『silent』脚本家のデビュー作、星野源絶賛のコメディ、宗教二世映画など年末年始に観たい映像作品20選!
年末年始に配信サービスで楽しめる映画&ドラマを20作品紹介します。セレクトは『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』などで知られるゲーム作家の米光一成さん。基本的に2022年には配信スタートした作品を中心に、時事や今年の話題に関連性の深い近作も視野に、語りどころの多い、感想戦で盛り上がる傑作を揃えてもらいました。
『コーダ あいのうた』~唯一聴こえる少女の葛藤
第94回アカデミー賞(2022年)作品賞含む主要3部門受賞。聴覚障害者の家族のなかで唯一聴こえる少女を描いた映画。家業の漁業を手伝っている彼女が、合唱クラブに入り、顧問の先生から名門音楽大学への進学を勧められる。明るくユーモラスな家族と、その家族を守りながら自分自身の道を模索する彼女の葛藤がダイナミックに描かれる。合唱の場面のリアリティに打ちのめされる青春映画の傑作。フランス映画『エール!』リメイク作品。
『星の子』~宗教二世の少女を芦田愛菜が演じる
2022年は宗教二世がクローズアップされた年だった。『星の子』はまさに、宗教二世を描いた映画。主人公中学3年生のちひろを演じるのは芦田愛菜。両親(永瀬正敏・原田知世)は病弱に生れた彼女を助けるために「あやしい宗教」を信仰しはじめる。布教用の物品を買い、宇宙のエネルギーを宿した水を飲み、その水を染み込ませたタオルを頭にのせている。とはいえ、宗教をエキセントリックに批判する映画ではなく、少女ちひろの日常を淡々と描く。学校では友達と恋バナをし、先生(岡田将生)に憧れたり、授業中に落書きをしたりする。そこにいる人を断じたりしない視点が貫かれ、ラストシーンが余韻を残す。
『DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン』~庵野秀明『シン・ウルトラマン』のスピリッツ
2022年5月に公開された『シン・ウルトラマン』が早くも配信で視聴可能なのも驚きだが、さらに庵野秀明監督の自主制作映画『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』が配信にのったことも驚きである。
1983年に開催された日本SF大会「DAICON4」用に作られた8ミリフィルムによる実写映画。巨大怪獣バグジュエルと地球防衛軍+ウルトラマンの戦いを描いた28分の作品。
5000人以上も生存者がいる地点に熱核兵器で攻撃するのかどうか、あおりで映される電柱など、現在に通じるスピリッツが、この若き作品にも存分に発揮されていてワクワクする。
『天気の子』~『すずめの戸締まり』新海誠監督の大ヒット作
『すずめの戸締まり』が大ヒット公開中の新海誠監督の2019年公開作品。異常気象によって雨の日が長期的に続いている東京が舞台。「バーニラバニラバーニラ求人♪」のバニラ宣伝カーが走るトチ狂った東京をキラキラと美しく描き切る威力と、クライマックスの音楽とシンクロした盛り上がりに気持ちを持っていかれる。
『踊り場にて』~『silent』脚本家のデビュー作
大ヒットドラマ『silent』の脚本家・生方美久のデビュー作。第33回フジテレビヤングシナリオ大賞作品。バレエダンサーの夢が破れ高校教師になった美園舞子(瀧本美織)が、生徒と交流していくうちに新しい一歩を踏み出す。生き生きとしたキャラクター、響くセリフがぎゅっと詰まった60分1話のドラマ。『silent』ロスな人はぜひ。
FODにて配信中
演出:柳沢凌介 脚本:生方美久 出演:瀧本美織、富田靖子
『ワンダーウォール 劇場版』~『エルピス』脚本家が描く「大学」
骨太なドラマで支持を得た『エルピス』の脚本家渡辺あやの2018年作品。大学の寮舎を補修しながら残したい学生側と、まっさらに建て替えたい大学側の対立を描いた青春ドラマ。学生課の窓口に抗議に行き、職員の通称・寺戸ポットを倒したとて、また別の担当者が出てくるだけであり、いつまでたっても戦う相手すら見いだせない。戦うどころか対話すらできない相手に立ち向かう虚無感(立ち向かえているのかどうかも判らない!)を生み出す構造が主題なのは『エルピス』と同じだ。
『ザ・イングリッシュ・ゲーム』~19世紀イギリスのサッカー
サッカー・ワールドカップ・カタール大会で日本代表が強豪ドイツに劇的勝利を収め、スペインを破り、2大会連続の16強入り。盛り上がった。そこでサッカードラマを紹介。
19世紀のイギリスが舞台。上流階級たちの紳士のゲームになっていたサッカーに、労働者が挑む格差社会スポーツドラマだ。全6話のリミテッドシリーズだ。
名門校出身の上流階級アーサー(エドワード・ホルクロフト)は、あからさまに労働者階級のサッカーチームを軽視する。自分たちの都合でルールを捻じ曲げ、抗議されると、「僕たちはみんな役員だ。何か問題が?」と返す。
もちろん彼らにも言い分はある。野蛮なスポーツであったサッカーの規則を整備して、文明化したという自負が、彼らにはあるのだ。労働者階級によって「われわれのサッカー」を汚されたくないという思いだ。
労働者階級でサッカーの才能を持つファーガス(ケビン・ガスリー)と上流階級アーサー(エドワード・ホルクロフト)のサッカーを通じた交流と競技サッカー勃興の歴史を見事な映像で描いている。
Netflix映画『ザ・イングリッシュ・ゲーム』独占配信中
原作・制作:ジュリアン・フェロウズ、トニー・チャールズ、オリヴァー・コットン 出演:エドワード・ホルクロフト、ケヴィン・ガスリー、シャーロット・ホープ、二―ヴ・ウォルシュ、クレイグ・パーキンソン、ジェームズ・ハークネス
『アポロ10号 1/2: 宇宙時代のアドベンチャー』~日本あるあるとも通じる
ロケットの町で暮らす少年スタンリーの日常と月ロケット計画を描いたロトスコープアニメ(実写撮影をトレースしてアニメーションにする手法)。
舞台は1969年のテキサス州ヒューストン。少年スタンリーは、男に連れて行かれて「君には極秘ミッションに参加してもらう」と、アポロ11号の前に月を目指すことになる。1969年ころのアメリカの少年少女あるある、60年代カルチャー史が満載。同年代の日本の少年少女あるあると通じるところがたくさんあって盛り上がる。兄弟とのチャンネル争い、机の下に隠れても放射線は防げないと思いながらやる防災訓練、体罰がある野蛮な学校教育、野球カード、塩素が強すぎるプール、いたずら電話、ラジオ、アイドル、映画などなど。日曜日の夕方『サザエさん』を観終わると明日は学校か……とちょっと憂鬱になる感じが、アメリカの少年少女にもあることにも驚く(番組は『ディズニーの世界(カラーの世界)』)。
監督はリチャード・リンクレイター。郷愁と懐かしさを存分に味わってほしい。
監督:リチャード・リンクレイター 出演:ジャック・ブラック、ビル・ワイズ 製作総指揮:ジョン・スロス
『ドロステのはてで僕ら』~ワンカットの長回し的映像をイッキ見
店の2階が2分後の未来になっていることから巻き起こるドタバタ劇。現在と2分後とそのまた2分後とそのまた2分後と……無限に2分後が入れ子になって、頭が爆発しそうな構造を見事に捌き、混乱の果ての面白さを堪能できる。全編ほぼワンカットの長回し的映像で、イッキ見。
『夜は短し歩けよ乙女』などの脚本を手がけた上田誠率いる劇団・ヨーロッパ企画による初のオリジナル長編映画。原案・脚本、上田誠。監督、山口淳太。
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』~自閉スペクトラム症の新人弁護士
韓国、日本だけでなく世界的大ヒットとなった法廷ドラマ。自閉スペクトラム症の新人弁護士ウ・ヨンウ(パク・ウンビン)が主人公。たとえば第3話、自閉スペクトラム症の少年が被告で、コミュニケーションが難しい彼を弁護する。こんな難しいハードな社会問題を扱いながら、主人公の幻視するクジラや、「回転ドア」をワルツのリズムで通り抜けさせてくれたイ・ジュノとの恋をも同時に描いて、ユーモラスで美しい。おかしくて風変わりな我々のためのおかしくて風変わりなエンターテインメント作品。
Netflixシリーズ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』独占配信中
出演:パク・ウンビン、カン・テオ、カン・ギヨン 他、演出:ユ・インシク、脚本:ムン・ジウォン
『リンカーン弁護士』~予想できないツイスト展開
アメリカドラマ脚本家の巨匠デイビッド・E・ケリー(『アリー my Love』の脚本家だ)が2022年に投入した法廷ドラマのひとつが『リンカーン弁護士』。デイビッド・E・ケリーが制作総指揮・脚本『リンカーン弁護士』は、世界90カ国でトップ10入りを果たし、シーズン2の制作も決定。
ミッキー・ハラー(マヌエル・ガルシア=ルルフォ)は、リンカーン車に乗って活躍する弁護士。ゲーム開発者エリオットの事件が全10話の大きな物語として描かれて、陪審員をどうやって選ぶか、裁判はどのように進んでいくのかを丁寧に描きながら、予想できないツイストする展開で目が離せない。
製作総指揮・脚本:デビッド・E・ケリー、原作:マイクル・コネリー、出演:マヌエル・ガルシア=ルルフォ
『ある告発の解剖』~性暴力の問題を単純化しない
巨匠デイビッド・E・ケリー、2022年のもうひとつの作品が『ある告発の解剖』。問題作だ。
大統領と親しいジェームズ・ホワイト大臣をレイプで告発した補佐官オリヴィアの法廷対決を描いている。
訴えたオリヴィアは、ジェームズと不倫しており、エレベーターの中で情熱的なキスをしたときには「性交渉」に同意していたが、だがジェームスが下着を剥ぎ取り破った時には「ここじゃダメ(Not here)」と言い抵抗したと証言する。
性暴力の問題を単純化して声高に告発するドラマではなく、権利・真実・同意の境界線を決定することの難しさに切り込んだ作品だ。
Netflixシリーズ『ある告発の解剖』独占配信中
製作総指揮・脚本:デビッド・E・ケリー、原作:サラ・ヴォーン、出演:シエナ・ミラー、ルパート・フレンド、ナオミ・スコット
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』~実は犯罪心理映画
ジェーン・カンピオン監督、12年ぶりの傑作。アカデミー賞最多の12部門ノミネート、監督賞を受賞。
音楽は、レディオヘッドのギタリスト:ジョニー・グリーンウッド。
舞台は1925年のモンタナ州。広大な牧場を持つ兄と弟、そして弟の妻になった女性とその息子が主要登場人物。
マッチョで、“男らしい”カウボーイのリーダーであるフィルをベネディクト・カンバーバッチが演じる。フィルに対峙する耽美な少年ピーターを『ザ・ロード』『モールス』のコディ・スミット=マクフィーが演じる。この二人を軸にした静かな対決。突然おとずれるクライマックス。振り返るとそこまでに描かれていた精緻な伏線と象徴、登場人物たちの心理戦に圧倒され、確認するために再観したくなる。西部劇であり格調 高い文芸大作と思いこんでいると驚かされる犯罪心理映画だ。
監督:ジェーン・カンピオン、出演:ベネディクト・カンバーバッチ、キルステン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディ・スミット=マクフィー
『アダム&アダム』~未来から来た大人のアダムと12歳のアダムが大冒険
『フリー・ガイ』で主演したライアン・レイノルズとショーン・レヴィ監督がタッグを組んだ超ノリノリのタイムトラベル大冒険活劇。未来から来た大人のアダムと12歳のアダムが、未来を救うために時空を超えた冒険を繰り広げる。ハラハラドキドキ、テンポよく、セリフもよし。おとそでもちびちびやりながら、気軽に観るべき娯楽作です。
監督:ショーン・レビ、出演:ライアン・レイノルズ、ウォーカー・スコーベル
『我々の父親』~94人もの異母兄弟が!
能天気な正月番組に飽きたら、ぜひダークでヘヴィなドキュメンタリー作品『我々の父親』をどうぞ。
「兄弟が欲しい」と思っていたジャコバ・バラードさん。異母兄弟が見つかるかもしれないと個人向けDNA検査で調べてみると、1人や2人ではなくぞくぞくと見つかっていく。しまいには94人もの異母兄弟がいることが判る!! なぜこんなことが起こっているのか?
不妊治療の名医ドナルド・クラインが、実は自分の精子を使って人工授精していのだ。つまり、すべての父親はこのドナルド・クライン。権威のある専門医であり、教会の日曜学校の講師もつとめる善行の人は、なぜこんなことをしてしまったのか? 本人の口からは明確には語られないが、映像からその理由が見えてきて、さらにゾッとする。
制作に『パラノーマル・アクティビティ』『ゲット・アウト』『M3GAN ミーガン』などのホラー映画を多数手掛けるジェイソン・ブラム。
監督:ルーシー・ジュルダン
『画家と泥棒』~絵を盗んだ犯人と画家の不思議な関係
自分の絵を盗んだ犯人に「あなたを描かせて」と言い出す画家。ふたりの奇妙な関係を3年以上追ったノルウェーのドキュメンタリー作品だ。
ノルウェーの個展から2枚の絵画が盗まれる窃盗の現場を映し出した監視カメラの映像からはじまって、画家が「あなたを描かせて」と提案し、そして描いた絵を犯人が観ることになる。この場面の生々しさ、芸術が何をなしとげ、何を変えたかをストレートに捉えた映像に観るこちらも心震わせてしまう。ふたりの関係性、心情の揺らぎ、ダイナミックに変化していくようすがスリリングなドキュメンタリーだ。
『はじめてのおつかい』~ぜひ英語字幕つきで
人気バラエティ『はじめてのおつかい』(日本テレビ)を海外グローバル編集したNetflix版。小さな子供をおつかいに出すシンプルなドキュメンタリーが、全世界的に話題になった。海外配信タイトルは『Old Enough!』直訳すれば「じゅうぶんな年齢」、雰囲気込みで訳せば「もうできるもん!」だろうか。おつかいVTRが、「これぞ日本」なセレクション。お地蔵さんにカサをかぶせて、友達に腹帯を届けるおつかい(第3話)や、なかよし二人組が神社の石段を登ってお守りとおだんごを買いにいくおつかい(第5話)、魚屋さんに刺し身にさばいてもらって妹のためにリンゴを買ってくるおつかい(第8話)、みかん畑で働くみんなのためにみかんジュースを作ってくるおつかい(第2話)など、ぜひ英語字幕つきで観てほしい。
Netflixシリーズ『はじめてのおつかい』独占配信中
『ボー・バーナムの明けても暮れても巣ごもり』~星野源絶賛のコメディ
星野源さんが『星野源のオールナイトニッポン』で絶賛したパーソナル・ミュージカル・コメディ。パンデミックでひとり部屋にこもっていなければいけない期間に、コメディアンのボー・バーナムが、ひとりで演じ、ひとりで照明をやり、ひとりで撮影した作品。インスタグラムあるあるや、自虐ネタが展開して楽しい。
監督・脚本・出演・照明ボー・バーナム
『カーター』~3Dゲームの華麗なプレイのような映画
『殺人の告白』『悪女/AKUJO』のチョン・ビョンギル監督作が、アクションにつぐアクション、ひたすら「こんなの観たことがないぞ!}と驚くべき斬新なアイデアを詰め込んだバイオレンスアクションの連続映像をを作り上げた。とくに最初の15分、パンツ一丁で大浴場のヤクザ集団との大乱闘は、息つく暇のない壮絶な戦い。何十人死んだか判らない大虐殺。ワンカット風な撮影で没入感も半端ない。超良質な3Dゲームの華麗なプレイのような映画なのだ。正直、物語の展開や、キャラクター造形に期待してはいけない。ただただアクションに身を委ねて観るべき傑作。
監督:チョン・ビョンギル、出演:チュウォン
『あなたの番です劇場版』~馴染みのキャラたちが大活躍
2019年に放送されて「考察ブーム」を巻き起こしたドラマの劇場版。マンション「キウンクエ蔵前」に引っ越して2年後、住民たちを招いて菜奈と翔太の船上ウェディングパーティーが開催された。つまり、あの「交換殺人」が起きなかったというパラレルワールド設定。キャラクター設定と関係性はほとんどドラマと変更なし。「盛大な二次会」の感覚で、お馴染みのキャラたちの大活躍をワイワイ言いながら観るが吉。
文/米光一成(よねみつ・かずなり)
ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。