猫が母になつきません 第425話「きをつかう」
自分の腕に愛する猫が前脚と頭をのせて寝ている…猫飼いにとってこんな幸せな瞬間があるでしょうか。しかし同時にこれは苦行でもあります。朝までそのまま寝てしまうこともありますが、腕はかなりしびれます。夜中に目が覚めてそーっと腕をはずすと当然猫も起きてしまい、不本意そうな視線にいたたまれない思いをすることも。でもそんなことが度重なると猫の方も気がつくらしく、ずっと私の左側に寝ていたのにあるとき右側で寝ると言い出しました。
猫というのは自分のパターンを大事にする生き物なのでこれはかなりの出来事です。右なら大丈夫、というわけでもありませんがさびなりに考えて気をつかってくれたのがうれしい。そして、今は腕枕もしていません。さびはふとんにもぐり込むと私のお腹のところでまるくなってそのまま眠ります。さびの顔が見えないのは残念だけど、腕は痛くならないし朝まで目が覚めることもない。それがお互いにとっていいようだ、という答えをさびが出したのです。
人間同士でも気をつかうということはよくありますが、そのために何かをあきらめたり、ゆずったりした場合、なにかしら不満が残りがち。言葉や理屈をこねくりまわしてしまう。さらっとやればいいんですね、さらっと。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母と暮らすため地元に帰る。ゴミ屋敷を片付け、野良の母猫に託された猫二匹(わび♀、さび♀)も一緒に暮らしていたが、帰って12年目に母が亡くなる。猫も今はさびだけ。実家を売却後60年近く前に建てられた海が見える平屋に引越し、草ボーボーの庭を楽園に変えようと奮闘中(←賃貸なので制限あり)。