【シーズン2】兄がボケました~認知症と介護と老後と「第2回 ツガエと兄のお金事情」
ライターのツガエマナミコさんは、若年性認知症を患った兄と共に暮らし、長年サポートを続けてきました。兄の症状は年々進み、ついに要介護5に。それを機に、特別養護老人ホームに入所します。兄との暮らしを終え、ようやく生活に落ち着きを取り戻したマナミコさんですが、老後のこと、お金のことなどまだまだ心配はつきません。
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申し訳ないくらいの施設利用料金
「兄ボケ」をお休みして間もなく、わたくしは奥歯の痛みに襲われまして、2~3日ロキソニンのお世話になりました。痛みに耐えきれずにかかりつけの歯科で応急処置をしていただき、今は無痛で問題ないのですが、いよいよインプラントへの検討を迫られてしまいました。
インプラントといえば、高額で知られる歯科の自費診療。数か月前に友人がインプラントを入れ、1本60万円だか80万円だったと聞き、目ん玉が飛び出たばかりでございます。そのときはまったくの他人事でしたのに、突然わが身に降りかかるインプラントさまの圧力たるや、ただただ恐れおののいております。
ですが、これまでブランド品を持たず、健康体で大病もせず、つつましやかに暮らしてきたので、人生も終盤に差し掛かった今、自分に大金を使うのもよろしかろうと考えております。
歯は、わたくしの最大の弱点で、小さい頃から虫歯が多く、金の詰め物が多い大人に成長いたしました。父親が他界した10年前からは歯石をとっていただくなどのメンテナンスを2~3か月に1回続けて参りましたが、歯周病で歯茎が後退していると言われ続けて、数年前には左上の一番奥の歯を神経ごと抜いてしまいました。今回痛みを発症したのは、その隣の歯。炎症を起こして浮いたような感覚で、左の目の奥や鼻の奥、顔の左側が全部痛かったので、すぐにでもインプラントにしたいくらいでございました。が、じつはツガエ、その数日後に友人と数年ぶりの旅行を控えておりました。先生にご相談すると「帰ってきたら本格的に治しましょうか?」と、応急処置で痛くないようにしていただいたという次第なのです。
なので旅行が終わった今、すぐにでも行くべきなのですが、いざ痛みがなくなってしまうと歯科医院への道は遠のくばかり。でも今行かなかったら痛い目に遭い絶対後悔するはず。というわけで近々大金を使うことになりそうです。
ちなみに旅行は北海道・函館。本当に久しぶりの旅行で、キャリーバッグから買い揃える大出費。同世代女子3人で海鮮と夜景、温泉を満喫し、気前よくお金を使いましたが、良い思い出になりました。
お金といえば、兄の施設利用料金ですが、先日、9月分の領収証が届きました。
30日分で8万2174円でございました。単純計算で1日2793円。食費も含めてこれは安すぎて申し訳ないくらいでございます。
ところが、本日届いた10月分の請求書を見ると9万4976円! 31日ならば8万5000円程度だと見積もっていたのですが、10月は医療費が1万円ほど多くなっておりました。
兄の年金は1か月約7万6000円でございますので、10月分は約2万円の大赤字でございます。もし毎月2万円の負担となれば、さすがに厳しいと思っておりましたところ、役所から「高額介護サービス費支給決定通知書」という葉書が送られてきて、不足分を補うように毎月いくらかが兄の通帳に振り込まれるようになりました。
「財政は大丈夫だろうか」と案じながらも、日本の国民健康保険には本当に感謝せざるを得ません。ただ、自動的に振り込まれるものではなく、申請をしないと出さないのがお国のやり方。数か月前に「どうせそんなにもらえないだろうけど、もらえるものは1円でももらおう」と書面を揃えてしっかり申請したことを自画自賛しております。
兄が寝たきりになり、介護ヘルパーさまや訪問看護師さまを付けた今年の初夏に申請書が届きました。はじめの支給金額は1000円程度だったのが、直近では2万円台となっております。誠にありがたい限りでございます。
というわけで、わたくしの負担額は今のところゼロ円。世帯分離をしたり、「介護保険負担限度額認定証・第二段階」の取得や、「高額介護サービス費支給」の申請をしていたおかげでございましょう。出費は、おやつの差し入れ代ぐらいで微々たるものです。
少ない年金でもなんとかなるようにできているのだなぁ、とほっといたしました。でも、わたくしが65歳で受け取れる年金は4万円程度ですので、兄のようにお国にカバーしていただけるとは思えません。なんとか「ピンピンコロリ」と逝かなければ、しわ寄せで若い世代がますます苦しむことになりましょう。いろいろな意味で後悔をしないお一人様の老後を模索していこうと思っております。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
イラスト/なとみみわ