《フィットネス産業から介護予防を見据えた総合企業へ》ルネサンス・望月美佐緒社長が描く「ウェルビーイング共創カンパニー」への道筋 コロナ禍に生まれたスタッフの想い
スポーツクラブの国内大手・ルネサンスは今、「人生100年時代のWell-being共創カンパニー」を掲げ、全国の自治体や介護現場と連携し介護予防にも力を入れている。なぜ介護分野に進出したのか、介護予防ビジネスの未来像とは? 代表取締役社長の望月美佐緒さんに話を伺った。【前後編の前編】
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ルネサンス 代表取締役社長 望月美佐緒さん
大阪体育大学卒業。学生時代はハンドボール部で活躍。1989年ルネサンスに入社。現場のインストラクター・トレーナーからキャリアをスタートし、商品開発やサービス品質管理を長年担当。2011年より執行役員 ソフト開発部長として『シナプソロジー』の開発・普及を主導。常務執行役員、取締役副社長を経て、2024年に代表取締役社長執行役員に就任。企業や大学での講演活動や、現場の声を聴くため、全国を飛び回る行動派リーダー。
コロナ禍のピンチをチャンスに
「あのとき、売上の90%を占めていた全国のスポーツクラブの営業が、完全にストップしたんです」
ルネサンスを率いる代表取締役社長・望月美佐緒さんは、当時の緊迫した状況を振り返り、静かに語り始めた。
2020年春。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言により、メイン事業である店舗運営は完全に停止。収益がいつ戻るかもわからない、会社設立以来の最大のピンチに直面していた。
「スタッフたちの雇用を守らなければならない。そこで、当社と取引のあった介護事業者様や自治体、学校法人様などにお願いをして、うちのスタッフたちを現場に受け入れていただきました。必死の思いでしたね」
スタッフたちは出向先の介護の最前線や地域コミュニティの中で、高齢者たちと深く触れ合うことになる。
「介護になる前の予防こそが、私たちの使命」
やがてコロナが終息し、スポーツクラブが再開されてスタッフたちが元の職場に戻ってきたとき、彼らの口から溢れ出たのは意外な言葉だった。
「みんなが口を揃えて言うんです。『介護が必要になる前の、予防の段階が本当に大事なんだと改めて身に染みました』と。
これまで私たちは、すでに健康な人をより元気にするために働いていると思っていたけれど、実はもっと手前の段階で、人生をより豊かにするために社会に貢献できることがあるんじゃないかと。スタッフたちの熱い想いと気づきが、現在の私たちの長期ビジョンにもつながりました」
ルネサンスは2026年より、それまでの「人生100年時代を豊かにする健康ソリューションカンパニー」の実現を目指す長期ビジョンを刷新し、「人生100年時代のWell-being共創カンパニー」を掲げている。
「『健康』と言うと、一般的には身体的な健康だけをイメージされがちです。精神的にも、社会的にも健康であることはもちろんですが、私たちがさらに目指しているのは、その人の人生がより豊かになる『ウェルビーイング』。
たとえ手足が動かしにくくなっても、嚥下がしづらくなっても、その人が持っている機能を最大限に活かしてより良く生きる、人生の伴走者でありたいと、社内の意識がひとつにまとまりました。だからこそ、もっと手前でできる介護予防の選択肢があることを、広く伝えていきたいんです」
ルネサンスは、核となるフィットネス事業と並行して、ヘルスケア事業の要として「介護予防」の領域にも力を入れ、事業を拡大している。
新たに生まれた『シナプソロジー』全国へ波及
現在、同社の介護予防事業や介護事業おける強力なツールとなっているのが、脳活性化メソッド『シナプソロジー』だ。この開発には、当時新規事業を担当していた望月さん自身が深く関わっている。
「スポーツクラブというのは、本質的に“箱物事業”です。建てるのにも、撤退するのにも莫大なお金がかかり、土地など“ハード”の制約に縛られます。そこで着目したのがソフト面のビジネスです。
今から15年ほど前、『店舗という箱がなくても、私たちが培ってきた運動ノウハウ、つまりソフトだけで新規事業を作れないか』と、独自のプログラムの開発を始めました」
『シナプソロジー』は、「2つのことを同時に行う」「左右で異なる動きをする」といった普段慣れない動きで脳に刺激を与え、活性化させるというもの。現在では全国の自治体の高齢者向け講座や、高齢者施設やデイサービスなどの介護・医療現場、企業研修などに導入されている。
「開発当初は予算もあまりかけられず、試行錯誤の連続でしたが、筑波大学名誉教授の朝田隆先生ら専門家のアドバイスを受け、認知機能の向上における様々なエビデンスを立証しています。
そして、大切なのは参加される方が楽しんでできるかどうかということ。慣れない動きに最初は混乱する人も多いのですが、その混乱こそが脳への刺激になるんです。動きを間違ってしまっても隣の人たちと笑い合う。できないことを楽しむというのが『シナプソロジー』なんです。
最近では、ビジネスの研修や、企業のセミナーなどでも幅広く取り入れていただいています。ヤクルトレディの皆さんが地域で健康セミナーを開かれる際、最初に『シナプソロジー』をやると、お客様の緊張が一気にほぐれて笑顔になると評価をいただいています」
スポーツクラブの枠を超えて…
ルネサンスのソフト力は今、社外の様々なパートナーとの共創(アライアンス)によって、店舗がない地域へと広がり始めている。
自治体向けの事業として、過疎化が進む地方自治体との連携も加速している。北海道の小清水町(人口約4000人の町)では、庁舎の建て替えプロジェクトに参画し、庁舎の中にスポーツクラブを設置。また、町にルネサンスの社員を職員として出向させるなどの取り組みも行っている。
「私たちが目指すのは、それぞれの地域における『誰もが気楽に集まれる健康拠点』になることです。移動手段がなくても、育児や介護で外出が難しくても、オンラインや出張プログラムを通じて健康へのハードルを極限まで下げていきたい。必要としてくれる人が日本全国にいる限り、私たちはウェルビーイングの種を撒き続けたいと思います」(次回につづく)
取材/斉藤俊明 構成/介護ポストセブン編集部 撮影/柴田和衣子
