移動困難者の送迎支援の輪を広げるために|東北・石巻の活動から学ぶこととは<第3回>
東日本大震災をきっかけに、宮城県石巻地域で始まった「移動困難者の送迎支援」。この活動を続ける特定非営利活動法人『移動支援 Rera(レラ)』に密着、3回のシリーズでお伝えする。
石巻に限らず日本全国には、高齢、病気など様々な理由で移動が難しい人たちが大勢いる。Reraの活動を通して、こうした日本の現状を垣間見ることができるのではないか、私たちがこういった問題をもっと身近に考えるきっかけとなればと、実際にReraの活動にボランティアとして関わった記者がレポートする。
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移動困難が理由で健全な暮らしができない人のための解決策とは
「お買い物のお出かけが楽しみです」「足も悪くなり病院は歩いて行けません。Reraの車は助けの神です」「Reraを利用しているおかけで不安が減って、家計も助かっています」。
Reraが今年の1月に行った利用者アンケート調査の自由記述欄には、こんな文章が綴ってありました。その言葉の一つひとつに手応えを感じているという『移動支援 Rera』代表の村島弘子さん。
でも、目の前の困っている人を送迎するだけでは、移動ができず健全な暮らしが続けられない人がいるという状況の根本的な解決にはならない、とも考えています。そうした中で行っている送迎以外の活動があります。
5年ほど前から毎年開催してるのが「福祉送迎講習会」。移動の担い手を増やすことと、送迎技術の向上を目的とするこの講習会には、Reraのスタッフも受講者として参加しています。
毎回、専門知識をもった講師を迎えて、福祉車両を使用した送迎や介助を総合的に学ぶプログラムなどが組まれています。石巻地域の住民と交通事業者向けですが、他の地方からの参加者も大歓迎と、門戸を広げています。
第2回で紹介した「付き添いつきお出かけ送迎」の一環として始めた『生きがい・交流ミニ菜園』も好評です。市民農園の一部を借りた『Rera農園』では、Reraのスタッフが中心となって畑を管理し、野菜やハーブを育てています。月に数回、希望する利用者を募って農園まで送迎。野菜作りの経験者で積極的に作業をする人もいれば、のんびり見ているだけの人もいる自由な空気。参加した人は自分のペースで農作業を楽しみ、その日に収穫した野菜を持ち帰ることができます。
新たに、昨年11月からは「暮らしのお手伝い」という活動をテスト的に実施。これは、庭の草取り、枝払い、電球交換、窓拭きなど、気になっているのに体が思うように動かず、できていなかった小さな困りごとのお手伝い。この4月に本格的な実施に踏み切りました。
Reraが抱える大きな問題
階段を一段一段のぼるように活動を続けてきたRera。シリーズ第1回で紹介した『いしのまき 暮らしのお出かけヒント集』は、移動が困難な人が抱える困りごとを解決へと導きたい、生活を豊かにすることができればという思いで集めた情報をまとめた小冊子なのです。そして、そんなReraの目の前には、今、乗り越えなければならない壁があるのです。
Reraの活動の資金は、震災復興枠の助成金や補助金を基盤として、そこにReraを応援する団体や個人の寄付金が加わって成り立っています。国の定める指針によると、東日本大震災の復興期間は10年となっており、復興庁は2021年の3月31日までに廃止が決まっています。それを過ぎると、助成金をはじめとするさまざまな復興支援体制が縮小されることが予測されるのです。
「今、移動に困っている人たちが、それまでに元気になって自立できるかといえば、絶対にそうではありません。Reraの活動を持続させるための新しい仕組み作りに取り組んいるところです」と語る村島さん。
Reraは、すでに、災害救援という枠を超え、確実に石巻地域の人々の暮らしを支える存在になっています。そして、行きたいところに移動ができること、出かけたくなる場所があることの大切さを、Reraの活動が教えてくれています。
小冊子『いしのまき くらしとお出かけヒント集』のプロローグに、こんな文章が書いてありました。
「あなたは今、自由に移動と暮らしを楽しんでいますか? もしそうであれば、あなたの周りの人たちにも、同じような暮らしを分けてあげてください。この本には、そのヒントも集めています」
移動困難者の支援は全国的に必要な課題
過疎地での買い物難民など、交通弱者の問題がクローズアップされるようになってしばらく経ちます。でも、全国的な高齢化が進む中、都市圏の住宅地でも同じような問題が深刻化しているといわれます。
この記事を読んで、Reraの活動に何かを感じたら、移動が困難な人がいるという問題に目を向けてください。あなたの住むところにも、Reraのように移動困難者を支援する活動をしている団体や、地域のコミニュティバスやカーシェアリングなどの移動サービスがあるかもしれません。
そして、身近に移動ができずにいることを「がまん」して、声をあげずにいる人がいるかもしれません。声をかけること、「わたしにできることが何かあるかもしれない」と、考えることから始めませんか?
取材・文/堀けいこ
音楽情報誌や新聞の記事・編集を手がけるプロダクションを経てフリーに。アウトドア雑誌、週刊誌、婦人雑誌、ライフスタイル誌などの記者・インタビュアー・ライター、単行本の編集サポートなどにたずさわる。『移動支援Rera(レラ)』の活動に、3年前からボランティアとして参加中。
撮影/伊藤克行 小林克司 堀けいこ 写真提供/移動支援 Rera
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