新『ドクターX』1話「私、感染したので」失敗しない大門未知子がいきなり感染症に
『科捜研の女』『相棒』と並ぶテレビ朝日の人気ドラマシリーズ、米倉涼子主演『ドクターX』第7シリーズ(テレビ朝日系・木曜21時~)が、10月14日放送開始、初回視聴率19.0%という好スタートを切った。シーズンすべてを観てきたライター&イラストレーターの北村ヂンが各話をレビューしていきます。それにしても「私、感染したので」。失敗しない大門未知子がいきなり感染症になった1話にはびっくりしました。
大門未知子がコロナ禍と向き合う
どの医局にも属さないフリーランスの外科医・大門未知子(米倉涼子)が、病院内の権力争いを尻目に超絶手術でバンバン患者を救っていく。1話完結で毎回さまざまな事件が起こるものの、たいてい「私、失敗しないので!」の決めゼリフで悪い医者をへこませ、手術を成功させていく勧善懲悪ストーリー。
安定の面白さで、かつての『水戸黄門』のように安心して見ていられるのだが、悪く言っちゃえばワンパターンな展開とも言える。それでもマンネリとならず、これだけの高視聴率を獲得している理由は、凄腕外科医でありながら幼児性も持ち合わせた大門未知子のキュートなキャラクターと、豪華なゲスト陣のベタな悪役っぷり。そして、絶妙な時事ネタの取り入れ方にありそうだ。
前作の第6シリーズ(2019年)では、失言大臣やZOZO・前澤社長っぽい金持ち、小泉進次郎っぽい政界のプリンスなどなど、当時話題だった時事ネタが登場した(だいぶ懐かしく感じるが)。そして、今回の第7シリーズ最大の時事ネタといえるのが新型コロナウイルス感染症。
従来の時事ネタは各エピソードのスパイス的な扱いだったが、医療ドラマでコロナ禍を扱うとなれば、ちょっとした“小ネタ”というわけにはいかないだろう。いまだ収束が見えない問題だけに、ドラマの世界でもコロナ禍をどう扱うべきか、試行錯誤の真っ最中だ。
「コロナなんてない」という体で、コロナ禍以前のような日常を描くドラマ。マスクを着用するなど、コロナ禍の要素を取り入れつつもメインテーマとしては扱わないドラマ。この辺りが主流で、コロナ禍を真っ正面から扱ったドラマはほとんど見当たらない。
小泉孝太郎主演の『病院の治し方~スペシャル~』(テレ東系)でコロナ禍における医療現場をテーマにしていたものの、レギュラーの医療ドラマでコロナ禍を真っ正面から扱うのは『ドクターX』がはじめてではないだろうか。
とはいえ、さすがに外科医の大門未知子が「私、失敗しないので」と新型コロナを撲滅するわけにもいかないだろう。外科医の立場から、どうコロナ禍と向き合うのか注目だ。
コロナ禍を早くもネタに
今回の舞台も、お馴染みの東帝大学病院。
コロナ禍によって外科の手術件数は激減。本院は内科に牛耳られ、外科は分院へと追いやられており、ほぼレギュラーの敵役・外科分院長の蛭間重勝(西田敏行)は、パンデミックに乗じて大出世した総合内科部長の蜂須賀隆太郎(野村萬斎)との対立を深めていた。
そんな中、蜂須賀は大門の100%完璧な技術に目を付け、東帝大学病院に招き入れることにする。
……とまあ、いつも通りな感じの第1話だったが、コロナ禍という要素によって『ドクターX』もニューノーマル対応になっていた。
たとえば、シリーズお馴染みの「御意」。
上司が何を言っても「御意!」と肯定することで忠誠心を示すワードで、海老名敬(遠藤憲一)などは、いかにデカい声で「御意」と言うかに命を賭けている。
しかし今や、大声は飛沫感染を招く要因ともなりうる。ということで、無言で「御意」の気持ちを示す「御意ポーズ」が登場していた。また、フリーランスの大門が東帝大学病院に派遣されるに当たっての勤務条件にもコロナ禍ならではの項目が追加されている。
・リモート会議のホスト
・リモートのパソコントラブル解決のお手伝い
・リモートのWi-Fi接続のお手伝い
・リモート飲み会のお付き合い
これらすべてを「いたしません」。
リモート会議が増えたことで、これらの余計な業務が増えてしまった若手社員はホントに多いだろうな……と思わせる絶妙な内容。
その他、リモート上の蛭間が面白顔のままフリーズしてしまったり、ニヤリとさせる時事ネタいじりは今回も健在だ。
いきなり新型コロナ以上にヤバイ感染症が登場
「私、失敗しないので」という決めセリフの通り、大門未知子は失敗をしない。
だからこそ、このセリフでスカッとするわけだが、逆に「失敗するかも!?」というドキドキ感もないのだ。ブラック・ジャックですら、チョイチョイ失敗しているというのに……。
そのため、失敗しない大門が「失敗するかも!?」と思わせる事件が仕込まれることになる。妨害によって通常の手術ができなくなったり、大門自身が病に倒れてしまったり。
第7シリーズの第1話ではいきなり、たったひとりで手術をしなければならないという状況に追い込まれる。アフリカの貧困地域を回って医療活動をしていた外科医・一木蛍(岡田将生)がラッサ熱に感染していると見抜いた大門は、完全防備の上、ひとりで手術を敢行したのだ。
ラッサ熱とは、エボラ出血熱などと同様のウイルス性出血熱の一種で、空気感染はしないものの、感染者の飛沫を吸い込んだり、体液、血液などに触れることによって高確率で感染。重症者の致死率はなんと20%以上とも言われている。
コロナ禍でいっぱいいっぱいのところに、さらにヤバイ感染症を登場させるとは、『ドクターX』はサービス過剰だ。
幸か不幸か、みんなが新型コロナ用に感染対策をしていたおかげで、ラッサ熱の感染拡大も防げていたようだが、手術となれば体液や血液に触れる可能性は高い。そのため、自分ひとりで手術をする必要があったわけだ。
この手術シーンの大門は、マスクにサージカルキャップはもちろんゴーグルまで着用した完全防備状態。コロナ禍のドラマでは、マスクのせいで表情が見えず、どの役者も演技に苦労しているが、米倉涼子はゴーグル越しの目しか見えない状態でこの緊迫のシーンを演じきっているのだ。
外野からの余計な声への怒りや、感染症への恐怖をにじませつつ、ものすごい意志とオーラを放つ目力が圧巻。マスク着用のニューノーマルなドラマも米倉涼子に任せておけば大丈夫だ!
私、感染したので
一木の手術を無事に終え、自主隔離に入った大門だったが、ラストで倒れ、PCR検査の結果は陽性。感染したのは果たしてラッサ熱なのか、新型コロナなのか!?
「私、感染したので」
セルフパロディのセリフを言えるくらいは余裕があるとも取れるが……。
ひとりでの手術、大門の感染と、いつもだったらシリーズ終盤で出てきそうな展開を初回でドドーッとたたみかけてきた第7シリーズ。お馴染みだけど新しい『ドクターX』を見せてくれそうだ。
文とイラスト/北村ヂン
1975年群馬県生まれ。各種おもしろ記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。……といいつつ最近は漫画ばかり描いています。