『日本沈没―希望のひと―』ドラマと現実が交錯するシーンに「第2波」という台詞が生々しい
TBS「日曜劇場」をさまざまなテーマで考察する隔週連載。前回にひきつづき、小栗旬主演『日本沈没―希望のひと―』)を、ドラマと昭和史に詳しいライター・近藤正高さんが、第5話(11月14日放送)、第6話(11月21日放送)の流れを追いながら深く考察します。
菅田将暉登場の可能性が?
小松左京原作の日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』の第2章に入ろうかというタイミングで、ドラマの主題歌「ラストシーン」を歌う菅田将暉が小松菜奈と結婚を発表した(2021年11月15日)。俳優である菅田が主題歌だけ担当し、ドラマには一切出演しないというのは結構異例のような気もするが、ひょっとして終盤にサプライズで登場! なんてこともあるのだろうか。小栗旬が本作以前に日曜劇場で主演した『獣医ドリトル』(2010年)には、当時17歳の菅田も出演しているだけに、あながちありえない話ではないのでは……とつい淡い期待を抱いてしまう。
肝心のドラマは、第5話(11月14日放送)、第6話(11月21日放送)と急転した。第5話では田所博士(香川照之)が警告してきたとおりついに関東が沈没してしまう。沈没にともなう地震発生時、『サンデー毎朝』記者の椎名実梨(杏)と一緒にいた天海啓示(小栗旬)は、彼女をかばってけがを負うが、すぐに動けるようになる。
ドラマと現実が地続き
天海と椎名が一時滞在した避難所では、人々が家族の安否を確認するため公衆電話に殺到していた。幼い女の子がはぐれた母親と連絡がとれず泣きわめき、殺気立った大人たちから電話を替われと怒号が飛び交う。いたたまれないシーンだが、天海と椎名は女の子に手を差し伸べる。災害伝言ダイヤルで確認すると、母親からのメッセージが入っていて無事だとわかり、まずは一安心。災害伝言ダイヤルが出てくるあたりがいまっぽいというか、ドラマと現実が地続きであると思わせる。
天海は椎名に国家機密だった関東沈没の情報を漏らしたため、ともに停職の処分を受けていた。しかし、椎名はひと足先に復帰。『サンデー毎朝』の編集部で、2人の家族の乗った九州行きの避難バスが高速道路のトンネル崩落事故に巻き込まれたと知らされる。
ここから天海と椎名は事故のあったトンネルのある町まで向かう。最初は車で向かったが、道路があちこちで寸断されていた。そのため車での移動を断念、海を船で渡ったあと山道を歩いてようやく現地の避難所にたどり着く。海路を経由する考えが浮かんだのは、さすが漁師の息子でダイビングが趣味の天海だ。ちなみに2人のため漁船を出してくれた漁師をガッツ石松が演じていて、ワンシーンながら強い印象を残した。
避難所で天海は無事に娘と元妻、椎名も母親と再会、しばらく一緒にすごすことになった。ここでも天海は活躍する。避難所になかなか物資が届かず、人々が不自由をしていると知るや、自分が外された日本未来推進会議に電話をかけ、厚生労働省の石塚(ウエンツ瑛士)に現地の窮状を伝えた。やがて避難所に自衛隊の車両が列をなして現れると、大量の物資を届け、炊き出しを行う。同時に首相の東山(仲村トオル)が現地を訪れ、被災者たちを見舞い、大歓迎を受ける。
繰り返し出てくる「第2波」
東山は未来推進会議から天海を外した張本人だが、復興のためにも天海は必要だとこれまでのことを許し、再び会議に迎え入れる。椎名の記者復帰(しかも週刊誌から系列の新聞に栄転)にしてもそうだが、あまりにあっさり許されたので、いささか拍子抜け。
ともあれ、政府の復興計画はこのときには本格的に始動していた。関東全域が沈没するとの田所の予測に反し、実際に沈んだ地域が1割に満たなかったことも幸いした。被害の少なかった人たちは徐々にもとの日常に戻りつつあった。まるでコロナ感染拡大が落ち着いたいまの状況を思わせる。
そういえば、ドラマのなかでは再度の災害を恐れる人たちから「第2波」という言葉が繰り返し出てきた。本作の撮影自体は今春には終わっていたというが、それまでにもコロナ感染は一旦落ち着いたかと思ったら、またぶり返したりと何度も波があった。ドラマでの描写はそれを色濃く反映したものといっていいだろう。
劇中では、田所がデータ分析から関東沈没はこれで収まったと確信し、政府にも伝える。田所は関東沈没を予測したことで評価を高め、海外の大学からもひっきりなしに声がかかっていた。ロンドンの大学の電話に対しては、提示された金額にまんざらでもなさそうな態度で、あいかわらずの俗物ぶりを示す。
だが、田所は改めてデータを調べたところ、とんでもない兆候を発見してしまう。それは、関東どころか日本列島が沈没するという恐るべき兆候であった。ここからドラマは第2章へと突入する。
恋人になってしまうのか
田所から日本沈没という事実を突きつけられ、政府首脳や未来推進会議の面々は絶句する。関東沈没の予測が出た際には東山首相に国民への公表を強く求めた天海も、今回ばかりは社会への影響の大きさを考えれば簡単には公表できないと判断せざるをえなかった。
天海は石塚たちとともに、国民を海外に移住させるため秘密裡に動き始める。だが、最初に感触を確かめるべく面会したオーストラリアの前首相の反応はかんばしくない。それでもなお彼は知恵を絞る。今度は日本のトップ企業の移転と引き換えに移民を受け入れてもらうのはどうかと提案するが、副総理兼財務大臣の里城(石橋蓮司)から強い反対にあう。
東山首相はひそかに復興計画を停止していた。計画のための予算を日本沈没に向けた対策に充てるためである。このことを不審に思った椎名は、天海に探りを入れるが、彼はもちろん真実を打ち明けることができない。2人は関東沈没では一緒に事実の公表のため闘った仲だが、今回は同じようにはいかないのがもどかしい。
椎名はこの少し前、再会した母親からそれとなく天海との結婚を勧められていた。母親としてみれば、どこか不器用な娘の結婚相手として天海が頼もしく思えたのだろう。そんな事情もあって、椎名は天海をしだいに異性として意識し始める。取材するつもりで彼を訪ねたところ、家に誘われて戸惑う。結局、その夜はなりゆきで彼女が料理をつくり、一泊までしてしまった。天海はまだその気にはなっていないとはいえ、椎名とはいずれくっついてしまうのか。両者はこれまで同志として描かれ、名コンビとして見せ場をつくってきただけに、ここで恋人になってしまうのは筆者としてはちょっと悩ましい。
田所博士は潔白か?
名コンビといえば、天海と田所も、ときには衝突しながらも物語を盛り上げてきた。だが、第6話終盤ではDプランズ社が各国で土地を漁っていることが発覚したことから、田所の立場が危うくなる。Dプランズ社はかつて田所の研究に出資していたため、彼が同社に日本沈没の情報を漏らしたのではないかと疑われたのだ。ついには検察から任意同行を求められる事態にまで発展する。
この危機に際し、田所の分析はますます重要になってくるだけに、彼が研究から離れてしまうのは日本の危機に等しい。天海は検察官に「田所博士が何をしたっていうんですか!」と叫ぶが、それもむなしく田所は連れていかれてしまう。
任意同行は里城の差し金なのだろうが、田所はああいうキャラクターだけに完全潔白とも言い切れない。果たして彼は本当に秘密を漏らしたのか? そして天海と椎名の関係はどうなるのか? ドラマは「ラストシーン」に向けてゆっくりと動き始めた。
文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。