《脳の老化をストップ》ど忘れはすぐ検索、写真はメモ代わりに 医師が指南する「認知症予防するスマホ活用術」
大きな痛みや生活に特段の支障をきたすことなく、静かに老いて命を脅かすのが「脳」だ。脳機能の衰えは認知症に結びつく。これらの部位は「何歳からでも鍛えることが可能」と医師は断言する。そこで、金町駅前脳神経内科院長で脳神経内科医の内野勝行さんに、脳の健康につながるスマホの活用術を教えてもらった。
身体の衰えとともに気がかりなのが脳の認知機能の低下だ。物忘れが増えた、記憶力が曖昧になった――などの症状に「認知症」の不安を覚える人も多いだろう。だが、内野医師はこう指摘する。
「加齢による物忘れなどの症状は、むしろ『脳が精一杯頑張って働いている』正常な状態。過剰に気にする必要はありません」(内野医師・以下同)
どういうことなのか。
「私は患者さんに、脳を『納戸(物置)』に喩えて説明しています。20代の若い脳にはモノ(情報や記憶)を次々に詰め込むことができますが、歳を重ねるほどに納戸のスペースが限界に近づくため、脳は記憶の整理を始めるようになります。そのため、60代以降は『捨てる』ものが多くなり、物忘れなどにつながる。それが一般的な脳の老化現象と言えます」
そうした脳の老化現象を遅らせ、認知症を予防するために生活習慣の改善を心がける必要があるのは言うまでもない。
「運動不足、多量のアルコール摂取、喫煙、慢性的なストレスは、脳内に『アミロイドβ』(アルツハイマー病の原因とされるタンパク質)や『活性酸素』などのゴミを蓄積させます。ゴミが溜まれば納戸から必要な荷物=記憶はさらに出しにくくなる。脳の老化を防ぐには、脳内にゴミを溜めない生活習慣の改善が前提となります」
そのうえで、内野医師が推奨する脳の若返り習慣を別掲の表にまとめた。
最大の特徴と言えるのがスマートフォンなどのデジタルツールの活用だ。
「近年は『スマホ認知症』なる症状が問題視されています。スマホからの情報を詰め込みすぎて記憶の整理が追いつかなくなり、物忘れや集中力の低下を招く認知症に似た症状です。ただし、スマホは上手に利用すれば、加齢による認知症予防に有効活用できるのです」
「新奇体験」を取り入れる
内野医師が推奨するのが、スマホのカメラをメモ代わりに利用したり、検索機能で知らない言葉や情報を調べることだ。
「ど忘れしたことを無理に思い出そうとするより、スマホでサッと検索したほうが新しい情報に触れられて脳の刺激になります。知らない言葉を能動的に調べることでドーパミンが分泌され、脳の若返り効果があります。
また、スマホは衰えた記憶力を補う『見えない杖』として活用するのがベスト。道順でも、処方された薬でも、何でもカメラで撮って残しておけば脳にストレスを溜め込まずに済みます」
「ネット通販」を利用することも、脳の若返りに大きな効果を発揮する。
「膨大な商品のなかから自分の欲しいものを探す興奮や喜びが感情を揺さぶり、脳の働きを活発にします」
またスマホの活用と同時に、脳内の記憶を整理するための「何もせずボーッとする時間」を設けることも大事だという。
「脳の納戸をうまく使うには、やはり整理整頓が欠かせません。毎回、記憶の整理をしながら頭を使う人は脳が老化しにくいと言われます。そのために最も大切なのが『ボーッと何もしない時間』をつくること。脳が休んで情報を整理すべき時間に新たな情報を入れ続けると、納戸はさらに足の踏み場がなくなってしまいます」
日常生活のなかでは、ルーティンを少しだけ変えて「新奇体験(新しく珍しい体験)」を時々取り入れることがポイントだという。
「60代以降ではある程度自分の生活スタイルやパターンが確立していますが、日常生活に普段と異なる行動を取り入れると、問題解決を司る前頭葉が大いに刺激されます。苦手なことをする必要はなく、自分が楽しいと思えることに絞って実践するのがポイントです」
自宅でできる新奇体験の一つが、「利き手と反対の手で家事をする」だ。
「いつもと違う行動をとると『少しやりにくいな』と脳が戸惑います。この適度なストレスや違和感が、サリエンスネットワークという脳の神経回路を活性化させ、情報処理や判断の機能が強化されます」
あえて道に迷う
また、脳で記憶を司る海馬を活性化するには、「いつもと違う駅やバス停で降りて帰宅する」といった行動が有用という。
「人間の脳内で空間や位置を認識する神経細胞も海馬に存在します。この海馬が最も活性化するのが『道に迷い、自らルートを考える』時。効率よく最短ルートで移動するより、あえて迷う経験をすることが海馬の機能低下を防ぐと言えます」
同様に、海馬を活性化して認知機能低下の予防に効果的なのが、「新聞記事のスクラップ」だ。
「気になった記事をスクラップするだけで、立派な脳トレと言えます。数年後に見返して思い出す作業は、認知症治療で用いられる『回想法』そのものです」
スーパーで買い物をする際は、「積極的に店員に話しかける」ことが推奨されるという。
「例えば、普段利用しないスーパーで目的の商品が見つからなければ、自分で探そうと頑張らず、積極的に店員さんに話しかけてみる。こうした少し緊張感のあるコミュニケーションが、脳を心地よく刺激してくれます」
逆に避けるべきなのが、毎日同じパターンを繰り返す「退屈」な生活だ。
「退屈な状態が続くと、脳は省エネモードに入りっぱなしになり、一気に老化が加速します」
脳の若返りには生活のメリハリが欠かせない。
※週刊ポスト2026年8月28日・9月4日号
