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兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第245回 認知症の人の行動に悪意はないのか?】

 ライターのツガエマナミコさんは、57才のときに若年性認知症を発症した兄(現在は65才)と一緒に暮らしています。兄が週1でデイケアに通う日は、マナミコさんにとって貴重な息抜き時間なのですが、このところ兄が朝起きずにデイケアを休まざるを得ないことになることも。それでも、マナミコさんが頑張れるのは、月に2回、3~4日間、兄がショートステイで不在のときがあるからなのです。

 * * *

ショートステイが待ちきれない

1回目、2回目、3回目の声掛けでは起きず、8時近くなったときには「今週もまたお休みか…」と諦めかけました。先週のデイケアもこんな調子で兄が起きずに結局お休みしてしまったのでございます。

 が、今回は4回目の声掛けでなんとか起きてくださったのでシャワーと着替えが間に合い、お朝食を途中で遮って送迎車にお乗せすることができました。いや~ギリギリでございました。

 その後、洗濯を済ませ、2週間ぶりに一人カラオケで溜まりに溜まったストレスを吹き飛ばしたツガエでございます。

 先週から今週にかけてもお尿さま攻撃にムカついてばかりでございました。少し前に引き出し内に入り込んで大掃除した食器棚を再度攻撃されましたが、ペット用吸水シートによる対策が功を奏してひと安心。ところが食器棚のシートを貼り替えたそのあと、無防備だったキッチンの作業台にやられ、鍋などが収納されている引き出しも直撃。侵入は免れたものの、引き出しの淵にお尿さまが溜まっておりました。そこを掃除してしばらくすると、今度はこたつテーブルにジョロ~。洗濯したばかりの靴下(兄の)が水分を含んで重くなっておりました。せっかくカラオケで元気ポイントをチャージしましたのに、この連続攻撃でだいぶ消耗してしまいました。

 キッチンでやられるのが何よりショックでございます。ついつい怒りが言葉に出てしまいます。でも反応が大きいほどやりがいになるのか、兄はキッチンでお尿さまをしたがります。わたくしが夕食の支度をしていると横に並んで今にもズボンを下ろすようなしぐさを見せるのでございます。「オシッコはここでしないで。トイレでやろうね」と申し上げると「え、そうなの?」とおとぼけ顔をいたします。

 とあるYouTube動画を拝見しましたら介護の専門家がこんなことをおっしゃっていました。

「認知症の人がトイレ以外のところで排泄してしまうと家族は、わざとやっているんじゃないか? 嫌がらせなんじゃないか?と思ってしまいますが、認知症の人は、物事の認識が健常な頃とは変化してしまっているのです。わたしたちは”排泄はトイレでするものだ”と認識していますが、認知症の人はそうとは限りません。認知症の人には独自の認識があって行動しているだけなのです」

 兄の場合は「排泄はやりたいところでやるもんだ」という認識が出来上がってしまったのでございましょうか。

 専門家の方々は「認知症の人の行動には悪意がない」と言われます。そう解釈したほうが、認知症の人にとっても介護者にとっても都合がいいからそういうことにしているのではないでしょうか。「たとえ認知症になっても感情は普通にある」のですから悪意があるときもきっとあるとわたくしは思っております。

 ただ、もし自分がトイレで用を済ませて出てきたら、突然家族に「こんなところでしちゃダメ!」と怒られたとしたら「は? なんで?」と理解できないことでございましょう。自分の認識が全否定されることが認知症の人に毎日起こっているのだとしたら、やはり頭ごなしに怒るのは可哀想だとも思います。

 そうはいってもこちらも生身の人間。「くそ~ぉ!」と思いながら事務的に機械的に片付けを済ませて自室にこもり、兄の顔を見ないことがせめてもの自己防衛。というわけでツガエ家の日常はかなり殺伐としております。

 そうこうしている間に次のショートステイがやってまいります。ありがたい、ありがたい。もうショートステイなしでは1か月も生きられないくらいに、ツガエはショートステイ依存症でございます。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●「デイケアとデイサービスの違いは?」社会福祉士のライトさんが通所リハビリを超簡単解説!

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この記事へのみんなのコメント

  • しろしろ

    介護用のつなぎパジャマを着てもらってはどうでしょうか? 母のために買ったことがありますが、ファスナーの引手が分離されていて鍵のような役割をするので、それがないとファスナーの開閉ができず自分で脱ぐことができません。おむついじりなどを防ぐためのものです。おむつをしてもらってつなぎパジャマを着ていれば自分で服を脱げないのでいろんなところにされてしまうこともないような気がします。パジャマをハサミで切られたりしたら終わりなんですけど、そうでなければまず脱げません。ご参考まで。

  • 桜も盛りを過ぎ

    お兄さんは自分が壊れていくストレスをぶつけているのか、かまってほしいからわざとなのか、単に空間把握が破壊され、わけがわからなくなっているだけなのか、本人に聞いてもわからないでしょうね。しかし仮に「お前を困らせようと思ってやってる」と言われたら、やりきれませんし最悪の場合手にかけてしまいかねません。なるほど、福祉的医学的見解として悪意がないことにしているのかもしれません。お兄さん、傾眠傾向もあるようですね。明らかにかなり弱ってきているご様子ですし、マナミコさんの精神状態も相当追い詰められているように見受けられます。どうかご自身の心の健康に気をつけてください。

  • ふじこちゃん

    追記…先日父に手を強く握られ「痛い痛い!折れるやん」 と言ったら「ポキっ」っと呟きました。これはまさに悪意 …確信犯だと思い悔しくなりました。 意地悪つまり悪意はあると思いますよー

  • ふじこちゃん

    ツガエさん こんにちは! ここ何日か遡って第一話から読み返していました。お兄様の徘徊や排泄問題…徐々に心も身体も休まる日が少なくなってきている状況にまたもや胸が苦しくなりました。 排泄処理は一番気持ちが萎えますよね。家は粗相は回避していますが、お兄様の状況はどう対策したらいいのか…何もいい案が浮かびません。 「認知症の人にも感情はある」私もそう思います。 父は好きな人には(特にやさしい女性)心を開き最高の笑顔を見せます。一方で塩対応されたり無理じいされると たたく、噛みつく、蹴るといった鉄拳がとびます。うまくかわさないとパンチをくらいますので要注意です。 私はそれを病気のせいだと思っていましたが、これは拒否 であって人間の当たり前の行為だなと最近は思うようになりました。 しかし…そうでない時があります。別人と化すスイッチが入った時は眼が違います…「お前ー」「死ね」「殺す」 手を捕まれ部屋を連れ回され、へし折られるほどの力です 。恐怖でしかありません。これはレビーによる暴力暴言だなと…1時間位たつと我に返り「すみません」「ごめん」と言います。自分の奇行を分かっているようです。 前よりは減りましたがホントに身の危険を感じる時がありますし、悪の根源みたいに言われて腹立つし、悲しいです 私もこの5年来、心がささくれ「黒ふじこ」が降臨する場面が増えました…まだまだですね 心と身体お大事にして下さい

  • マモコ

    今週もツガエ様お兄様の排せつ爆弾の数々、後始末はさぞお辛いだろうな、私だったらできないよと思いながら読ませていただきました。 専門家の方がおっしゃっている「認知症の人に悪意はない」というお話ですが、排せつについて言えば「トイレの場所がわからなくなった」「我慢できなかった・間に合わなかった」というのが該当するのでは?  お兄様の場合、爆弾投下箇所を考えると、それとは違うような気がします。話は飛びますが、子どもって、大人から「やっちゃダメ」と言われたことをやりたがりますよね。お兄様はもしかして小さいころ、「トイレでないところで用を足したら怒られるだろうな。でも、やってみたい」と妄想していたのでは?認知症になってタガがはずれて、子どものころの妄想を実行しているのでは?飛躍し過ぎかもしれませんが…。ツガエ様を困らせたいという気持ちも、全くないとは言えないと思います。 レビーピックだった義母(故人)はトイレが頻繁で、行ったことをすぐ忘れ、出たか出ないかもすぐ忘れ、車で医者に連れて行く時など「むっちゃうよ(漏れちゃうよ)!」「そこの畑でするから降ろして!」と大騒ぎするので大変でした。子どものころお漏らしして恥ずかしいことがあったのかな、と夫と話しました。レビーの義父も、小さいとき辛かったことが、認知症になってよみがえったような言動がみられます。 2人を見ていて、認知症になると心の底に沈んでいた思いが露わになるのかな、と感じたのでこのような投稿をさせていただきました。

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