「80代の母が施設から一時帰宅中、家族がインフルエンザに!」外泊や面会時の対処法や注意点を専門家が解説
介護施設に入居している人にとって、家族との面会や外泊はかけがえのない時間です。しかし、その大切な時間が、勝手な判断で、インフルエンザやコロナなど感染症の拡大という深刻な事態を引き起こすことも。そこで介護施設の事例を元に、入居者家族が守るべき面会・外泊時のルールや注意点について、介護職員、ケアマネージャーの経験もある中谷ミホさんに解説してもらいました。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
久々家でゆっくりする予定が一変!
佐々木泰子さん(80代・要介護1・仮名)は、有料老人ホームに入居しています。ある冬の日、長男の隆さんから「久しぶりに家で過ごそう」と誘われ、週末に外泊することになりました。
ところが、このタイミングで隆さんの家族の一人が発熱。隆さんは「大したことない」と軽く考え、泰子さんの外泊を中止することはしませんでした。「せっかくの外泊の機会だから」と施設には伝えず、泰子さんを家に迎えたのです。後日、家族のかたがインフルエンザだったことが発覚。泰子さんも外泊から施設に戻って数日後に高熱が出て、インフルエンザに罹患していました。
その後、施設では感染が広がり、複数の入居者や職員にも感染者が出てしまう事態に。幸い、重症化する人はいませんでしたが、一時的に施設の運営に支障が出てしまい、面会や予定されていたイベントの中止を余儀なくされました。
こうしたトラブルは絶対に避けなければいけません。以下で家族が注意すべきポイントを解説していきましょう。
週末の外泊でトラブルが拡大した要因とは?
以下の要因がトラブルにつながった要因だと考えます。
【1】情報共有の不足
家族が「熱がある」あるいは「インフルエンザの可能性がある」といった情報を施設に伝えなかったため、施設側は「泰子さんが健康な状態で戻ってくる」と想定して受け入れました。その結果、迅速に感染対策を講じることができませんでした。
【2】家族の認識不足
家族が「少し体調を崩しただけ」「少しぐらい熱があっても大丈夫だろう」という軽い認識が、感染拡大の要因となりました。
高齢者は免疫力が低く、持病などもあるため感染症にかかると重症化しやすい傾向があります。特に介護施設のような共同生活の場では、一人の感染が集団感染につながるリスクが高いことを家族が理解しておく必要があります。
介護施設の面会・外泊時のルールと注意点
介護施設では、感染症の持ち込みを防ぐため、面会や外泊に関するさまざまなルールを設けています。以下は、施設が実施している具体的な取り組みの一例です。
面会前の体調チェックと報告義務
・面会者全員の検温
・体調チェックシートの記入(発熱、咳、鼻水、倦怠感などの症状の有無)
・同居家族の体調不良や感染症流行地域への訪問歴の申告
外泊前の手続き
・外泊届の提出(外泊期間、滞在先、連絡先などを記載)
・外泊中の連絡先、滞在先の情報提供
・帰園(帰所)予定日の連絡
外泊後の健康確認と報告義務
・帰園(帰所)時の検温
・健康状態の聞き取り(体調の変化、滞在先での感染症流行状況など)
・必要に応じて医師の診察
感染症流行時の対応
・面会制限(人数制限、時間制限、面会場所の制限など)
・オンライン面会の推奨
・イベントや面会・外泊の一時見合わせ
家族と施設とのコミュニケーションが大切
高齢者にとって感染症は命に関わるリスクを伴うことがあります。そのため、家族と施設が協力し、情報を共有して感染症対策を徹底することが大切です。
家族としては「せっかくの面会や外泊を中止したくない」と思うかもしれませんが、体調が万全でない場合や感染症の兆候がある場合は、施設と相談して延期や中止を検討することが重要です。
「このくらい大丈夫だろう」という判断が、ほかの入居者や施設全体に迷惑をかける結果となることもあります。大切な人との時間を安心して過ごすためにも、施設の面会・外泊のルールを守り、感染症リスクを防ぐ行動を心がけましょう。