兄がボケました~認知症と介護と老後と「第88回 スマホの扱い名人」
50代で若年性認知症を発症した兄(現在は特別養護老人ホームに入所中)のケアを長年続けるライターのツガエマナミコさんが、介護経験を通じて考えるあれこれを綴る日常エッセイ。今回は、デジタルの日進月歩の進化に、なかなかついていけないと自認するマナミコさんがスマホ更新の手続きに出かけたときのエピソードを綴ってくれました。
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スマホ捌きに惚れ惚れ
今更ですが、わたくしのスマートフォンがやっと5Gになりました。
デジタル弱者でスマホデビューが2020年と遅く、今回が2代目のスマホ。きっかけは突然メールの送受信できなくなったこと。そもそも経年劣化で反応が遅くなっているのが気になっておりました。
利用している通信会社のショップに予約をして行ってみると、わたくしの3分の1ほどの年齢とおぼしき女性スタッフさまが対応してくださいました。
スマホの症状をお話しすると「アップデートしましたか?」とおっしゃるので「どうやるのですか?」とスマホを差し向けたところ、「当社の店頭サポートプランに入っていただかないとこちらでは操作できないことになっていまして…」と返されました。
1か月約1000円で最低でも6か月間は加入する必要があり、その後は解約ができるとのこと。それを聞いて思わず「ほぉ~、よくできていますね」と口から品のない嫌味が飛び出てしまい、その場の空気が冷え込んだのを感じました。
徹底したお仕事モードで淡々としている女性スタッフさまは、そもそもニコリともしてくださらないスタイルのようで、何事もなかったように「いずれにしても機種変更するのであれば必要だと思いますよ」とひと言。わたくしのデジタル弱者ぶりを一瞬で見抜いた鋭い一撃でございました。
さらに「お客様の今の機種では11月からLINEが使えなくなります」と留めの一撃をくらい、否応なく機種変更が確定いたしました。
「どんなのがいいんだろう、迷うなぁ」と思っていると、一旦席を立った女性が「今ご紹介できるのはこちらでございます」と1つの箱を手に戻ってまいりました。「操作性があまり変わらないタイプなので、こちらがいいと思います」とおっしゃり、料金プランもサクサクとプリントアウトしてくださって、月々の支払い料金まで提示されました。「色は今黒しかないのですが、いいですか?」と有無を言わさぬ勢いで決まってしまい、タブレットにタッチペンでサインをして契約は終了いたしました。
そこから、さっき入ったばかりの“店頭サポートプラン”に含まれる「データの移行」が始まると、わたくしはその女性スタッフさまのスマホ捌きに見惚れてしまいました。
長いピンクの爪に綺麗な装飾を施した今どきのギャルさまの指が小気味よく動き、次々とデータが移行していくのでございます。「いったいどこでどんなお勉強をされたのでしょうか?」と喉元まで出かかりました。お仕事なのですから当然なのでしょうけれど、知り合いにこういうプロフェッショナルがいてくれたらどんなに助かるだろうかと羨望のまなざしで見つめてしまいました。
何も選べず、何も迷わず、お若い女性スタッフさまの言われるままに進んでいき、店頭到着から1時間ちょっとですべてが完了いたしました。多少強引ではありましたが、終わってみれば、わたくしにはありがたい対応でございました。ひとつひとつ「これはどうしますか?」「こういうプランもありますが…」と選択を迫られても、わたくしには何が正解かわからないからでございます。
これから少なくとも6か月間は店頭サポートプランとやらで、気軽に相談できると思うと安心でございます。半年で6千円と聞いたときは“うまい商売だな”と思いましたが、自分のデジタル力のなさを鑑みれば、むしろありがたいものだと考えが改まりました。
せめて人並にデジタルのトラブルに対処できる人になりたいものでございます。
今週も兄はお穏やかでございました。
スタッフさまが施設での夏祭りの写真をコラージュしたプリントを手渡してくださいました。車イスの兄がお菓子とヨーヨーを持ってニコニコしている写真もございます。賑やかな雰囲気を味あわせていただいて本当にありがたい。お部屋に小さくなったヨーヨーが愛らしくと佇んでおりました。
一歩も歩けなくなって約2年4か月。入居してからは丸2年が経ちました。痩せてはきましたが、変わらず笑顔を見せてくれることが何より素晴らしい。プリンを食べ、ジュースを飲んでくれる、それだけでまだ大丈夫だと思えて、わたくしも元気が出ます。
そういえば、もし大地震が起きたときのことを職員さまに訊くのを忘れてしまいました。来週こそはお尋ねしなくては!
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性63才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所
