認知症で要介護4の母に電話をしたら“敬語”で対応された!息子が感じた違和感の理由
岩手・盛岡に暮らす認知症の母を10年に渡り遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。母は要介護4となり、色々なことを忘れてしまう日々。あるとき母に電話をしたら妙な違和感が…。「息子を忘れてしまったのだろうか」。その日が来たらどう対処すればいいのか。記憶が薄れゆく母への想いや受け止め方について、遠距離介護の達人が考察する。
執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(80才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。
著書『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)など。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。
デイサービスの出発2時間前から母が外に出ようとする
親子で会話をするとき、敬語を使いますか? わたしはこれまで、母から敬語で話しかけられたことは1度もありませんでした。しかし岩手の母に電話をしたところ、急に敬語で話しかけられ、強烈な違和感を覚えたのです。
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その日は母がデイサービスに行く日で、東京に居たわたしは見守りカメラで母の様子を見ていました。朝7時に玄関の扉を開け、母はデイサービスの送迎車を待っていました。
デイサービスのお迎えが来るまで、まだ2時間以上もあります。しかも出発の1時間前にはヘルパーさんが来て、デイサービスに持って行く着替えや連絡帳の準備をしてもらっています。
母には居間でテレビでも見ながら、ヘルパーさんが来るのを待っていて欲しいのですが、何の準備もせずに、玄関の上がり框のところに座って外を眺めていました。こうなると母は座ったまま、動かなくなります。すぐ電話をして、母に今の状況を説明することにしたのです。
息子からの電話に敬語で話し続ける母に違和感
わたし:「もしもし。デイサービスの車が来るまでまだ2時間以上あるから、居間でテレビでも見て待ってて」
これまで何度も同じ内容の電話をしているのですが、母の返事はいつも決まっています。
母:「でもね、他の人がデイサービスの準備を忘れていて、いつもよりも早く迎えに来たことがあったのよ」
これは母の作話で、出発予定の2時間も前にデイサービスの送迎が来たことはありません。でも間違いを認めたくないから、早く迎えに来るかもしれないと言うのだと思います。
しかし今回の返事は、今まで一度も聞いたことのないものだったのです。
母:「あ、そうでしたか。はい、分かりました」
わたしは「親子なのに、なんで急に敬語?」と正直戸惑いましたが、最後まで用件をしっかり伝えようと思い、そのまま話し続けました。
電話の相手は見知らぬ他人だと思っていたのか?
わたし:「もしもし。あなたの息子ですよ、分かる? 居間でテレビでも見て待ってて」
母:「はい、そうですか。わざわざありがとうございます、失礼します~」(ガチャッ)
まだ会話の途中でしたが、一方的に電話を切られてしまいました。母は、電話の相手が誰かを理解していないようでした。
ちなみに実家の固定電話の呼び出し音は、「ひろさんから電話です」のように名前で呼び出す機能がついています。母はてっきり、呼び出し音で理解できていると思っていたのですが、どうやらそうではなかったみたいです。
知らない人からの電話だから、とりあえず敬語で話しておけばいいだろうという感じにも取れました。結局、見知らぬ人からの電話に従って、母は居間に戻ってくれました。
息子の声が分からなくなるほど、認知症が進行したのかもしれない。そう思いながら、電話のやりとりから1週間後に、岩手へ帰省することになりました。
敬語の受け答え後、母と実際に会ってみたら…
ひょっとしたら声だけでなく、わたしの顔も認識できないかもしれない。そんな覚悟をしながら、デイサービスから帰ってきた母をいつも通り家で迎えました。
母:「あれ、あんたいつ帰ってきたの? 今朝、一緒だったかしら?」
わたし:「いや、さっき東京から帰ってきたばっかり」
電話の声は認識できなかったのですが、息子の顔を見たら思い出したようで、自然と敬語はなくなっていました。
認知症の人が家族を忘れてしまったときの受け止め方
認知症の親が、息子や娘を認識できなくなるケースはよくあります。介護の本を読んでも、介護経験者から話を聞いても、これといった解決方法はなさそうで、現実を受け入れるしかないのかもしれません。
息子のわたしは思い出してくれたのですが、娘であるわたしの妹には敬語で話しかける回数がどんどん増えています。例えば、母とわたしと妹の3人が一緒に居る時のやりとりは、こんな感じになります。
母:「あら、今日はどちらからいらしたの?」
妹:「どちらからじゃないでしょ? あなたの娘」
わたし:「自分で産んだ子ども!出産は大変だったでしょ?」
母:「そうだったかしらね、ごめんごめん」
妹も最初はショックだったと言っていましたが、今では慣れてしまったようです。しっかり現実を受け入れたのだと思います。わたしも最初はショックを受けると思いますが、妹と同じく次第に慣れていくだろうと思っています。
亡くなった認知症の祖母も重度まで進行しましたが、孫のわたしと妹の名前も顔も、最期まで覚えていました。だから母も最期まで忘れないだろうと思っていた時期もありましたが、祖母よりも症状の進行が早いので、今では厳しいと思っています。
敬語は息子を忘れるサインの1つだと思っていますが、まだ完全に忘れたわけではありません。時間の猶予はあります。息子と認識できているうちに外食に行ったり、これからの介護の方針について話したりしておこうと思っています。
今日もしれっと、しれっと。
『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)
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