犬猫は大事な家族「最期のときまでペットと暮らせる」を実現した夢のような高齢者施設
NHKのETVでも取り上げられた、いま話題の犬猫と暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」。そこは、これまで一緒に生活していた大切な家族(犬・猫)との同伴入居も可能な施設だ。累計90万部の国民的ベストセラー『盲導犬クイールの一生』の著者が、贈る感動の記録、新著『犬が看取り、猫がおくる、しあわせのホーム』より一部抜粋、この施設の取り組みをお伝えする。
離れたくないから「同伴入居」。殺処分につながらないためにも
特別養護老人ホームとしては日本で初めて、犬や猫と一緒に入居できることを実現させた「さくらの里」は、犬や猫を愛する人たちにとって、夢のような場所と言っていい。
犬や猫を飼っている(飼っていた)人なら、一度は考えたことがあるだろう。自分が年齢を重ねていく中、いつまで飼っていられるのかな? と。きっとほとんどの人は、どこかの時点で飼うことをあきらめる。子どもたちと同居してその家族が飼っている場合などを除けば、犬猫のいない寂しい老年期が待ち受けているのだ。
そして今や、自宅で天寿をまっとうするケースは珍しく、老人ホームに入ることはごく一般的となった。そんな状況下において、自分が天国に召されるまで犬や猫と暮らせるなんて考えはしないはず。家庭でもそうだし、ましてや老人ホームでなんて誰しもが発想の外にあるだろう。
そんな大きく立ちはだかる壁を打ち破ったのが「さくらの里」である。その功績の芯となる画期的なシステムが、飼い犬・飼い猫とともに入居できる「同伴入居」だ。現在までの11年間で、犬は11例、猫は10例の実績がある。
誰しも、自分が老いるまで一緒にいた犬猫たちと離れるのはつらすぎる。僕も犬と猫と暮らしているが、自分の身に置き換えて想像してみたら、絶対無理、という気持ちが痛いほどわかる。しかし、認知症をはじめさまざまな症状や状況で施設に入らねばならないケースは多い。そんな時、犬や猫たちはどうなるのか?
いい方向としては、飼っていた犬や猫を、子ども、きょうだい、親族などが引き取ってくれること。そして考えたくもない方向としては、家族や親族が、保健所に差し出してしまうこと。つまり、その先のほとんどで殺処分が待っている。
犬猫を愛する人ならみんな、そんな結末は阻止しなければと思うだろう。愛犬家・愛猫家が老人ホームに入居する際に、こんな重大な問題が起こりうるのだ。実際にどの程度の割合でこうなってしまうのかは、調べる手立てがないのでなんとも言えないのだけれど、少なからずありえるのではないかと想像はつく。
犬猫とずっと一緒にいたいから、というシンプルな願望を叶えるための同伴入居だが、副次的にこのような犬猫保護の一助にもなっている。
また「さくらの里」では、さらに直接的な保護活動として、保護された犬や猫を、保護団体からホームの飼い犬・飼い猫として迎え入れてもいるのだ。
【データ】
さくらの里 山科
社会福祉法人「心の会」特別養護老人ホーム。
神奈川県横須賀市太田和5-86-1
http://sakura2000.jp/publics/index/8/
文・撮影/石黒謙吾
著述家。編集者。1961年金沢市生まれ。著書に、映画化されたベストセラー『盲導犬クイールの一生』をはじめ、『2択思考』『分類脳で地アタマが良くなる』『図解でユカイ』『エア新書』短編集『犬がいたから』『どうして? 犬を愛するすべての人へ』(原作・ジム・ウィリス・絵・木内達朗)、『シベリア抑留 絵画が記録した命と尊厳』(絵・勇崎作衛)、『ベルギービール大全』(三輪一記と共著)など幅広いジャンルで活躍。プロデュース・編集した書籍は、『世界のアニマルシェルターは、犬や猫を生かす場所だった』(本庄萌)、『犬と、いのち』(文・渡辺眞子、写真・山口美智子)、『ネコの吸い方』(坂本美雨)、『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』(石黒由紀子)、『負け美女』(犬山紙子)、『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました』(中本裕己)、『ナガオカケンメイの考え』(ナガオカケンメイ)、『親父の納棺』(柳瀬博一、絵・日暮えむ)、『教養としてのラーメン』(青木健)、『餃子の創り方』(パラダイス山元)、『昭和遺産へ、巡礼1703景』(平山雄)など280冊を数える。