高齢者が高齢者を支える「おせっかい大作戦」が好評な光が丘団地
東京都練馬区にある都営光が丘団地は、1800所帯の巨大団地。住民およそ4000人のうち1000人ほどが65才以上で、うち3分の1を単身者が占める。
そんな団地の1つ、「光が丘第三アパート」の元自治会長の小山謙一さん(76才)は、高齢住民のためにボランティアの会を立ち上げて、365日無休の「おせっかい大作戦」を展開する。
「高齢者が高齢者を助ける」がモットー
「この団地もあと10年したら単身の超高齢者ばかりになって限界集落どころかスラム化してしまう。その前に高齢者自身が人の世話にならなくても生活できるようにするため、『高齢者が高齢者を助ける』をモットーにさまざまな試みをしています」(小山さん)
小山さんは会社員時代、一般家庭を訪問して電気の安全点検をする仕事に就いていた。ある時、訪問した家で80才のおばあさんが玄関先の廊下にこたつを置いて暮らしていたのに驚いて理由を尋ねると、「足が悪くて動けない。だからここで寝起きしている」と言うのだ。
その光景が忘れられず、小山さんは定年退職後、困っているお年寄りを助ける「おせっかい大作戦」を始めた。
自分の携帯電話番号を記したチラシを団地の4000戸に配布し、「何でも相談してください」と呼びかける。かかってくる相談電話は1日およそ50本。24時間受け付けのため、深夜2時に知らないおばあさんから、「上の階から水漏れがする」との電話もある。実際、本誌の取材中も何度も住民からの着信があった。
医療、終活講演会も開催 ドレスコードありの「朝カフェ」も
アイディア豊富な小山さんの活動は“悩み相談”だけではない。例えば家事ができない住民のために立ち上げた「家事援助お助け隊」では、定年後の大工や元水道工事事業者などがスタッフになり、高齢者のお宅を訪れて水漏れ修理や家具の補修などを行う。
住民交流のための麻雀の会や医療や終活の講演会も積極的に開催する。
「高齢者って朝から暇なんですよ。あまりに暇だと“こんな世の中に長くいなくてもいいや”と投げやりになるけど、やることがあると老人でも楽しく明るく生きていける」(小山さん)
小山さんが手がける多くのイベントのなかでも大人気なのが「朝カフェ」だ。
毎朝7時、近所のマクドナルドに30人ほどの高齢者がぞろぞろと集まり、趣味や関心に応じて小さなグループをつくり、1杯100円のコーヒー片手にあれやこれやと楽しく語り合う。その姿は、まるで現役高校生のようだ。
この朝カフェ、驚くことに「ドレスコード」がある。
「女性にはお化粧してもらい、男性も不潔な格好だと参加不可なんです。おかげですっぴんだった80才のおばあちゃんが『久しぶりに口紅をつけたの!』と生き生きして登場したり、髪ボサボサのおばあちゃんが『通販でウィッグを買ったの』と素敵な髪形を披露したりする。いくら年をとっても、男も女も身ぎれいにしておいた方が、絶対に明るくなりますよ」
そう語る小山さんのモットーは、「人が人として明るく、楽しく人生を全うできるお手伝い」をすること。
「サルトルとボーヴォアール」カップルも誕生
おかげで思わぬロマンスが生まれることもある。
「朝カフェで知り合った高齢の男女が魅かれ合い、一緒に暮らし始めたケースがあります。結婚はしていませんが、お互いにあと10年生きられるかどうかわからない。だったら最後の10年は楽しい方がいいじゃないですか」(小山さん)
このカップルは朝カフェの仲間から「光が丘のサルトルとボーヴォアール」と呼ばれているそうだ。
※女性セブン2018年2月15日号
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