兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第245回 認知症の人の行動に悪意はないのか?】
ライターのツガエマナミコさんは、57才のときに若年性認知症を発症した兄(現在は65才)と一緒に暮らしています。兄が週1でデイケアに通う日は、マナミコさんにとって貴重な息抜き時間なのですが、このところ兄が朝起きずにデイケアを休まざるを得ないことになることも。それでも、マナミコさんが頑張れるのは、月に2回、3~4日間、兄がショートステイで不在のときがあるからなのです。
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ショートステイが待ちきれない
1回目、2回目、3回目の声掛けでは起きず、8時近くなったときには「今週もまたお休みか…」と諦めかけました。先週のデイケアもこんな調子で兄が起きずに結局お休みしてしまったのでございます。
が、今回は4回目の声掛けでなんとか起きてくださったのでシャワーと着替えが間に合い、お朝食を途中で遮って送迎車にお乗せすることができました。いや~ギリギリでございました。
その後、洗濯を済ませ、2週間ぶりに一人カラオケで溜まりに溜まったストレスを吹き飛ばしたツガエでございます。
先週から今週にかけてもお尿さま攻撃にムカついてばかりでございました。少し前に引き出し内に入り込んで大掃除した食器棚を再度攻撃されましたが、ペット用吸水シートによる対策が功を奏してひと安心。ところが食器棚のシートを貼り替えたそのあと、無防備だったキッチンの作業台にやられ、鍋などが収納されている引き出しも直撃。侵入は免れたものの、引き出しの淵にお尿さまが溜まっておりました。そこを掃除してしばらくすると、今度はこたつテーブルにジョロ~。洗濯したばかりの靴下(兄の)が水分を含んで重くなっておりました。せっかくカラオケで元気ポイントをチャージしましたのに、この連続攻撃でだいぶ消耗してしまいました。
キッチンでやられるのが何よりショックでございます。ついつい怒りが言葉に出てしまいます。でも反応が大きいほどやりがいになるのか、兄はキッチンでお尿さまをしたがります。わたくしが夕食の支度をしていると横に並んで今にもズボンを下ろすようなしぐさを見せるのでございます。「オシッコはここでしないで。トイレでやろうね」と申し上げると「え、そうなの?」とおとぼけ顔をいたします。
とあるYouTube動画を拝見しましたら介護の専門家がこんなことをおっしゃっていました。
「認知症の人がトイレ以外のところで排泄してしまうと家族は、わざとやっているんじゃないか? 嫌がらせなんじゃないか?と思ってしまいますが、認知症の人は、物事の認識が健常な頃とは変化してしまっているのです。わたしたちは”排泄はトイレでするものだ”と認識していますが、認知症の人はそうとは限りません。認知症の人には独自の認識があって行動しているだけなのです」
兄の場合は「排泄はやりたいところでやるもんだ」という認識が出来上がってしまったのでございましょうか。
専門家の方々は「認知症の人の行動には悪意がない」と言われます。そう解釈したほうが、認知症の人にとっても介護者にとっても都合がいいからそういうことにしているのではないでしょうか。「たとえ認知症になっても感情は普通にある」のですから悪意があるときもきっとあるとわたくしは思っております。
ただ、もし自分がトイレで用を済ませて出てきたら、突然家族に「こんなところでしちゃダメ!」と怒られたとしたら「は? なんで?」と理解できないことでございましょう。自分の認識が全否定されることが認知症の人に毎日起こっているのだとしたら、やはり頭ごなしに怒るのは可哀想だとも思います。
そうはいってもこちらも生身の人間。「くそ~ぉ!」と思いながら事務的に機械的に片付けを済ませて自室にこもり、兄の顔を見ないことがせめてもの自己防衛。というわけでツガエ家の日常はかなり殺伐としております。
そうこうしている間に次のショートステイがやってまいります。ありがたい、ありがたい。もうショートステイなしでは1か月も生きられないくらいに、ツガエはショートステイ依存症でございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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