兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第156回 負担軽減制度「非該当」でした】
ライターのツガエマナミコさんは、若年性認知症を患う兄と2人暮らしです。症状が進行している兄が起こすハプニングと日々格闘、工夫しながら、自分の気持ちに折り合いをつけて生活しています。先日、ケアマネさんに促され、兄の施設入居について考えてみたマナミコさん。しかし、それはなかなか簡単なことではなさそうです。
特養入居申し込みと世帯分離
先日の夜、兄が早めに自室に引っ込んだので、もう寝たのかと思い、わたくしは久々に自室の引き戸を全開にしてエアコンの風を頂戴しながらヘッドホンでYouTube鑑賞をしておりました。すると寝たと思った兄がいつの間にか柱の陰から半顔をのぞかせておりました。
「なに?」と言うと「おやすみ~」と言うので、なんやそれ、と思いながら「おやすみなさい」と返しますと、ふと違和感がありました。なんと兄は外履きの革靴を履いているではありませんか。
「なんでー?」と言おうとして、くるくると脳みそが回り「ああ、玄関に出しっぱなしだったからだ」と、その日の記憶がよみがえりました。
その日は雨がしとしと降っていたので、兄と一緒に買い物から帰宅したあと、すぐに下駄箱に入れずに「すこし乾いてから片付けよう」と思い、そのまますっかり忘れていたのです。
土足で家の中を歩いていた上に、わたくしの靴は兄の部屋にありました。おかげさまで我が家の玄関はいつでもスッキリしております。
今週はケアマネジャーさまのご来訪がありました。
健康状態を聴取したあと、唐突に「今後、特養を使いますか?」とご質問がありました。特養とは特別養護老人ホームのこと。ショートステイもまだ使っておりませんのに、どういう展開かと思っておりますと、特養は予約待ちが何百人もいて何年待つか分からないというお話しとともに、費用については世帯収入が大きくかかわってくるので、先々利用するつもりがあるのなら、今から収入をうまく操作した方がいいかもしれない、ということでした。
どういうことかと申しますと、特養の場合、低所得者に対する負担軽減制度があるのでございます。
特養は、民間有料老人ホームに比べて格安で利用できる公的施設。ですが、さすがに食費や部屋代は別料金となっており、実費が加算されます。その実費さえも世帯の収入によって減額されるというのが負担軽減制度でございます。厳密にいえば負担限度額が設けられるシステムとなります。
ツガエの世帯も決して高所得ではございません。兄は月7万円弱の年金受給者で、わたくしは売れないフリーライター稼業。という具合で、これはうまくすれば低所得者扱いとなり、負担軽減できるのでは?と、きっとケアマネさまが気を使って下さったのです。
しかしながら、手渡された資料によると「市民税課税者がいる世帯は非該当」となっており、淡い夢は一瞬で消えました。わたくし、悲しいかな本当にギリギリの課税所得者でありまして、負担軽減の恩恵にはあずかれない世帯と判明いたしました。ガックシ。
ショートステイのような単発ならば実費を払っても大したことはございませんが、ホームで1か月、1年、10年という単位で考えると負担軽減があるか否かは大きな問題なのでございます。
同居していても世帯を分離することは可能なので、世帯分離をして兄も世帯主となれば、兄は非課税世帯になるのでおそらくこの制度が使えるでしょう。いや、両親の遺産を均等に分けるとこのマンションや預貯金額などで、兄一人世帯でも「非該当」の条件に当てはまってしまう?
なにしろ低所得者に対する制度なので、中途半端な小銭を持っている今は、どうやっても非該当になってしまうようです。
兄を特養に入れたいと思う頃には、預貯金も底をつき、名実ともに低所得者になっていることでございましょうが、参考までに市のサイトを開き、特養の1か月の自己負担額や部屋代、食費などを調べてみました。大部屋か個室かデラックス個室があり、それぞれに要介護度で微妙にお値段が違うようです。
仮に要介護3だったとして、個室にした場合自己負担額は月2万円強。プラス実費の部屋代は約3万5000円、実費の食費は4万円強。計、約10万円。そのほかに日常生活費(美容代など)が加算されます。昨今の物価高騰を考えますと、やはり月15万円はくだらない出費。
この出費を何年払っていけるのか? 世帯分離をするとしたらタイミングはいつなのか? 世帯分離しない方が得策なのか? はたまた自宅介護を貫くのか? わたくしの体力と精神力がどうなったら特養を申請するのがいいのか? ――う~む、ツガエの頭はバグっております。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ