ヤングケアラー支援法制化へ「当事者はどんな支援が欲しいのか?」講演会で感じた戸惑いの理由
高次脳機能障害の母をもつ元ヤングケアラーのたろべえさんこと高橋唯さん。母のケアを続けながら、講演会などでケア経験を発信する機会が増えてきた。各地で講演を重ねていく中で、疑問や戸惑いを感じることもあるという。「ヤングケアラーはどんな支援が欲しいのか?」子供時代を振り返りながら、たろべえさんが考察する。
執筆/たろべえ(高橋唯)さん
「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/
元ヤングケアラーの経験を伝える講演会で思うこと
昨年は、市民向けの講座や行政職員向けの研修など様々な場所でケア経験をお話しさせていただいた。
通常は回を重ねるごとに上手に話せるようになるものだと思うが、正直なところ、最近の講演では「これでいいのだろうか?」と自問自答しながら話すことも増えた。
「味方」という言葉への違和感
私はたいてい「今日お集まりのみなさんがこれからヤングケアラーの味方になってくれると思うと、とてもありがたいです」と言って話を締める。
しかし最近、ヤングケアラー当時の自分は、周りの大人に味方になってほしいと思っていたか?と疑問を感じるようになった。
当時の私は、ケアをすることを「よいこと」だとは思っていなかった。
母は悪気があるわけではないが、どうしても誰かに不快な思いをさせてしまうことが多い。母と出かけると、知らない人を指さして「あの人、ハゲだよ」「障がい者だ!なんでみんな顔が似ているんだろうね」などと思ったことをそのまま口にしてしまう。
近所の方々は、火の始末ができない母が近くに住んでいるというだけで不安の種だと思う。
母がアルコール依存症だった時期には、泥酔した母を見て「どうして子どもの私をこんなにつらい目に遭わせておいて、それがわからないのか」とやるせない気持ちになった。
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母をケアすることは「良いことか悪いことか」?
そんな母が生きていくことを助けることは、母がさらにいろいろな人に迷惑をかけることに加担しているような気がして、あまりよいことだと思えなかった。
母のケアよりも、勉強や部活などを頑張ることの方が自分にとって「よいこと」だとも思っていた。
一方で、私よりも生活の自由が少ない母のことをないがしろにすることは「悪いこと」だと思っていて、ケアをしてもしなくても悪いことのように感じていた。
自分がよいことをしているという自信があれば、周りに「手伝ってほしい」「ぜひ味方になってほしい」と頼みやすかったと思う。しかし、実際には逆に悪いことに巻き込んでいるようで、信頼できる人にほど頼りにくかった。
愛があるからケアをしているのか?
ケア経験を話すと、「家族愛を感じました」という感想をいただくことがある。
しかし、自分ではあまり自分のことを家族愛が強いとは思っていない。もちろん、愛情が一切ないというわけではないが、個人的にはケアをする理由に愛情は必須ではないと思う。
例えば、目の前で知らない人が倒れて、その場に自分しかいなかったら、大体の人は「大丈夫ですか?」と声をかけると思う。私の場合は、それがたまたま家の中で、相手が母親だっただけのことだ。自分しかケアをする人がいない状況に置かれたら、誰でも自然にケアをするのではないかと思う。
似たような感想で「自分には(そんな風に家族のケアをすることは)できない」ともよく言われる。たしかに私も他の人のケア経験を聞いてそんな風に思ってしまうこともある。
しかし、ヤングケアラーは「自分とは違う特殊な人」という訳ではない。
自分自身も誰かのケアに関わる当事者になるかもしれないと考える人が増えることで、ケアラー、ヤングケアラーがより生活しやすい社会を目指せるのではないか。
ヤングケアラー時代、どんな支援がほしかったか?
最近の講演では、ヤングケアラーの基本的な知識というより、どのように支援していくかという実践的な内容が求められていることを強く感じる。
私自身も「ヤングケアラー時代にどんな支援がほしかったか?」とよく聞かれる。正直なところ、自分でもよくわからない。幼い頃からケアがある生活があたりまえで、支援が必要だと思ったことがないのだ。
「ヤングケアラーにこのような支援をしてもいいだろうか?」と意見を求められることもある。これも正直「人による」としか答えられない。
ケア負担が大きく、学校生活に影響が出ていたヤングケアラーは、ヤングケアラー支援の啓発が進んだことで、楽になれる部分も大きいと思う。
一方で、私のような緊急で支援の必要がないようなヤングケアラーは、急に「支援の対象」と言われて、戸惑いもあるのではないだろうか。
元ヤングケアラーとして伝えていくべきことはなにか
昨年12月には政府がヤングケアラー支援を法制化する方針を明らかにした。
ヤングケアラー支援が進むことはありがたいと思う一方、ケアの負担が減ることだけで悩みの全てが解決するわけではないので、複雑な心境だ。
今年も様々な場所でケア経験をお話しさせていただく予定だが、元ヤングケアラーとして社会に伝えていくべきことはなにか、今一度考え直していきたい。
ヤングケアラーに関する基本情報
言葉の意味や相談窓口はこちら!
・ヤングケアラーとは
日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。
・ヤングケアラーの定義
『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。
・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
・相談窓口
・厚生労働省「子どもが子どもでいられる街に。」
児童相談所の無料電話:0120-189-783
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/
■文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
■法務省「子供の人権110番」:0120-007-110
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html
■東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス
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