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仙台育英の感動を胸に…逆境に挑む若きアスリートたちを描く作品3選「スポーツの密な青春はたまらない」

 夏の甲子園を制した仙台育英、須江航監督の優勝スピーチが注目を集めている。東北100年の悲願への責任感とともに胸を打ったのは、入学時から3年間、コロナ禍のなかでさまざまな制約・制限を受け、そのなかでも目標や夢を諦めなかった全国の高校生へ向けた言葉だった。障害や逆境を乗り越えて辿り着いた栄光は、たまらなく見る者の心を打つ。コロナ以外でも、アスリートの前に立ちはだかる障害、障壁、常識の壁は実に多い。そんな「若きアスリートが逆境に挑むスポーツ映像作品」をスポーツライターのオグマナオトさんがピックアップします。

『相撲人』:土俵の上では誰もが平等のはず

 昨今のスポーツ界における「注目の障壁」といえば、ジェンダー問題を外すわけにはいかない。性差が生み出す筋力差、体力差は考慮しつつも、機会の差、待遇の差をいかに排除していくかは、今やオリンピックでも特に力を入れている点であり、火急の課題と言える。

 そんな世界の視点とは真逆の道を進むのが日本の国技、相撲だ。宗教的側面も有する相撲界において、女性は競技をするどころか土俵にも上がることができない……といっても、それは「大相撲」の話。アマチュアでは女性力士も存在する。ただ、競技人口が少なすぎる故に、なかなかその存在は注目を浴びない。

 そんな「女性が挑む相撲道」に真っ向から切り込んだ作品が『相撲人(英題:Little Miss Sumo)』。その道を極めたとてプロにはなれない20歳(取材時)の女性力士、今日和(こん・ひより)が世界一を目指す姿を映し出すドキュメンタリー映画だ。

 動画の長さはわずか18分。その短い時間のなかに、世間の常識、相撲界の壁に挑む若きアスリートの姿が濃密に描かれている。イギリス人監督がこの作品を世に出したのは2019年。この年、今さんは英国BBCが選出する「今年の女性100人」にも選出された。

 彼女は競技者として世界の頂点を目指すだけでなく、相撲界における女性の立場も変えたいと、言葉でも訴えかける。

「世界中で、ジェンダーで戦う女性は紹介されても、日本人はなかなかいない。大和撫子で『男性の三歩あとを歩く』という言葉があるくらいなので……女性は前に出るものじゃない、っていう意味なので……」

 そんな言葉を口にしつつ、今さん自身は土俵のなかで前へ前へ、すり足で突き進む押し相撲を貫く。「土俵の上では国籍も言葉も関係なく、誰もが平等のはず」という理想を目指して。

『相撲人』
監督マット・ケイ 出演:今日和

『ホームランが聞こえた夏』:聾学校野球部、0対32からの逆襲

 今年の夏の甲子園で、あるハンディキャップを抱えた選手が話題となった。県岐阜商の難聴の右腕、2年生の山口恵悟投手だ。「甲子園に行きたい」という夢を叶えるため、岐阜聾(ろう)学校中学部から高校野球の名門・県岐阜商へと入学。ついに甲子園のマウンドに立ったのだ。

 実写ドラマ化されそうな話題とも言えるが、実は先例が既にある。韓国映画『ホームランが聞こえた夏』。韓国に実在する聾学校高等部の野球チームが“韓国の甲子園”=鳳凰杯での一勝を目指すという、実話を基にした作品だ。

 聴覚障害の球児たちを指導するのは、暴力行為で出場資格を剥奪された韓国プロ野球界のスーパースター、キム・サンナム。彼をコーチに迎えたことをきっかけに、弱小野球部は奇跡的な成長と躍進を遂げていく。

 感動作かと思いきや、清々しいくらいのスポ根。そのギャップがたまらない。そしてその根性論を超えた先には、もちろん感動も待っている。セリフのひとつひとつがとにかく熱いのだ。
 
 その一例が中盤の見どころである、鳳凰杯常連校との練習試合のシーン。試合序盤、耳が聴こえない相手に本気を出してもしょうがないと舐めてかかる相手に、コーチのキム・サンナムはチームの垣根を超えてこんな叱責をする。

「踏みにじってもいいが、立ち上がる力を奪うな! 叩き潰すのがマナーで相手のためだ!」

 これで目が醒めた強豪校に0対32という大敗を喫すると、今度は教え子たちにこんな言葉で再起を促す。

「一番勝てない相手はとうてい勝てない強豪チームではない。我々を同情するチームだ。そんな奴らに会うと頑張る気力がなくなるから。戦う気力がなくなるから」

 この0対32という屈辱を経て、ハンデを抱えた球児たちは1勝を掴むことができるのか。甲子園の熱いドラマが恋しくなったときこそ見ておきたい作品と言える。

『アマチュア』:大人たちの私利私欲と戦う天才バスケ少年

 スポーツ先進国のアメリカでも、さまざまな障壁のなかでスポーツに挑むティーンエイジャーがいる。むしろ、洗練されているからこそ、そこに大人の「ビジネス」が介入し、より根深い問題がはらむ場合がある。

『アマチュア』は、類まれなる才能を見出され、若干14歳で名門校にスカウトされた天才バスケ少年が主人公。彼の前に立ちはだかる逆境は、数字を瞬時に理解できないという算数障害。そして、貧困に悩む両親、彼の才能をめぐるコーチ・学校・スポンサー・引き抜きを企てる他チームのコーチ……といった大人たちの私利私欲だ。

 こうした「大人の事情に翻弄される若きアスリート」「ビジネス化しすぎたスポーツ界のあり方」といった問題提起をして終わり、ではないのが本作の見どころ。最後には現代っ子らしいアイデアと時代背景を利用し、驚きの解決策が提示される。その爽快なラストシーンまで堪能してほしい。

『アマチュア』
監督:ライアン・クー 出演:マイケル・レイニー・Jr、ジョシュ・チャールズ、ブライアン・ホワイト

 冒頭で紹介した仙台育英、須江監督の言葉では、「青春って、すごく密なので」というフレーズも話題を集めた。今回紹介した3作も「スポーツの密な青春」がしっかり描かれている。そして何よりもスポーツシーンの魅せ方が秀逸で、熱心なスポーツファンであってもその描写には満足できるはず。甲子園の熱戦が忘れられず、「青春スポーツ・ロス」になりがちな今こそおすすめしたい作品たちだ。

文/オグマナオト

オグマナオト

 

1977年生まれ、福島県出身。雑誌『週プレ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。また、『報道ステーション・スポーツコーナー』をはじめ、テレビ・ラジオ・YouTubeのスポーツ番組で構成作家を務める。最近刊は『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)

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