暮らし

「早めのリフォームが仇に」「マンション住み替え後の苦難」失敗事例に学ぶ老後の住まい

 2025年には団塊の世代が75才以上の後期高齢者となり、日本は本格的な超高齢化社会を迎える。元気なうちに「終の棲家」を考え、より良い家づくりをすることはいいことだ。しかし、選択を間違えれば、暮らしづらくなる可能性があることも。残された時間をどのような場所で過ごすのが正解なのか――失敗事例をあげながら、介護や暮らしのプロに老後の住まいについて教えてもらった。

住み慣れた家の方がつまずくことは少ない

 加齢に伴う体の衰えのスピードは意外と速い。「リフォームは早めに」というのが定石。だが、元気なうちから改造して後悔した人もいる。

 トイレを全自動にした大阪府の熊谷幸子さん(82才・仮名)もそのパターン。近くに住む娘の理恵さん(60才・仮名)が明かす。

「よかれと思い、母が元気な頃、実家に全自動トイレをつけたんです。でも、軽度の認知症になったときが大変でした。一緒にデパートへ買い物に行ったとき、なんだかにおうなと思ったら、トイレで大便をしたままお尻を拭かず、出てきてしまったのです。全自動トイレに慣れてしまい、排便の行為から“お尻を拭く”“流す”という記憶が抜け落ちてしまったようなんです。こういう失敗が続くと、楽しみだったはずの外出を敬遠するようになり、ふさぎがちになってしまいました」

 家電の発達は目覚ましく、トイレに限らず人々の生活を楽にしてくれるが、必要な手順を忘れさせてしまうというデメリットもあるようなのだ。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが言う。

「70代でひとり暮らしをしていた女性が、安全で便利だろうと家をオール電化にリフォームしました。その女性は仮住まい中に認知症が進み、新しくなった家に3か月しか住めないまま施設に入った。高齢になると新しいものを使いこなせないことが多く、逆に強いストレスになることも考慮せねばなりません」

 同様に段差をなくすバリアフリー化リフォームも考えものだと、太田さんが続ける。

「体が住み慣れた家の段差などを覚えているため、心身が衰えてもつまずくことは少ない。70代以上になると、むしろ大きくリフォームをして新しい環境になじむまでのストレスの方が大きくなり、認知症が悪化することもある。

 この年になると、壊れた箇所の修繕を中心にしていく方がいい」

入居型有料老人ホームで強制退去させられる

 家族の手を煩わせたくない、協力を得られないなどの場合にも「終の棲家」にできるのが入居型有料老人ホーム。しかし、実際にはそうならない場合もある。

 福岡県の青木道子さん(78才・仮名)の娘が訴える。

「実家を売ったお金をつぎこんでせっかく入居したのに、母が“スタッフのサービスが雑。部屋が狭くて窮屈だし、隣の部屋の人もうるさい”と言って半年も経たず退去することになりました。ところが入居一時金で支払った1000万円のうち、半分しか戻ってこなかった。500万円をドブに捨てたようなものです」

 一方で、こんなケースも。京都府の若松美恵さん(88才・仮名)は有料老人ホームに入居していたが、夜中に大声を出したり、外に出たいと騒ぐようになってしまった。そのうち「うちでは手に負えない」と、退去するよう告げられてしまう。

 入居中に認知症が進んでも受け入れてくれる施設はあるが、若松さんのようにすでに重度の場合は断られることが多く、途方に暮れている。心身の状況は刻々と変わっていく。それを見据えておかねばならないということだ。

 ケアタウン総合研究所代表の高室成幸さんが言う。

「納得して入ってみたが、人間関係がうまくいかない、子供じみたレクリエーションばかりで毎日がつまらないという話はよくあります。最近は経営難により、途中で運営会社が変わることもあり、そうなるとスタッフは総入れ替え、食事のレベルが低くなったということも。何より契約書に退去条件として『入居者等への危害を及ぼす行為や、胃ろうや気管切開など重度の医療的管理が必要になった場合』と明記してあれば、それらを理由に退去を迫られることもあります」

 いったん入ったら最期まで看取ってもらえると考えるのは禁物だ。さらに長生きすることで生じるお金の問題も忘れてはならない。

「施設費用が毎月20万~30万円ほどかかることも珍しくない。要介護になってもお世話になるのはせいぜい3年くらいかと思いきや、長生きして老後資金が底をつき、月額利用料が払えなくなると退去の対象となります」(高室さん)

 太田さんが続ける。

「人生100年と思って老後を考えておくことが大事。2人に1人が90才、4人に1人が95才まで生きる時代です。70代を超えると外で働くというのは難しくなりがち。年金が少ない場合は、貯蓄がどれくらいあるかが重要になってくるのです」

 先人の失敗例を知ることこそ、自分が失敗しないための最善策となる。こうならないよう、いまから備えたい。

教えてくれた人

介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さん、ケアタウン総合研究所代表の高室成幸さん

※女性セブン2022年6月16日号
https://josei7.com/

●ピーターも豪邸を手放し平屋を購入!シニアは2階に寝ないほうがいい3つの理由

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