めまいは周囲から理解されにくいが適切な対処が大切 症状でタイプをチェック【医師解説】
厚生労働省の調べによると、65才以上の31.3%がめまいの症状を訴え、なかでも女性患者が男性患者に比べて1.7倍多かった(「令和元年 国民生活基礎調査」より)。めまいは、寝ていれば治まるケースが多いため、治療をしない人も…。しかし、放置していると死に至る病を誘発することもある怖いものだ。
めまい、約9割が耳が原因
そもそも、めまいはどうして起こるのだろうか。人間の体は、健康であればまっすぐ立って歩け、短時間なら片足でも体勢を維持できる。これは体が全体のバランスをとっているからで、これを“平衡機能”と呼ぶ。横浜市立みなと赤十字病院めまい・平衡神経科の医師・新井基洋さんが話す。
「人間の平衡機能は、3つのバランスに関する刺激で保たれています。
・1つ目は、景色や動きを見ることで目から入る視刺激、
・2つ目は、体の位置や動きなどを足の裏で感じとる深部感覚刺激、
・3つ目は体の回転や傾きなどを耳の前庭器官(内耳の三半規管と耳石器)で感知する前庭刺激です。
ところが、これら3つの刺激にかかわる目や足の裏、耳のいずれかに障害が起きると体の平衡機能が低下し、バランスがとりにくくなります。その結果、めまいが起きるのです」(新井さん・以下同)
めまいの約9割は、耳の障害によって起こるという。めまいを伴う突発性難聴、メニエール病、良性発作性頭位めまい症(BPPV)がそれにあたる。さらに、耳が原因のめまいのうち45%を占めるのが「良性発作性頭位めまい症」だ。
「耳の中には、重力や体の方向を感知する役割をもつ、耳石という0.001~0.005mmほどの小さな石が1万粒ほどあります。この石はカルシウムでできているため、更年期で骨密度が低下している人は、耳石(じせき)もはがれやすくなります。そのはがれた耳石が三半規管に入り込むと、頭を動かすたびに三半規管内の耳石が移動。それにより、良性発作性頭位めまい症が起きるのです」
ストレスが誘発する「持続性知覚性姿勢誘発めまい」
めまいによってうつになるケースがあるが、逆に精神的ストレスがめまいを誘発するケースも近年増えている。その一例が「持続性知覚性姿勢誘発めまい」で、2017年に学会で新たに定義された。耳の障害が原因の場合は、乗り物酔い止め薬や体操などで緩和できるが、ストレスが原因の場合は、抗うつ剤治療も必要だという。
めまいは何科にかかる?
めまいの原因は多様化しているため、必ず診察を受けることをおすすめしたい。では、めまいの場合、何科にかかればいいのだろうか。東京都の会社員Tさん(58才)は、
「めまいと嘔吐がひどかったので内科を受診。しかし異常がないと言われ、婦人科、脳神経科、耳鼻科をハシゴ。診断が出るまで時間がかかりました。結果、治療が遅れ、右耳の聴力がかなり落ちてしまいました」
と言う。Tさんのように何科にかかればいいのか迷っているうちに症状が悪化する人も。
「かかりつけの病院がある場合は、まずはそこで相談してください。めまいの場合、脳疾患の可能性があるため、頭部MRI検査を受けることをすすめられるでしょう。検査を受けて問題がなかったら、耳鼻科を紹介されるはずです」(新井さん・以下同)
もちろん、最初から耳鼻科を受診してもいい。その際、できるだけ正確に自分の症状を医師に伝えることが重要だ。
めまいのタイプをチェック
めまいにはさまざまなタイプがある。下記を参考に自分のめまいが回転性なのか浮動性なのか、把握して伝えよう。
ただし、舌がもつれて話しにくい、視界が暗くなるなどの症状がある場合は、脳疾患の可能性がある。救急車を呼ぶなどして早急に診察してもらおう。
■ぐるぐる/回転性めまい
<症状>
●自分自身が回っているように感じる
●自分の周囲が回っているように感じる
●周囲の景色が左右に流れているように見える
●周囲の景色が上下左右めちゃくちゃに動いているように見える
<原因>
●内耳にある三半規管の不調
●小脳など脳の病気
■ふらふら・ふわふわ/浮動性めまい
<症状>
●ふわふわと浮いているような感じ
●ベッドのマットレスの上を歩いているような感じ
●頭がふわーっとして、自分の頭ではないような感覚
<原因>
●内耳にある耳石器の不調
■ゆらゆら/不安定めまい
<症状>
●体が前後左右に揺れてまっすぐに歩けない
●人やモノによくぶつかる
<原因>
●三半規管と耳石器に不調が起きている
●回転性めまいを繰り返して慢性化したケース
●足の裏から脳に伝わる体の位置情報(深部感覚)の異常
●加齢による筋力低下
●小脳など脳の障害
前兆を知って予防をする
めまいは突然起こると思われがちだが、前兆があると新井さんは言う。その代表的なものが下記の7項目だ。自分のめまいが起こるときのサインを知っておけば、肩こりや寝不足を解消するなどして、事前に予防できる。
めまいの前兆
□ 耳鳴り・耳が詰まった感じがいつも以上に強く感じられる
□ ふらつきやすい、乗り物に酔いやすい
□ 吐き気がしたり、軽いむかつきがある
□ 寝不足だったり、ストレスがたまっている
□ 後頭部が重く感じられる
□ 首や肩のこりがいつも以上にひどい
□ 生あくびがとまらない
「めまいが起こる前はどんな体調だったのか、そのときの状況を振り返って、思いつく限りメモをとる習慣をつけるのがおすすめです」
たいていのめまいは、寝ていれば治まるため、周囲からその苦しみを理解されづらく、自分から人に相談しづらい。そのため、ひとりで苦しみを抱え込む患者が多いという。しかし、めまいが原因でうつ病になったり、けがをして寝たきりになることも。また、重篤な病気が潜んでいることだってある。決して、“誰もが年をとればなる症状”などと侮らず、対処してほしい。
教えてくれた人
新井基洋さん/横浜市立みなと赤十字病院めまい・平衡神経科部長。日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門医、日本めまい平衡医学会専門会員・代議員。『全国から患者が集まる耳鼻科医のめまい・ふらつきの治し方』(毎日が発見/KADOKAWA)など著書多数。
取材・文/土田由佳
※女性セブン2021年9月9日
https://josei7.com/
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