60代以上の女性は要注意「骨盤臓器脱」とは?出産経験者のリスクや症状を医師が解説
「骨盤臓器脱」という言葉を聞いた事があるだろうか。骨盤底筋群の衰えが原因で子宮などの臓器が落ちてきてしまう状態のことだが、出産経験者は未経験者よりリスクが最大で10倍にも上がるという。「骨盤臓器脱」の種類や症状、対処法などについて専門医に話を聞いた。
出産経験者は未経験者よりも最大10倍のリスクが
「就寝中や午前中は気にならないのですが、夕方になると、腟の入り口にピンポン玉が挟まっているような違和感があるんです。押し込めば元に戻りますが、自転車のサドルに座るときは少し痛みます」
と話してくれたのは埼玉県の主婦・Mさん(62才)だ。
こういった症状を「骨盤臓器脱」といい、骨盤内の臓器を支えていた骨盤底筋群が衰えて支えきれなくなり、臓器が落ちてきた状態を指す。
聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田・院長の八田真理子さんはこう話す。
「中でも、出産を経験されている人は、骨盤底筋群にダメージを受けているため、リスクが高いといえます。特に2人出産している人は、出産していない人に比べてリスクは8倍、3~4人出産した人では9~10倍といわれています。さらに、赤ちゃんの体重が3750g以上、頭囲が35.5cm以上の場合は要注意です」(八田さん・以下同)
出産だけでなく、肥満、筋肉の少ないやせた体形、遺伝、便秘がちでいきむことが多い人や、重い荷物をよく持つ人は気をつけたい。
「骨盤臓器脱」セルフチェック
自分に当てはまるものがないか、確認していこう
□ 特に夕方、下腹部に何かが下りてくる感じがする
□ 股間に何かが挟まっている感じがする
□ 陰部が下着にこすれて出血する
□ 立ち上がっただけで尿もれする
□ 排尿や排便がしづらい
主な骨盤臓器脱の種類
骨盤臓器脱といってもいろいろなケースがあるのでご紹介する。
★正常
骨盤底筋が健全なら、すべての臓器が骨盤底に支えられ、適切な位置に収まっている。
■子宮脱
軽~中度は腟口から子宮が飛び出しても、手で押し込めば戻る。悪化すると子宮すべてが出てしまい押し戻すのが大変なため、手術という選択肢も。
■直腸瘤
直腸が飛び出た状態。直腸と腟壁が同時に落ちるため、脱出した部分に便がたまり排便障害を引き起こすことも。
■膀胱瘤
前側の骨盤底が緩み、膀胱が腟壁とともに落ちてくる。この症状が最も多い。
■小腸瘤
子宮全摘後に多く見られ、小腸と腹膜が腟と直腸の間に垂れて飛び出た状態。
■腟断端脱
子宮を全摘した人に起こり、腟壁自体が垂れ下がった状態。
診察は2~3か月、手術は1年待つことも
「骨盤臓器脱は60代以降の女性の10人に1人がなるといわれていますが、高齢化が進んだいま、もっと多い印象を受けます。専門病院でも、診察に2~3か月、手術は1年待ちになると聞いています」
コロナ禍の運動不足で筋力が弱ったことも影響してか、ここ最近、悩む人は増えているという。症状が進めば尿が出にくくなったり、飛び出た臓器が下着とすれて出血が起こるため、気になったら診察や手術まで待つことも考え、なるべく早く受診するのがおすすめだ。
「治療は、軽度なら骨盤底筋トレーニングを指導したり、腟に医療用シリコン素材のペッサリーリングを入れて、落ちた子宮や膀胱を支える方法があります(下図参照)。
リングを腟に入れ、寝る前に取り出して洗う『自己着脱法』が衛生的でおすすめですが、自分で着脱できない人は病院で入れてもらい、3か月に1回交換することも可能です。装着したままの性交渉も可能です。重度の場合は内臓を吊り上げるなどの手術が必要となります」
膀胱や子宮を支える「ペッサリーリング」
落ちた子宮や膀胱を支える方法「ペッサリーリング」
おすすめの骨盤底筋群トレーニング方法
症状が軽い場合は、骨盤底筋群を鍛えるトレーニングで改善するわけだが、おすすめなのは次の方法だ。
【1】仰向けになる。
【2】両ひざを曲げて立て、足を肩幅に開いたら、おへその上に手を乗せる。
【3】10~15秒程度、肛門や腟をお腹側に引き上げるようなイメージで締める。
【4】45~50秒程度、力を抜いて体をリラックスさせる。これを10回ほど繰り返す。
★自己流トレーニングは要注意!
こういったトレーニングの際、注意点があるという。
「骨盤底筋トレーニングは、正しく行えば骨盤臓器脱の予防に有効なのですが、自己流は危険。私の患者さんもそうなのですが、間違ったやり方をしている人が多いんです。たとえば、腟や肛門を締めるときにお腹をギュッとひっこめてしまう。これだと、内臓に過度な腹圧をかけ、症状を悪化させてしまいます」
正しく鍛えられているかどうか不安な場合は、婦人科で確認してもらおう。
教えてくれた人
八田真理子さん/「聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田」院長
日本産科婦人科学会専門医。女性の幸せをサポートすべく、思春期から更年期まで幅広い年代の診療に尽力。著書に『産婦人科医が教える オトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)など多数。
取材・文/佐々木めぐみ イラスト/小野寺美恵
※女性セブン2023年2月16日号
https://josei7.com/
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