「短気で怒りっぽい父親が聞く耳を持たない」悩む新婚女性に毒蝮三太夫が具体的な対処策をアドバイス|「マムちゃんの毒入り相談室」第42回
自分の思うように物事を進めないと気が済まなかったり、すぐに怒鳴って話にならなかったり……。「頑固オヤジ」は、妻や子どもにとって悩みの種である。しかし、オヤジの側は家族を困らせたいわけではない。むしろ家族の役に立ちたいと思っている。残念なすれ違いを修復するには、どうすればいいのか。毒蝮さんが知恵を授ける。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「短気な父親がゴネて両家の顔合わせの計画が進まない」
あけましておめでとう。去年もいろいろあったし、今年もいろいろあるだろう。世の中が沈んだ雰囲気だからこそ、「笑う門には福来たる」を心掛けようじゃないか。それから「もう歳だから」と思っちゃいけない。ジジイもババアも、これからの人生の中で「今日」がいちばん若いんだ。何でもいいから、新しいことに挑戦してみよう。
今年最初の相談は、父親のことで悩んでいる31歳の会社員の女性からだ。
「父は77歳で私は46歳の時の娘です。短気でせっかちな父です。私が最近結婚をし、両家の顔合わせをしたいのですが、父が転んで頭を打ったりアキレス腱を切ったりでなかなか実現しませんでした。もうタイミングを合わせるのは難しいから挨拶だけということで、相手の両親が遠方から私の地元へ来てくれることになり、私は宿を取ったり観光案内しようと休みを取ったりしました。
ところが父は、術後でフラフラな状態なのに俺が案内すると言って怒り出し、宿も一緒に泊まると聞きません。勝手に宿を取ったことも怒られました。宿も早めに取らないとだし、みんな仕事の都合もあるし、私も全体のことを考えると余裕がなくなります。
父にはたいへんな時に申し訳ないとも思いますが、私の結婚なので私に任せてほしいです。邪魔するなくらいに思ってしまう。昔から何でも怒りだし、会話にならないことにもイライラします。その上、耳が遠いのでお互いにイライラするばかりで話が進みません。相手の両親は父より18歳歳下なので、張り合っているのかもしれません。また実家に帰って説得しますが、疲れてしまいます。アドバイスをお願いします」
回答:「オヤジさんは間違っている。でもね…」
なかなか厄介だな。オヤジさんは、要するに「男のプライド」にこだわってるわけだ。そんなのは、もう今は流行らないよ。流行らないどころか、「男のプライド」にこだわるという自分のエゴで、娘を困らせたり、間接的に結婚相手や両親にも迷惑をかけてるわけだ。
正しいか間違っているかと言えば、オヤジさんがやってることは「間違っている」ってことになる。威張りちらすばっかりで人の話を聞かないなんて、困った頑固オヤジだ。でも、「間違っているから反省しなさい」と言ったって、何の解決にもならない。オヤジさんは自分が正しいと思ってやってるわけだしな。現実の社会は小学校の学級会とは違う。
まあだけど、結婚する娘のためにひと肌脱ぎたいと思ってくれているのは、ありがたい親心だ。それがわかっているから、あなたも余計に困ってる。心の中では「邪魔するな」と思っても、面と向かって「邪魔だから黙ってて」とは言いづらいし、オヤジさんをのけ者にして「勝手に怒らせておけ」っていう気持ちにもなれない。それに、体調が悪いオヤジさんに無理をさせて、失敗したらかわいそうだって気持ちもあるんじゃないかな。
オヤジさんも言い方はマズイけど、根っこにあるのは娘に対するやさしさだ。娘もオヤジさんのことが嫌いなわけじゃなくて、オヤジさんをなるべく尊重してあげたい、プライドを守ってあげたいというやさしさが、悩みを深くしてるところがある。言ってみりゃ、やさしさのぶつかり合いだ。お互いが納得できる落としどころは必ず見つかるよ。
目指したいのは、オヤジさんの顔を立てながらこっちのペースでことを進めるっていう方向だよな。まず伝えたいのは「お父さん、私のためにいろいろ考えてくれてありがとう」という感謝の言葉だ。そこでちょっと安心させる。「それなのに私たちの仕事の都合で日程が限られちゃって、焦って話を進めちゃってごめんなさい」と下手に出ながら事情を説明すれば、全部ご破算にしてイチからやり直せとは言わないだろう。
その上で、観光地の案内でも顔合わせの店選びでもお土産選びでも何でもいいから、オヤジさんが得意そうなことを「これはお父さんにしかできないから」と頼めば、きっと張り切ってやってくれるよ。ダンナにも協力してもらって「ウチの親はこの土地のことを何も知らないんで、お義父さんが教えてあげてください」とか何とか言ってもらってもいい。
おふくろさんとも、前もって作戦を練っておこう。話をする時は、あえてオヤジさんの味方をしてもらうんだ。あなたとおふくろさんが口をそろえて責め立てたら、オヤジさんは怒り出すしかなくなる。おふくろさんに「そうは言うけどね、お父さんだって」とオヤジさんをフォローしてもらえば、こっちの話を落ち着いて聞いてくれるんじゃないかな。
オヤジさんは「俺はまだまだできる」「年寄扱いするな」と、一生懸命に肩ひじ張っている。最初からケンカ腰で説得しようとしたら、ますます意固地になるだけだ。昔話の「北風と太陽」と同じだよ。「頼りにしてる」「尊敬してる」っていう言葉と態度であたためて、肩の力を抜いてあげよう。かわいい娘の人生の一大イベントなんだから、きっとわかってくれるよ。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。