古い情報をアップデート! 「ウオーキングは1日6000歩」「理想の睡眠は6~7時間」健康効果を高める最新情報を医師が解説
健康にまつわるさまざまな「通説」があるが、私たち日本人はそれに振り回されていないだろうか。健康や医療の研究は日々進化しており、当時は最新だったデータが今では古くなっていることもある。なにも知らずに続けていると、最悪の場合健康を害する可能性もあるため注意が必要だ。健康を作るのは、毎日の生活習慣だ。健康効果を高めるウオーキングや睡眠、入浴方法の最新情報を専門家に解説してもらった。
教えてくれた人
久保明さん/医師・東海大学医学部客員教授
早坂信哉さん/医師・東京都市大学人間科学部教授
<老化の新常識1>【旧】 「1日1万歩」のウォーキングが理想→【新】疲労により免疫力が低下する
日本では長年「1万歩」歩くことが理想とされてきた。厚労省が2000年に発表した提言『健康日本21』でも、健康維持のために1日1万歩のウォーキングが推奨されているが、この数字には注意が必要だと言うのは、予防医療とアンチエイジングを専門とする東海大学医学部客員教授の久保明医師だ。
「40才以上の米国人男性を対象とした米国立衛生研究所の研究で、1日の歩数を2000歩から1万6000歩まで、2000歩ごとに死亡率との関係を調べた結果、2000歩から8000歩までは年間死亡率の減少幅が大きいのに対し、1万歩になると減少幅が緩やかになり、さらにそれ以上はいくら歩いても年間死亡率はほぼ横ばいとなっています。
以前は1日1万歩が呼びかけられていましたが、8000歩でも全死亡リスクは十分に下がるうえに、年を重ねるほど1万歩以上歩くことのリスクが大きくなってきます。過度な運動で筋肉を痛めたり、転倒や骨折で認知症や寝たきりのリスクを生んだりと、かえって健康を害する可能性があるのです」
前述したように、かつて1日1万歩を推奨した厚労省も、昨年発表した『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』では、歩数の目安を成人で8000歩以上、高齢者は6000歩以上に修正した。
東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利氏が2000年から群馬県中之条町に住む65才以上の住人を対象にした大規模追跡調査「中之条研究」でも、「1日8000歩」「そのうち20分の早歩き」で生活習慣病の発生率を10分の1に下げるという結果が示されている。
同研究では、1万歩のウォーキングは運動のしすぎで、疲労によって免疫力が低下し、むしろ病気になりやすくなると警鐘を鳴らす。
「中之条研究では1日4000歩でもうつ病の予防効果が認められています。6000歩でも体力的にきつい人は、まずは4000歩から始めても良いでしょう」(久保医師)
無理ない歩数から始めたい。
<老化の新常識2>【旧】睡眠は1日8時間が理想→【新】1日6~7時間で十分
日本では昔から健康維持には「8時間睡眠」が理想とされてきた。
一方で、2019年の国民健康・栄養調査結果によると、日の平均睡眠時間が「6時間未満」の人は男性で37.5%、女性40.6%。十分な睡眠が取れていないと感じる人は多いが、前出の久保医師はこう指摘する。
「国立長寿医療研究センターが40才から64才までの成人を対象にした調査研究(2023年)で、睡眠時間が8時間以上の人は、7~8時間の人よりも認知症の発症リスクが41%上昇しました。一方、6時間以下の人は、7~8時間の人よりも認知症発症リスクが19%低下したのです。
とはいえ、5時間未満の寝不足となると脳疾患や心臓疾患などのリスクが相対的に上がるため、理想の睡眠は平均6~7時間と言えるでしょう」
ただし、睡眠の「平均時間」という概念には注意を要する。平日の睡眠時間が少ない人が、休日に「寝だめ」すればいい、というわけではないからだ。久保医師が続ける。
「厚労省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』に興味深い報告があります。休日の1時間程度の寝だめは、平日に6時間以上寝ている人に限って寿命短縮リスクを低下させるものの、平日の睡眠時間が6時間以下の人は、寝だめをすることでかえって寿命を短くするリスクを高めてしまう可能性があるのです。8時間以上では認知症リスクが上昇し、6時間以下の人は疾患リスクや寝だめによるリスクが生じることから、やはり1日6~7時間の睡眠がベストだと言えます」
暑い夏はエアコンをつけっぱなしに寝てもOK! 室温を25~27℃に保てば熱中症対策にも
理想の睡眠時間を守るためには、睡眠の質も重要になる。
蒸し暑くて寝苦しいこれからの季節に、睡眠の質を保つために何を心がければよいか。