老人の「困った行動」を識者が解説!より頑固になる性格の先鋭化って?
近年、困った老人のニュースが増えている。たとえば、高齢者が車を運転して事故を起こしてしまう。ちょっとしたことに怒って暴言を吐いたり暴力事件を起こしてしまう。若い女性にセクハラやストーカー行為を行ってしまう…などで、そういった老人の暴走に頭を悩ませる人の話は多い。
そんな困った行動への対処法について解説した『困った老人のトリセツ』(宝島社)がこのほど刊行された。著者である老年精神医学の専門医・和田秀樹さんは同書で、「高齢者を理解し、事故や事件を起こしてしまう原因を正しく理解し、それに合った対処をしていけば高い確率で困ったことをしなくなる」と説いている。
老人の「困った行動」にはわけがあるという和田さんに、老人の頭の中を解説してもらった。
【目次】
高齢者の「困った行動」は前頭葉の萎縮が原因
高齢による脳の変化には特徴があり、思考や意欲、感情、性格、理性などを司るとされる「前頭葉」から縮み始めるといわれている。そして、この前頭葉の衰えによって主に4つの老化現象、「意欲の低下」「感情抑制機能の低下」「判断力の低下」「性格の先鋭化」が表れ、“困った行動”を引き起こしているのだという。
具体的には、散歩などを促しても一日中家にこもってじっとしているようなら、「意欲の低下」が考えられる。「感情抑制機能の低下」によって理性のタガが外れて、ひどい場合は、目の前に好みの女性がいたら抱きつく、万引き、すぐにキレる、などの衝動的な行動を起こしてしまう。
「判断力の低下」は、人の話は理解できるが、それまでの経験や得た情報などを総合して判断することができなくなっている状態。事前に「騙されないように」と注意しておいても詐欺に遇ってしまうなどの原因はこれだ。「性格の先鋭化」は生来持つ性格がより強くなることで、頑固者はより頑固に、疑り深い人はより疑り深く、怒りっぽい人はより怒りっぽくなる…などが起こるという。
同書では、「詐欺やセールスにすぐ引っかかるわけ」「勝手に調味料を足して食べる」「死にたいなどグチっぽいことを言う」など、さまざまな実例を挙げ、その対処法が紹介されている。
高齢者が衝動的に行動してしまう理由
高齢者が衝動的に行動してしまう理由を和田氏はこう話す。
「高齢者の場合、認知症よりも先に前頭葉の老化による症状が出てきます。前頭葉機能が落ちると、まず意欲が落ちる。それから感情の抑制がきかなくなる。そして変化に対応ができなくなるのが基本的な特色なのです。
40代までバリバリ働いていた人が、50代頃から“もう出世なんてしなくていいや”とか“モテなくていいや”とやる気を失うことがあります。特に男性の場合、その頃に男性ホルモンが減ってくるのもあって、前頭葉の老化+男性ホルモンの低下で意欲低下が起こりやすい。この状態のまま70代80代になると、全く出歩かなくなって足腰が弱ったりボケてしまう原因になるので、前頭葉の老化による意欲低下は大きな問題です。ムリにでもデイサービスに行かせた方がいいと私が勧めるのも、放っておくと何にもしないお年寄りが多いからなんです。
また、前頭葉は機能が落ちてくると、感情のブレーキがきかなくなります。ある感情がずっと続いてしまうとか、ある思考にとらわれてそのことばかり考えてしまうということが起こりやすくなります。ですので、腹が立ったら怒りが収まらない上に、ブレーキがきかないから手を出したり、暴言を吐いてしまうのです」
好色な人はより好色に、頑固な人はますます意固地に
最近では福田次官(58才)のセクハラ問題が取り沙汰とされたばかりだが、年をとって性欲が減退していく高齢者は多い一方で、ますます勢いが増して暴走してしまう人も中にはいるという。
「前頭葉の萎縮によって、ブレーキがきかなくなる人と、生来の好色が先鋭化する人と、両方のパターンがあります。昔はしなかった人が年を取ってから猥談やセクハラ発言をするようになったり平気で女の子を触ったりしてしまう場合は、抑制がきかなくなっていると考えられますが、元々のスケベ性格が余計ひどくなったなら“先鋭化”です。ただ、口で言うだけで実際に手を出したりはしないなら、前頭葉機能は保たれていると考えられます。好色な人の先鋭化の例をあげると、豊臣秀吉の晩年がそうだったと言います。手当たり次第、人質にとっていたたくさんの大名の奥さんを辺り構わず手を出していくのは問題になっていたらしいですね。
他にも、元々頑固な人が意固地になるとか、疑い深い人が妄想的になるとか、ケチな人が年を取っても全くお金を使わなくなるなどが先鋭化です。頑固になる人はわりと多いですね。普通は年を取ると性格が丸くなったり幅広い意見が聞けるようになるのに、逆になっていくとか、昔はマイルドだった人がそうでなくなる例はよく見られる気がします」
高齢者が困った行動を起こすのは、寂しかったり、不安であったり、満たされない思いを抱えている場合もあると、『老人のトリセツ』の一節にある。定年退職によりアイデンティティを失い、元気を失い、仲間や伴侶を亡くすなど心理的に厳しい状況に加えて、現代社会は高齢者を邪魔者扱いばかり。そんな中で自尊心を保つことは非常に難しい。同書を読むと、そんな高齢者の状況を想像しつつ、身体や脳、感覚器の機能の低下を高齢者の立場になって考えてあげることが必要だと、しみじみと感じさせられる。高齢者の問題行動を「困った」と嘆く前に、その理由を理解し、寄り添う気持ちが解決の突破口になるかもしれない。
教えてくれた人
和田秀樹さん/精神科医。老年精神医学の専門医。著書に「困った老人のトリセツ」(宝島社)などがある。
取材・文/介護ポストセブン編集部
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