「膀胱温存療法」QOLを維持する治療として期待される
膀胱がんは、その進行により、粘膜と粘膜下層に留まっている筋層非浸潤性がんと、筋層浸潤性がん、転移性がんに大別される。
現在、浸潤性膀胱がんの標準治療は膀胱全摘術だが、放射線と抗がん剤治療に膀胱の部分切除を組み合わせた膀胱温存療法が開発された。患者の手術の負担を軽減し、QOL(生活の質)を保てる治療として期待されている。
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膀胱がんは、その進行が粘膜と粘膜下層に留まっているか、筋層に到達しているかで治療法が大きく違う。早期は内視鏡での治療が可能だが、筋層に浸潤している場合は膀胱全摘術が標準治療だ。
男性の場合は膀胱だけでなく、前立腺も同時に摘出される。さらに、がんの摘出後にも腸管で新しい尿の出口(ストーマ)を作るか、小腸を切り、袋状に丸めて膀胱の代用とする必要がある。これは手術による体の負担が大きいだけでなく、排尿のたびに患者の日常生活が制限され、不便を強いられてしまう。
これらを改善するため、浸潤性膀胱がんを対象に膀胱温存療法が試みられている。
多摩南部地域病院(東京都)泌尿器科の小林秀一郎医師に話を聞いた。
放射線、抗がん剤、病変部分切除を組み合わせた温存療法
「膀胱温存療法の中には手術を行なわず、放射線と抗がん剤治療だけの方法もありますが、当院で行なっているのは放射線と、少量の抗がん剤治療に膀胱病変の部分切除を組み合わせた温存療法です。高齢者、合併症などで大きな手術を受けることに対する危険性が高い患者、尿袋の貼り付けや交換が難しい患者、前立腺を取らずに性機能を維持したい患者など、個々の状態や、ご希望にできるだけ沿うように行なっています」
膀胱温存療法が対象となるのは筋層浸潤性がんのうち、がんが単発で、かつ膀胱の広範囲に広がっていないこと、がんの場所が尿道の近く(膀胱の出口)ではないこと、粘膜を這う、上皮内がんを併発していないことだ。
治療は最初に週5回4週間、計40グレイの放射線を膀胱全体に照射し、1週目と4週目に低用量の抗がん剤(シスプラチン)を点滴投与する。抗がん剤点滴の際は入院が必要で、放射線治療だけの時期は通院で行なう。
放射線と抗がん剤の治療後は画像診断で病巣の縮小を評価し、また内視鏡で細胞を採取して病巣や周辺の細胞の状況を確認する。膀胱の温存が可能と判断できれば、部分切除を最小限の創の低侵襲な手術で行なう。
「この膀胱温存療法は手術をする際、膀胱の病変だけでなく、周囲のリンパ節も一緒に取り除きます。広い範囲のリンパ節を取り除くため、微小な転移の芽も摘むことができます。これが治療成績の改善につながっている、1つの要因だと考えています」(小林医師)
放射線と抗がん剤治療に、膀胱部分切除を組み合わせた膀胱温存療法を開発し、以前から積極的に取り組んでいる東京医科歯科大学が公表したデータでは、膀胱部分切除を受けた患者の5年がん特異的生存率は93%と極めて良好な結果になっている。
現在、膀胱がんの温存療法の実施医療機関はごく一部で、普及しているとはいえない。今後も治療効果の評価を重ねてゆき、膀胱温存療法が普及するよう望まれている。
膀胱がん膀胱温存療法の流れ
●週5回放射線照射を4週間。1週目と4週目に低用量抗がん剤点滴投与→●治療効果測定。画像診断・尿細胞検診・
再TURI(内視鏡で細胞をとる検査)。効果あり→●膀胱温存:膀胱部分切除
※週刊ポスト2019年1月18・25日号