職を失った63歳男性に毒蝮三太夫が心を寄せる「まず笑顔と明るさが大事。自信のない表情をしていたらダメだよ」|「マムちゃんの毒入り相談室」第69回
自分では「まだ働ける」「まだ働きたい」と思っても、周囲はそう見てくれない場合がある。長く勤めた会社を“クビ”になってしまった63歳の男性。次の仕事を探したいが、体の調子も今ひとつで不安が先に立ってしまう。マムシさんは元気がない相談者の背中をパンと叩いて、シニア世代が楽しく前向きに生きていく極意を授ける。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「シニア男性が面接でいい印象をもたれるにはどうすればいい?」
このあいだ「徹子の部屋」で黒柳徹子さんと、去年の秋に亡くなった大山のぶ代の思い出話をしてきた。俺は彼女の旦那になった砂川啓介ともともと友達で、二人の結婚式の司会もやったんだ。その啓介も、のぶ代より先に旅立っていった。
いつだったか、山の手育ちのペコ(大山さん)と黒柳さんが下町を知りたいってんで、俺と啓介が案内したこともあったな。浅草花やしきのローラーコースターに乗ったら、ペコも黒柳さんも大騒ぎだった。俺は、こうやって故人を思い出して話をすることが、何よりの供養だと思ってる。今ごろまた、空の上で夫婦水入らずで仲良くやってんじゃないかな。
さて、今回の相談にいってみよう。再就職をしようとしている63歳の男性からだ。
「小生の会社は、60歳が定年なのですが、その後、希望すれば65歳まで一年更新の契約で働くことができます。しかし、63歳になるタイミングで、会社から次の契約更新はできないと言われてしまいました。
理由は、病気による欠勤が多いからとのこと。『健康第一ですから、無理をしないほうがいいですよ』と丁寧な言われ方でしたが、要するにクビということです。実際、胃潰瘍で手術した際、合併症も起こり入院が長引き長期で休んでしまったのです。
大学生の娘がいて、家のローンも残っているため、まだまだ働き続けたかったので無念です。ただの愚痴ですが。これから働き口を探さねばなりません。小生のような、シニアに足をつっこんだ者が、面接で好印象をもたれるために気をつけた方がいいことがあればアドバイスをお願いします」
回答:「自信をなくしているのかな。卑屈な気持ちは捨てた方がいいよ」
自分ではまだまだ働くつもりだったのに、会社に「そろそろお引き取りを」と言われちゃったわけか。こういうケースは、よくあるだろうね。ショックを受けている様子と、再就職のための面接に不安を抱いている様子が、文面から伝わってくる。
ただ、もうすぐ90歳になる俺に言わせりゃ、60代なんてまだまだ若いよ。青年後期と言ってもいい。会社勤めだと定年があるから、60代はすっかりジジイでもう先がないと思っちゃうかもしれないけど、今からだって新しいことは十分に始められる。どっかの会社に雇われるのもいいけど、自分で起業してみるのもいいんじゃないか。
もしかしたら今、「そんなの自分には無理……」と思ったかもしれない。相談を読んでいて気になったのが、自信がなくて暗い表情をしてそうな感じがするところだ。もちろん、自分に合う会社に巡り合えて、力を発揮できたら言うことはない。そのために必要なのは、「どこかの会社に拾ってもらおう」という卑屈な気持ちを捨てることじゃないかな。
会社が60代の新人に期待するのは、今までの経験や知恵を生かしてもらうことだ。自信なさそうにうつむいて「よかったら雇ってください……」と言われても、好印象は抱かないし、まして採用する気にはならないよ。明るい表情で胸を張って、「こういうことができます」「こういうことなら任せてください」と自分のウリをアピールしよう。
ただし、嘘はよくない。できないことまで「できます」と言う必要はないし、相手に合わせて「前々からこの業界に興味がありました」なんてヨイショしても、心から言ってないことはバレる。ありのままの自分を見せて、向こうに「あなたにぜひ来てほしい」と求めてもらわないと、たとえ採用されたとしても楽しく働けないし長くは続かないよ。
シニア世代が幸せに生きていくために大事なのは、つまるところは笑顔だ。嘘の笑いでもいい。歌舞伎役者が「ハッハッハ」って声を出すだろ。面白くて笑ってるわけじゃないけど、それを見て観客は楽しい気持ちになる。昔、指圧師の浪越徳次郎さんっていう人もいたな。「指圧の心は母心」って言って大きな声で笑う。あの笑顔もよかった。
笑顔でいる人のまわりには人が寄って来るし、結果的にいい仕事にも恵まれるはずだ。きついことを言うようだけど、前の会社に「ぜひ働き続けてください」と言ってもらえなかったのは、病気で欠勤が多いことだけが原因だったのかな。人との接し方なり仕事のやり方なり笑顔や明るさなり、もし思い当たる節があったら反省してこれからに生かそう。
さっき60代はまだまだ若いと言ったけど、人生の後半戦であることは確かだ。インドの言葉だったかな。「人間は、生まれるときは自分が泣いて周囲が笑ってるけど、死ぬときは自分が笑って周囲が泣いてくれるのがいちばんいい」ってのがある。人間は終わりがよくなきゃダメなんだよ。毎日、笑顔を心がけて、人生の後半戦を楽しく過ごそうじゃないか。笑う門には福も仕事もやって来るよ。ワッハッハ!
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。88歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。