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交通手段を持たない人にも外出の楽しみを|移動困難者を支える活動レポート<第2回>

 宮城県・石巻地域で、東日本大震災を機に、移動困難になった人の送迎を支援する活動を始めた団体がある。

 特定非営利活動法人『移動支援Rera(レラ)』(以下、Rera)の活動をレポートしながら、様々な事情で外出の際、交通手段を持たない人たちの「移動」について3回シリーズで考える。

 2回目の今回は、Reraの日々の活動とそれを応援するボランティアについてだ。

→第1回を読む

 * * *

生きるために必要な場所への移動が困難な人たち

 Reraの1日は、朝7時、スタッフ(ドライバー)の点呼から始まります。ミーティングの後、車の点検などの準備をして、Reraの車は、朝日につつまれた石巻の町の中へ散らばっていきます。現在、Reraが所有する車両は8台。うち6台が、車椅子やストレッチャー対応の福祉車両。その中から、6台前後の車が毎日稼働しています。 

「Reraの利用者はバスやタクシーをひとりでは使えないという方が多く、行き先のほとんどが病院。その他は、役所、買い物のためのスーパーなどへの送迎。いずれも、生きるために必要な場所といえます」

 と語るのは、スタッフの植野圭さん。彼は、2012年4月に札幌から石巻に移り住んでReraのスタッフになった初期メンバーのひとり。

 植野さんは、長く接している利用者が多いこともあり、それぞれの小さな変化も感じ取ることができるようです。

 その日の送迎が終わり、事務所に戻ったスタッフは、利用者一人ひとりの様子を報告します。身体的な状態もそうですが、車の中での会話から、生活上の問題点や、うれしかった出来事などを聞きとることも忘れません。そうした小さな変化への対応を、Reraはとても大切にしているのです。

買い物、墓参り…外出目的をテーマに「お出かけ送迎」を開催 

 Reraには、そんな日々の報告から生まれた活動もあります。「出かける目的がない」「一緒に出かける相手がいない」といった利用者の声を参考に、3年ほど前から始めたのが『付き添いつきお出かけ送迎』。「お買い物」や「お墓参り」といったさまざまな外出の目的をテーマに掲げ、月に1回、日曜日に開催しています。

「お買い物送迎」の日は送迎だけでなく、店の中でもReraのスタッフが付き添います。試着室に入って洋服を試着したり、孫へのプレゼントを選んだりと、いつもはあきらめてしまっている、時間と手間のかかる買い物を楽しむ利用者の姿は、生き生きとしています。

 春と秋に行われる「お墓参り送迎」では、杖をつく人も、車椅子の人も、Reraスタッフが付き添うことで墓前まで行くことができます。

「去年、タクシーで来たときは、墓地の入口で止めてもらい、車の中からお参りしました。でも、今日はこうしてご先祖の前で掌を合わせることができました」と、喜ぶ声が印象的です。

 その他、「お花見」や「カラオケ」「日帰り温泉ドライブ」といった娯楽も、お出かけのテーマとして組み込まれています。これも会を重ねるたびに参加者希望者が増えているといいます。

「付き添いつきお出かけ送迎」の参加者は、毎日の送迎の際にチラシを配ったり、一人ひとりに声かけをして募っています。

「誘ってくれてうれしかった」「次はどこに行くの?」といった声を聞くそうです。そんな「付き添いつきお出かけ送迎」の昨年度(2018年4月から2019年3月まで)の参加者数は、163名にものぼりました。

お出かけを支える外部ボランティアスタッフの存在

“お出かけ”のときに、Reraの赤いユニフォームを着て付き添いをするのは、いつもの送迎スタッフだけではなく、ボランティアでお手伝いをする人たちもいます。このような外部ボランティアの積極的な関わりが、Reraの活動を支える力のひとつになっているのです。

 今年4月の「付き添いつきお出かけ送迎」は、お花見を楽しみました。低温の日が続き、蕾のままでのお花見になるのではと心配でしたが、当日は七分咲きから満開と、ちょうど見頃の桜となりました。

 テーブルを囲んでお弁当を食べ、おしゃべりをして、宴もたけなわになる頃には、楽器持参で関東からボランティア参加した、小林克司さん率いる「小林楽団」のメンバー3名が演奏をスタート。手拍子の中、マイクを手に歌う人も次々に登場しました。

 5月のイベントは「体操・整体」で、杖を手放せないという人もこぞって参加。和歌山から来た津田啓史さん指導のもと、利用者とボランティアやスタッフがペアになって、特別なマッサージなどを実践しました。帰りの車の中では、「体が楽になったよ。あの先生がいる病院は近くにあるの?」とスタッフに尋ねる人もいたといいます。

 今回のお花見で4度目のイベント参加となる小林楽団は関東から。今年で3回目となる整体・体操教室の津田啓史さんは前述のように関西から。付き添いの手伝いをする外部ボランティアも、地元からだけでなく、週末を利用して他県からやって来る人たちもいます。

「お出かけの内容に多様性をもたせることで、多様な参加者が集まるように工夫をしてきました。これまで参加していなかった人も参加したくなるようなテーマを、外部ボランティアの方たちにも一緒に考えてもらうことにしています」 

 村島さんは、こうした外部ボランティアの積極的な参加を誘うことが、移動支援の担い手のすそ野を広げることにもつながると考えているのです。

※第3回(8月9日公開予定)に続く

取材・文/堀けいこ

音楽情報誌や新聞の記事・編集を手がけるプロダクションを経てフリーに。アウトドア雑誌、週刊誌、婦人雑誌、ライフスタイル誌などの記者・インタビュアー・ライター、単行本の編集サポートなどにたずさわる。『移動支援Rera(レラ)』の活動に、3年前からボランティアとして参加中。

撮影/伊藤克行 小林克司 堀けいこ  写真提供/移動支援 Rera

●移動困難者を支える活動レポート|東日本大震災時から活動を続ける石巻の「Rera」とは?<第1回>

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