「任意後見」「家族信託」の特徴 不動産を売却できない、預金が下ろせない…トラブルを回避するために
2022年以降は、相続税の対象が広げられる可能性が高く、相続における制度変更に注意が必要だ。生前贈与の非課税対象期間や教育資金や結婚・子育て資金の非課税枠も見直され可能性も。「令和4年度こそ見送りになりましたが、令和5年度に改正される可能性は否定できません。最悪の事態を想定して、いまのうちから準備することをおすすめします」と弁護士でベリーベスト法律事務所の石山幸由理さん。税制改正を前に、早めの対策をしておきたいところだが、ここでは、親が認知症などで判断能力を失ってしまった場合について、今からできる対策を専門家に教えてもらった。
「任意後見」か「家族信託」か
万が一、認知症などで判断能力を失うと、不動産の売却や預金の管理などが難しくなる。その際、不動産の売却や口座の管理を本人に代わって家族や第三者が行う「成年後見制度」を使うことが多い。
元気なうちに家族などを「任意後見人」に指名しておくこともできるが、すでに判断能力を失っている場合は、家庭裁判所に申立てをして、選任される弁護士や司法書士が「法定後見人」に定められることもある。一度後見人が定められるとすべての財産の管理権限が渡り、家族でも預金を引き出すことすらできなくなるという。
財産承継支援機構マインズの矢部祥太郎さんが説明する。
「後見人が全権限を持つ一方で、任意後見人は権限を個別に決めることができます。報酬は、法定後見人は、財産額や働きに応じて、平均で月3万円ほど。任意後見人も月2万~5万円といったところですが、こちらは契約内容によって増減します」
権限や報酬まで融通が利く任意後見人を選んでおいた方が、自由度は高そうだ。
→家族の財産を守るなら「成年後見人」より「家族信託」を選ぶべき理由【FP解説】
そして、任意後見人以上に融通が利きやすいのが、家族などの信頼できる人に財産の管理権限を託したり、使い道を指定しておける「家族信託」。
「不動産の売買契約や口座の管理など、さまざまな権限を指定できます。“不動産の売却ができない”“預金が下ろせない”といったトラブルを回避でき、認知症対策になります」(矢部さん・以下同)
●「成年後見制度(法定後見人)」の場合
開始:本人が認知症などで判断能力を失うと、後見人をつける必要がある。
管理者:候補者を出すことはできるが、最終的には家庭裁判所の選任に従う。
管理範囲:預金口座をはじめとする、本人のすべての財産(認知症の程度が最も思い場合)。
費用:専門家が関与した場合、報酬を支払わなければならない。
効力の終了:本人が亡くなるまで、基本的に終了しない。
●「家族信託」の場合
開始:自分の意志で自由に決められる。
管理者:家族など、信頼できる人に託せる。
管理範囲:管理する範囲は自由に定められる。
費用:信託契約のための費用以外はかからない。
効力の終了:公正証書で取り消すことができる。
※取材をもとに編集部作成
さらに、財産ごとに託す相手を分けたり、「夫の財産の一部は生前贈与して、残りは夫が亡くなった後に妻に相続させ、妻が亡くなったら長女に」など、先々の使い道まで取り決めておくこともできる。ただし、公的な機関が監督しない当事者間の契約なので、家族信託に精通している弁護士や司法書士などを監督人に定めれば万全だ。
「要介護申請やマイナンバーの申請といった身上的なサポートの権限はありません。より細かく決めておきたいなら、任意後見制度と併用することもできます」
先々の相続まで自在に決められるだけあって、家族信託の費用はやや高いと、曽根さんは言う。
「財産の総額や契約内容にもよりますが、家族信託にかかる費用は家一軒だけで数十万円から、多い場合は数百万円まで幅広い。お金をかけてでも確実に財産を管理したいのか、費用を抑えて任意後見にしたいのか、慎重に考えて」
家族が後悔しないよう、先を見据えた確実な準備を。
→蛭子能収が認知症発覚で始めた妻への家族信託|どんな制度?メリットは?
教えてくれた人
財産承継支援機構マインズ・矢部祥太郎さん
※女性セブン2022年1月20・27日号
https://josei7.com/