【シーズン2】兄がボケました~認知症と介護と老後と「第4回 事故との遭遇」
2024年も残すところ数日となりました。認知症の兄のサポートを在宅で続けてきたライターのツガエマナミコさんにとって今年は、GWに兄が突然倒れたときから施設入所する日を迎えるまで、さまざまな出来事に対応し続ける激動の一年だったことでしょう。そんなマナミコさんですが、暮れも押し迫ったある日、衝撃の光景を目の当たりにしたというのです。
* * *
人生の重大ニュースに入るほどの衝撃
先日、教育番組Eテレの生物講座で、中学生が言った「人間はいつか滅びますか?」の問いに生物学者の先生が「生物学では急激に発展した生物は同じだけ急激に滅びる、と言われています。なので人間もいつか急激に滅びると思います」と答えていたことに驚きました。「未来を生きる子供たちにそんなにはっきり言っちゃうんだ」と。もちろん10年20年単位の話ではないにしても、生物学者として、そこは濁さないんだな~と感動いたしました。
そんなことより、いきなりですがみなさんは、人が血を流して倒れている場面に遭遇したことがあるでしょうか? ツガエは最近、そんなショッキングな出来事に遭遇いたしました。「人生で本当にこんなことがあるんだぁ」としばらく興奮状態でございました。
あまり詳しいことは書けないですし、書かない方がいいと思うので、ギュッと話をまとめますと、通りすがりの物陰から唐突に人と大量の赤い色が見えたのです。
ぶちぎれるかと思うほどドクドクと早鐘を打つ心臓と、「え?なになに?」「どうして?」「本当?」「うそでしょう」と平静を取り戻そうとする脳との戦いがありました。「テレビの撮影でもしているのでは?」と疑って周囲を見渡したりもしたくらいです。なにしろその場にはわたくし一人しかいなかったのでございます。
情けないことに、倒れているその人に近づくことができませんでした。しかも目視できたのはほんの2秒ほどで、キャーとかいう声も出ません。確認のためにもう1秒ほど目視をしてからその光景が目に入らない物陰に入って動揺しながらも携帯を取り出し、110番をいたした次第でございます。
あとから思えば119番にすべきだったと思ったのですが、「ひゃくとうばん」しか頭に浮かばなかったのでございます。
「事件ですか、事故ですか?」という問いに「わかりません。人が血を流して倒れています」とご報告いたしました。すでに通報が入っていたようで、わたくしが第一発見者ではなかったようですが、どうやら高い所から落ちたようでございまして、しばらくして救急車で運ばれていきました。
そばにいながら距離を取ってしまい、何もできなかったことが悔やまれます。でもあの場では足がすくんでどうしようもございませんでした。駆けよって声を掛けたり、心臓マッサージをしたり、息があるか確認したりという行動は、なかなかできるものではないのだなぁと身に染みてわかりました。お医者さまや看護師さまをまた一段とリスペクトした次第でございます。
これは今年の重大ニュースどころではなく、人生の重大ニュースでもトップに入る衝撃。でも、この年齢まで、そうしたことに遭遇しないでこれたことの方が強運で、有り難いことだったのかもしれません。
後日談は山ほどあるのですが、このお話はここまでと致しましょう。
あれから毎日、仏壇にご冥福を祈っております。
世の中は事件や事故に満ちております。降りかかってくるものは避けきれないですが、せめて自分が事件や事故の加害者にならないようにいたしましょう。
ちなみに巳年は、蛇の脱皮になぞらえて「復活と再生」の年と言われるようです。今年失くしたものがあっても来年はまたチャンスがあると信じとうございます。
どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
イラスト/なとみみわ