ドラマ史に残る衝撃の展開!『大豆田とわ子』6話は伏線なんてない現実を見せつけた
『大豆田とわ子と三人の元夫』6話は主人公不在で始まり、ドラマ史に残る衝撃の展開がありました。ドラマ大好きライター・釣木文恵さんが、SNSさえ一瞬静まり返った衝撃回を振り返ります。
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ドラマの常識を覆す登場人物の死
人の死は突然やってくる。そんなことはわかっているはずなのに、近しい人の死には必ず何かしら予兆があると思ってしまっている。そして自分はそれを見落とさないはずだと思っている。だってドラマなんかでは、視聴者にわかる形でそれらしい伏線があったりするものだから。『大豆田とわ子と三人の元夫』6話はそれを覆して、現実を描いた。死に予兆があるのも、それを見逃さないのも稀であること。人の死は時と場合を選ばなくて、すごく大変なときに重なったりすること。そんな現実を、この6話で見せつけられた。
三人の女たちが際立たせる、とわ子の輪郭
そもそも、5話が終わった段階での私たちの懸念は、とわ子(松たか子)と取引先の社長との関係がどうなるのかだった。パワハラの意識なくとわ子に高圧的なプロポーズをし、一方でとわ子の会社が受けた仕事の追加費用を認めないという社長。会社は騒然とし、とわ子は彼と一対一で話し合うために出かけてそのまま姿を消す。
八作(松田龍平)、鹿太郎(角田晃広)、慎森(岡田将生)はとわ子を案ずるが、たまたまそこにそれぞれと微妙な関係の早良(石橋静河)、美怜(瀧内公美)、翼(石橋菜津美)がやってくる。とわ子が行方不明だと知った三人の女達の「トイレに閉じ込められてるんじゃ」「他の人とデートしてるのでは」といった発言の無責任さには妙にリアリティがある。直接知らない人の一大事は、きっとこんなふうにしか消化できない。
八作の店からとわ子のマンションに場を移しつつ、元夫たちに対する三人の女の攻撃はやまない。永遠に続くかと思われた女たちの相手に対する不満暴露大会は、とわ子という人の輪郭を際立たせる。男たちは攻撃を受けてようやく気づく。今指摘されたような自分たちの欠陥を、とわ子に言われたことがなかったということに。
「そこで不器用利用したら不器用がかわいそう」
「そういう人ってロマンはご飯だと思ってるんですよね。でもロマンはスパイスなんですよ」
「言えたことだけが気持ちなんですよ」
「もう遅いよ。どこを好きだったか教えるときは、その恋を片付けるって決めたときだよ」
恋愛に関する名言連発、坂元裕二節炸裂で、餃子がきれいに包まれるように、三組の関係は畳まれてゆく。未練を残す早良に八作の話す「一生後悔すると思う」はこれまで通り、気のない相手に対するサービスでしかないかもしれない。けれども最高のサービスだ。
説明を極限まで省いた中で伝わる、突然の死
とわ子不在のまま放送時間も終わりに近づく。一本のメールが八作の元に届く。八作は動揺し、折り返しの電話を繰り返しながらもどこかに向かう。この段階で視聴者は、おそらくとわ子が見つかったのだろうと思う。八作は途中コンビニでストローを買う、わからない。ホチキスを買う、わからない。目に入った靴下を買う。靴下? 八作が病院に着く。八作ととわ子の娘・唄(豊嶋花)が手を震わせている。とわ子に何が起こったのか、観ていて不安になる。廊下にとわ子がいる。それでもまだ何が起こったかわからない。
この後、とわ子と社長がどうなったのかも、企画と営業が夜通しぶつかり合ってはみ出た予算を削った会社がどうなったのかも描かれない。とわ子が口を開くまで、誰がどうなって病院にいるのかもわからない。説明を極力まで省いた展開の中で観る側に伝わるのは、とわ子の誕生日、とわ子がとてもたいへんだった日に親友のかごめ(市川実日子)が死んだことだけ。何が起こったか掴みきれない視聴者の前に最初に提示されたストローとホチキス、謎解きのようなそのアイテムは、その日の昼に抜けてしまったかごめのパーカーの紐を直すためにとわ子が八作に頼んだものだ。
思えば一つの案件が消えたところで、きっと会社はなんとかなるだろう。そこを描くよりも大事にしたいことが、もっと伝えたいことが、作り手たちにはあったのだ。結果、それまでの流れとは関係なく親しみを持っていた登場人物が突然消えて、呆気にとられた。ドラマを通じて私たちはとわ子の気持ちをほんの少しだけ追体験したのだと思う。
松たか子の表情が圧巻
そこから「友達を亡くした今週、こんなことがあった」と伊藤沙莉のあの声でナレーションが入り、悲しみに暮れる間もなく葬儀準備に追われるバタバタ感のリアル。さらに葬儀を終えて、これから片付けることになるかごめの部屋に花を持っていくこと、ぜんぶ捨てりゃいいのに冷蔵庫の中身で炒めものをつくること、細かい部分ひとつひとつがとわ子という人を表現している。炒めものを食べながらかごめが遺したマンガを読んでいる松たか子の表情が圧巻だ。とわ子は彼女にしか演じられないと改めて思わされた。
突然の死もさることながら、次のシーンで1年後になっているあっけなさにも驚いた。親しい人が死んでも悲しみにくれるばかりでなく、人はたんたんと生きていくしかないのだということも、たしかに知っていたはずなのにドラマではなかなか描かれなかったことだ。1年後のとわ子と三人の元夫はいったいどうなるのだろう。
文/釣木文恵(つるき・ふみえ)
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。