暮らし

「介護者手帳」を書いてみよう その活用法と記載例「悔いのない介護のためには可視化が大切」

 介護の状況を可視化する「介護者手帳」を活用してみませんか?「介護者手帳は、介護の始まりにも役立ちますが、介護生活の最終章に、介護を大切な思い出として残すことにもなるのです」とは、家族介護者のサポート活動を続けるNPO法人UPTREE代表の阿久津美栄子さん。活用法や記載の仕方を教えてもらった。

手帳にメモをしている写真

「介護者手帳」で介護の現状を可視化する

 私は今、元介護者と現在進行形の介護者の人たちの交流によって介護者の居場所をつくる活動を行っています。

 この活動をきっかけに、元介護者の人たちと私自身の経験を踏まえてつくり上げたのが「介護者手帳」です。介護者手帳には、要介護者と介護者それぞれの状況や、具体的な介護環境などを記入できるページがあります。

 親が要介護者となったらまず、当人を囲んで家族全員が話し合う場をつくり、現状を介護者手帳に書き込んでいきます。そうやって混沌としている状況を可視化すると、必要なものや足りないものがわかってくるのです。

 また、あらかじめ全員で情報を共有することは、後々の家族間のトラブルを避けることにも役立ちます。

 介護者手帳には、1日1ページのスペースの中に要介護者のことと介護者自身のことを書く部分があります。ここに介護者自身の気持ちや出来事を記録することは、自分の居場所をつくることにもつながります。書くことで自分が置かれた状況を客観視することができますし、介護者手帳を通して悩みや不安を家族で共有することで孤独感からも救われるのです。

 私は両親の介護をしながら子育てをしており、母子手帳を使っていました。実は、介護者手帳は母子手帳と同じような感覚でつくったものでもあります。

 母子手帳が子どもの成長を記録するように、介護者手帳は要介護者が亡くなるまでの過程を書き連ねるものですが、結果的にこのことは、後の自分に大きく役立ちます。

 なぜかというと、要介護者との死別を経験すると、介護者は悲嘆に暮れるグリーフケア期を迎えるからです。心にぽっかりと空いた穴を埋めるためには、自分で自分をケアするほかに手段はありません。その際に介護者手帳が大きな癒しとなってくれるのです。

 残念ながら、私自身は介護の記録を残すことはできませんでした。でも、父が母の介護に関する日記を何冊ものノートに書き残していてくれたのです。しばらくは手に取ることさえできなかったのですが、両親が他界して2年ほどが過ぎてからは父の日記を読めるようになりました。日記を通して父の思考や感情に触れることで、私の心は大きく救われました。

 置かれた状況を把握するためにも、後悔のない介護のためにも、将来の自分のグリーフケアのためにも、多くのかたに介護者手帳を記していただきたいと願っています。

「介護者手帳」の記入例

要介護者の状況

 地域包括支援センターやケアマネ、施設の人など、専門の人に要介護者のことを相談する際に役立つ便利なツールになります。

クリックして印刷:要介護者の状況

介護者の状況

 自分がどんな状況に置かれているかを可視化することはとても大切。質問は簡単にみえて答えに迷うこともあるはずです。

クリックして印刷:介護者の状況

介護の記録(記入例)

 日々の様子を書き記すことで、混乱する気持ちに冷静に向き合えますし、介護が終わったあと、大切な思い出になります。

後悔しないための介護3か条【まとめ】

1元気なうちに家族全員で介護の情報を共有する

 将来、要介護者となる親を交えて、親の希望や地域包括支援センターに関する情報などを共有しておく。

2介護の流れや現実を可視化する

 現在の要介護者の状態を知り、介護ロードマップで今後の流れを把握しておく。

介護のロードマップ

■介護のロードマップ

介護の段階|ステップ1「混乱期」→ステップ2「負担期」→ステップ3「安定期」→ステップ4「看取り期」

要介護者の状態|ステップ1「急性期・異変の発覚」→ステップ2「介護初期・残存能力大」→ステップ3「症状進行期・残存能力小」→ステップ4「終末期・別れの時」

介護者の気持ち|ステップ1「混乱・否定」→ステップ2「疲労・絶望」→ステップ3「割り切り・受容」→ステップ4「絶望・否定」

必要な準備|ステップ1「介護申請、主介護者決定」→ステップ2「進行の抑制、住環境整備」→ステップ3「施設探し・入居」→ステップ4「延命治療、遺産相続」

介護の場所|ステップ1「在宅、病院」→ステップ2「在宅、介護施設」→ステップ3「在宅、介護施設」→ステップ4「介護施設、病院、在宅」

3介護者の居場所をつくる

 介護者手帳を通した家族間のコミュニケーションなど、介護者が孤立しない仕組みを。

教えてくれた人

阿久津美栄子さん

NPO法人UPTREE代表。1967年長野県生まれ。自身の介護の経験から、2013年、介護者をサポートするNPO法人UPTREEを立ち上げる。企業研修など行うほか、介護の記録をサポートする「認知症の家族のための介護者手帳」も発行。著書に『ある日、突然始まる 後悔しないための介護ハンドブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)https://uptreex2.com/

初出:女性セブンムック 介護読本Part2 ~人生100年時代 親・家族・自分のことをみんなで考える~ 

取材・文/熊谷あづさ 「介護のロードマップ」・「介護者手帳」監修/NPO法人UPTREE

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