21世紀の親孝行を追求するサービス付き高齢者向け住宅<前編>
高齢者向けの住宅の中から、話題の施設をピックアップ。記者が訪問し、施設で働く人の思い、設備、サービスなどをレポートする。今回は、千葉県柏市にある「麗しの杜 光ヶ丘」だ。
麗しの杜 光ヶ丘
JR常磐線南柏駅からバスで約7分。バスから降りると、目の前に東京ドーム約10個分の広大な敷地を有する麗澤大学のキャンパスが見えてくる。ここには桜やヒトツバタゴ、楷の木、まんりょうなど、四季を感じさせてくれる樹木が約300種類、1万5000本もあり、「麗澤の森」と呼ばれているという。同じ敷地には幼稚園や中学校、高校などがあり、多くの学生・生徒たちが落ち着いた環境で学んでいる。そして、このキャンパス内に2015年に作られたものは、なんとサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)だった。
理念に基づいて運営されるサ高住
麗澤大学のキャンパスと同じ敷地に建てられたサ高住「麗しの杜 光ヶ丘」を運営するのは公益財団法人「モラロジー研究所」。この団体は、1926年に創立された教育団体で、倫理道徳の研究や道徳に基づく社会教育や学校教育、生涯教育を推進している。麗澤大学などを運営する学校法人「廣池学園」とは姉妹関係の団体にあたるそうだ。
モラロジー研究所は元々、道徳教育を行う団体。なぜ介護事業を行うことになったのだろうか。館長の中地孝博さんに聞いた。
「親孝行に対する価値観が、時代の変化と共に大きく変わってきていると感じていました。2000年に介護保険制度ができて、様々な法整備がなされて、介護人材の育成機関ができ、施設も増えました。しかし、私たち国民の意識は大きくは変わってきてはいません。親の介護が必要になったら、子供が面倒をみるのが当たり前だという考え方が根強くあります。親孝行な方であればあるほど、親の介護が必要になったら、仕事を辞めて親の面倒をみないといけないという思いを強く持っています。そういう方の負担を軽減したいと考えています」(館長の中地孝博さん。以下「」は同)
高齢者向けの施設に親を預けることに後ろめたさを感じている人はまだまだ多いと話す中地さん。その状況に一石を投じたいという思いが、ここを作るきっかけの一つになったという。「21世紀の親孝行のあり方を提案する」とのコンセプトを掲げ、入居者と家族とのコミュニケーションを丁寧にとり、介護ニーズに応えているそうだ。
「こちらに入居することが、新しい親子関係を作るきっかけになります。私たちが介護スタッフとしてできることは多いですが、子供さんの代わりにはなれません。反対に子供さんがすぐに介護のプロになることも難しいです。ご家族にはご家族にしかできないことをやっていただき、あとはこちらに任せて頂ければという思いでいます」
充実した暮らしを送れる環境
麗しの杜には2015年にオープンした1号館と2019年2月に完成した2号館があり、一体的な運営がなされている。緑に包まれながら快適に暮らせるように、建物設計にも工夫を凝らしたという。
1号館の1階には食堂や100名が利用できる交流ホール、子供向けの絵本コーナーなどの共用スペースがあり、催しや交流に活用されているという。また、エントランスにあるフロントでは、生活面の不安などの相談や郵便物等の受け取りのサービスを提供している。
「交流スペースは社会福祉協議会にも場所をお貸しして、地域の方の健康作りの講座を行うなど活用していただいています。もちろん、ご入居者様の集まりにも利用していて、ラジオ体操や餅つきなど季節の行事などをしています。ピアノの練習をしている方もいらっしゃいますね」
食事はキャンパスの中にあるレストラン「まんりょう」で調理し、麗しの杜の厨房で食事の前に最終仕上げをしているという。まんりょうはフレンチや日本料理のコースも出しており、キャンパスに用事がなくとも、その味を求めて足を運ぶ人がいるそうだ。麗しの杜では、飽きが来ないように、家庭的な料理を出しているという。
2階、3階には居室があり、4階には夫婦で入居できる2人部屋もある。檜風呂やリビングのように使えるスペースもあり、快適な生活を送れる。
いかがだっただろうか。大学のキャンパス内で暮らせるサ高住は全国的にも珍しい。入居者の中にはキャンパス内で提供されている生涯学習の講座に通っている人や大学の図書館を利用している人もいるそうだ。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
【データ】
施設名:麗しの杜 光ヶ丘
公式WEBサイト:http://uruwashinomori.jp/
所在地:千葉県柏市光ヶ丘二丁目1番1号
最寄駅:JR常磐線南柏駅東口より東武バスに乗車。約7分の「広池学園」バス停下車徒歩1分
類型:サービス付き高齢者向け住宅
運営法人:公益財団法人モラロジー研究所
定員: 63戸(最大68名)
入居要件:(1)60歳以上の方であればどなたでも入居が可能
(2)介護保険法に規定する要介護認定もしくは要支援認定を受けている60歳未満の方
(3)同居者の入居基準:配偶者、60歳以上の親族、要介護認定もしくは要支援認定を受けている60歳未満の親族
構造:鉄筋コンクリート4階建て
開設年月日:2015年7月1日
料金:1号館(1)契約時のみ発生する費用:敷金2ヶ月分・Aタイプ(介護型)13万2000円、Bタイプ(自立型)20~21万円、Cタイプ(自立型)32万円。入居一時金なし
(2)毎月発生する費用:家賃+共益費+サービス費
家賃:Aタイプ6万6000円、Bタイプ10万円(3階)・10万5000円(4階)、Cタイプ16万円
共益費(共用部分の水光熱費や維持管理費):2階・1万5000円、3・4階2万円、4階(2人入居)4万円
サービス費(サ高住制度に基づく見守り生活支援サービスを行う):1人・2万5000円、2人・5万円
(3)1ヶ月あたりの概算合計額:
(4)利用に応じて発生する費用:食事代5万2500円。税別・30日利用の場合。朝食350円、昼食650円、夕食750円
水光熱費:Aタイプ・フロア単位の使用量に応じた額(フロア全体の使用量から個別の金額を算出)、B・Cタイプは実費
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。