「寝ながらスマホ」の危険リスクを医師が指摘 首こり、五十肩、睡眠障害も
布団に潜り込んだ後、スマホで動画やSNSをチェックすることが日課になっている人は要注意。その生活を見直さない限り、首や肩の痛み、眼精疲労といった慢性的な不調は悪化するばかり。スマホで原因を検索する前に、まず起き上がってほしい。
「寝ながらスマホ」の危険性を医師が指摘
コロナ禍で2度目となるゴールデンウイークは、大都市を中心に緊急事態宣言が発出され、窮屈な連休となった。
都内に住む会社員、平川綾子さん(仮名・42才)は、連休中に起こった体の不調を訴える。
「遠出は一切せず、ベッドでスマホを見ながらのんびり過ごしていました。大好きなK-POPアイドルの動画に熱中して、朝方まで眠れない日もあったほど(笑い)。よっぽど運動不足になったのか、会社で1日8時間のパソコン作業をしていた連休前よりも頭と肩がずっしり重いです」
もちろん運動不足も問題だが、それ以上に平川さんの生活には危険が潜んでいる。それは「寝ながらスマホ」だ。
首の筋肉が無意識に動いている
人間の頭は体重の10分の1程度の重さといわれ、体重が50㎏の人ならば、頭は5㎏程度となる。同じ姿勢で長時間のデスクワークを続けていると重い頭を支える首や肩に負担がかかり、首こりや肩こりの原因となるが、「寝ながらスマホ」の負担はパソコン作業の比ではないという。
井尻整形外科院長の井尻慎一郎さんが指摘する。
「自分が旗手になったとイメージしてください。重たい旗を支え続けるとき、地面と垂直に持つことはできますが、斜めに傾けば傾くほど支えるのが困難になり、真横に傾いた旗は支えられないはず。寝ながらスマホ画面を見るということは、真横になった頭を首が支えている状態ですから、いかに負担をかけているかわかるはずです」
そう聞いても、「私は枕で頭を支えているから大丈夫」と思うかもしれない。だが、寝転がって手元にあるスマホを眺めているとき、首の筋肉は無意識に動いているのだ。
「離れた場所にあるテレビを横たわった姿勢で見ているとき、体はリラックス状態になっています。しかし、至近距離のスマホ画面は集中して見る必要があるため、目が動くのと同時に、わずかに頭を浮かして動かしていることが多い。首から背中まで広がる僧帽筋(そうぼうきん)や、肩の周りの三角筋など、気づかないうちにすべての筋肉を疲弊させています」(井尻さん・以下同)
真上を向いて寝れば頭の重さはほぼ枕にかかる。だが、スマホを操作する両腕の重みが、ずっしり肩にのしかかる。
「腕は片方3㎏もあります。肩と首の筋肉はつながっていますから、結局、首こりと肩こりの原因となります」
「五十肩」や眠りの質を下げる「睡眠障害」も
さらに首や肩の筋肉疲労が蓄積されると、炎症を起こして寝違えたような痛みが生じたり、腕が上がらない「五十肩」のような症状を引き起こす危険がある。そして近年、問題となっているのが、眠る直前のスマホ使用だ。
人の体には「交感神経」と「副交感神経」があり、リラックスして眠るときは副交感神経が優位に、目を覚まして活発に動くときは交感神経が優位になるが、スマホはこれらの神経の働きに関与する。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身(おさみ)さんが解説する。
「スマホから発せられるブルーライトを浴びると、交感神経が優位になりやすいという研究を米ハーバード大学が発表しています。また、暗闇では目の瞳孔が開くため、光の刺激を過剰に受けてしまう。蛍光灯ほど強烈な光でないとはいえ、睡眠の質を下げる原因となります」
また、スマホ特有の性質が、睡眠の質をさらに下げていると梶本さんは続ける。
「本や新聞、テレビ番組は情報が有限で終わりがあります。しかし、ユーチューブやツイッター、インスタグラムなどのサイトはエンドレスに興味関心を持つ情報が提供される。この“キリのなさ”が、健康面におけるスマホの最大のデメリットです。いつまで経っても興奮と緊張を覚える方向に導かれるため、交感神経が優位になったままとなり、寝つきが悪くなるのです」
入浴中にスマホを使い、思いがけず長湯をして熱中症を起こすケースもある。
「質のいい睡眠を得るには、入浴前までにスマホを手放すこと。充電器はリビングに置くなど、ベッドから遠ざける工夫が必須です」(梶本さん)
眠れないからスマホを見るのではなく、スマホを見ているから眠れないという事実にしっかり目を向けたい。
視覚機能の低下など目の不調に
約5年前、イギリスで2人の女性が原因不明の失明を起こしたとして、眼科を訪れた。1人の女性は、夜になると右目のみに視力障害が起こり、物体の輪郭しか認識できなくなった。もう1人の女性は、起床後の15分間だけ片目が見えなくなる症状が6か月以上続いたという。
同国の研究チームによると、いずれも暗い部屋で「寝ながらスマホ」をしていたことが原因だと判明した。症状が片目にしか表れなかったのは、横向きでスマホを操作する際、片方の目が枕で隠れた状態だったことによる。
結論として、女性たちの症状はいわゆる「失明」ではなかったが、将来的なリスクは否定できない。
三井メディカルクリニック院長の三井石根さんが言う。
「網膜の色素細胞には、明るさによって感度を調節する機能があります。光を遮ると、感度を上げて見えやすくする『暗順応』が、明るい場所では、感度を下げて網膜への過剰な刺激を減らす『明順応』が起こります。
イギリスの症例は、片目が明順応、もう片方の目が暗順応と、左右で明暗の順応をバラバラに起こしたため、急に両目で同じものを見ると片方の目がすぐに適応できず、見えにくく感じたのです。
この一時的な視力低下は、しばらくすれば元に戻りますが、毎日こうしたダメージが続くと、色素細胞を傷めて恒常的な視覚機能の低下にもつながります」
暗闇でスマホを凝視すると斜視の原因にも
暗闇でスマホを凝視することは、斜視の原因にもなる。
「スマホを見る際、手元に近づけていくに従い寄り目になります。『寝ながらスマホ』では、より一層その現象が生じやすく、強い寄り目の状態が持続して内斜視の原因となります。さらに、目と画面の距離が10㎝以内になると、利き目ではない方の目が寄り目に耐えきれずに外側を向いてしまい、外斜視にもなりかねません」(三井さん)
視力低下、激しい眼精疲労など、寝ながらスマホを見ることは斜視以外にもあらゆる不調のもととなる。なお、病気やけがなどで生じた強度の斜視は手術で治療することもあるが、スマホで生じた程度の斜視ならば、スマホを極力見ないようにして自然回復を待つのが一般的だ。
二本松眼科病院副院長の平松類さんは、「だからこそ大変」と話す。
「スマホによる斜視の場合、半年から1年ほど様子を見ます。その間、視界がグラついて頭痛がしたり、眼精疲労が起こりますが、医学的な治療での対処は難しい。斜視の初期症状ならば、短期間スマホを見ないだけで治ります。不安な人は意識的に生活を改善するしかありません」
また、光源が近づくほど目の負担は格段に大きくなり、光が2分の1近づくと、目には4倍ものダメージとなる。
「パソコン作業は目から大体40~50㎝、スマホは20㎝といわれます。パソコンを長時間見るより、数分間の『寝ながらスマホ』の方が目に悪影響なのはそのためです」(平松さん・以下同)
『角度』にも問題がある。
「座ってスマホを見るときは視線が下を向いていますが、横になった場合は、斜め上の角度になって画面を見ていることが多い。いわゆる『自撮り』をするときの角度と同じで、目を大きく見開いている状態のため、ドライアイのリスクを高めます」
便利なスマホによる体の不調は、生活に支障をきたす。スマホを使うなら、せめて起き上がってからにしたい。
※女性セブン2021年5月20・27日号
教えてくれた人
井尻整形外科院長・井尻慎一郎さん、東京疲労・睡眠クリニック院長・梶本修身さん、二本松眼科病院副院長・平松類さん