を何にするか、料理をどうするかで、母とけんかになるのです。
今の我が家は金銭的な余裕はないので、母が現役だったころのようなことはもうできないといくら説明しても、母は納得がいかないようです。母の気持ちもわかるのですが、ない袖は振れないことを理解してもらうには、どうしたらいいでしょうか?」
回答:弟や叔父さん叔母さんに実情を正直に話してみるのがいいんじゃないかな
お母さんと二人暮らしか。人間、年を取るとどんどん頑固になっていくから、ぶつかる場面もあるだろうな。でも「母の気持ちもわかる」と言えるあなたは偉いよ。いい娘だね。
お母さんにしてみたら、親戚が集まってくれる状況は一種の晴れ舞台だ。まだまだ元気だってところを見せたいし、見栄も張りたい。お土産や料理を安いものに変えるのは、たしかに抵抗はあるだろう。プライドも傷つくし、来た人がガッカリするんじゃないかっていう不安もあるかもしれない。
だけど、家の経済状況をいちばんわかっているあなたから見ると、お母さんのやりたいことは分不相応だと思うわけだ。もちろん意地悪で言ってるわけじゃない。お母さんがこれから何があるかわからないから、お金を残しておきたいという気持ちもあるだろう。ただ、お母さんはあなたを頼りにしていると同時に、あなたに甘えてる部分もありそうだ。いくら「我が家にはそんな余裕はない」と言っても、聞く耳を持たないかもしれないな。
ここは、弟に相談してみよう。叔父さんや叔母さんでもいい。「じつは今の我が家は、これまでのようなお土産やお食事を用意するのは難しくて」ってね。来るほうは、高い土産も料理も当たり前だと思いがちだけど、けっしてそれが目当てで来てるわけじゃない。「無理させてたんだな。気が付かなくて申し訳なかった」と思ってくれるよ。
相談した上で、弟なり叔父さんや叔母さんなりから、お母さんに「気持ちは嬉しいけど、いつも高いお土産をもらうと来づらくなっちゃうから」と話してもらおう。そのときに「年なんだから無理しなくていいよ」なんて言っちゃいけない。プライドを傷つけるからね。
「みんなで話し合ったんだけど、もっと気軽に行き来できるように、お土産はなしで食べるものも普段通りのほうがいいかなって」なんて言うのがいいんじゃないかな。みんなでお母さんの好きなおいしいものを持ち寄る、なんてのもいいかもね。
話したときはムッとされるかもしれないけど、お母さんだってわかってくれるよ。来たくないって言ってるわけじゃなくて、もっと気軽に来たいからって言ってんだから。そういう相談をするのはあなたとしても簡単じゃないだろうけど、「私にはとても言えない」と思ったとしたら、あなたもお母さんに負けず見栄っ張りだってことになる。
それに85歳のお母さんのこれからのことを考えると、弟とも叔父さんや叔母さんとも、何でも相談できる関係でいたほうがいいだろうね。うわべの付き合いだと、たとえば介護が必要になったときに、助けを求められなくてあなたひとりで抱え込むことになる。お母さんと自分の未来のためにも、ここは気合いを入れてふんばろう。
さっき年賀状の話をしたけど、今年は「年賀状じまい」の連絡をしてくる人が多かった。それも年下ばっかりなんだよな。年賀状ひとつやめるんだって、かなりの勇気が必要だ。お母さんがこれまでのやり方を変えるのは、並大抵のことじゃない。そこも弟たちと相談して、うまくフォローしてやってくれ。あなたなら大丈夫だ。これからもお母さんを大切にな。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。88歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。