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新しい介護の様式|介護施設で感染を防ぐ最新対策|密”はこうして避ける

 食事や入浴の介助から、日常生活のサポートまで、「介護」には人と人との接触が伴う。そのケアが手厚いほど「良い」とされてきたが、その常識が一変した。

 新型コロナにより、“接触=感染リスク”となってしまった。そこで、介護の現場では「密を避けつつ充実したケア」を実現する工夫がいくつも生まれてきた。最新事情をレポートする。

理想の施設は「人手が多い」から「少ない、触れない」に変わった

手厚い介護は、3密につながる

 新型コロナなどの感染症と対峙するとき、重症化リスクの高い高齢者が集まる介護施設では、とりわけ注意が必要だ。法律で決められた人員配置の要件以上のスタッフを用意し、手厚く介護することは、同時に3密(密閉、密集、密接)を作ることにつながる。クラスターが発生するリスクを考えれば、これまで「良い」とされた条件が「悪い」に裏返ってしまう。留意すべきは3密の回避。それが施設選びの新たな常識となる。

介護の新様式【1】人員配置

「3対1」より手厚く→ロボットやセンサーで接触減

 特別養護老人ホーム(特養)や介護付き有料老人ホームでは、いわゆる「3対1」の人員要件が義務付けられている。つまり、利用者3人に対し、介護看護スタッフが1人以上でなければ営業できない。
 
 利用者の人数に対して、いかに多くのスタッフを配置しているかは、施設を選ぶ際の重要な目安だった。パンフレットの人員配置の欄を見て“ここは3対2だから安心だ”と入居を決めるケースも多かった。しかしこうした常識が変わりつつある。

 ケアタウン総合研究所代表の高室成幸氏は次のように説明する。

「新型コロナの蔓延で、3密の弊害が指摘されています。3密を避け難い介護施設にとっては難しい問題です。そうしたなか、ロボットや各種センサー機器などを活用することで、これまで人がやっていたことをテクノロジーとシェアし、なるべく人手をかけない取り組みが始まっています」

 介護サポート事業を手掛ける高山商事(愛知県名古屋市)は施設の中を自動で見回りするロボット「ソワン」を開発した(写真下)。

 同社プロダクトマネージャーの春日井茂氏の以下のように説明する。

「ソワンは自動で建物の中を巡回し、転倒者や一人歩きなどの異変を見つければ職員に知らせてくれる。心拍数などを測定して入居者の活動量の変化を感知し、その部屋に駆けつけて職員の手元の機器に映像を送ることもできます。コロナの対策として、次亜塩素酸を噴霧する機能の追加もできます」

 前出・高室氏が解説する。

「新型コロナ以前からの取り組みですが、社会福祉法人善光会は、運営する特別養護老人ホーム内で排尿のタイミングや入居者の様子を立体的に捉えるセンサー、また眠りの質を感知する機器などを一元管理する技術を運用しています。こうしたテクノロジーがさらに進化すれば、人に変わってセンサーやロボットが活躍し、感染のリスクにつながる人と人との接触を減らしていくこともできる」

 かつては3対1より手厚いのが良い施設だったが、人員をテクノロジーに転換することで4対1、5対1の施設が良いとされる時代がすぐそこに迫っている。

介護の新様式【2】リハビリ

触って訓練→ビデオ通話指導

 生活の質を保持するため、日々のリハビリは重要な要素だ。前出・高室氏は次のように指摘する。

「ソーシャルディスタンスを確保するのが望ましいのは、リハビリの分野にしても同じ。今後は“触らないリハビリ”が増えてくると思います」

 理学療法士で「動きのコツ研究所リハビリセンター」代表の生野達也氏は次のように語る。

「一般的なリハビリは、理学療法士が相手の体を揉んで動かす作業が多い。もちろん正しい方法なのですが、触らずに行なえるリハビリもあります。我々が提唱しているのは“意識するだけのリハビリ”です」

 立ち上がりや歩行の訓練をする際、これまでは相手の足や胴体に触って指導するのが常識だったが、生野氏の指導は違う。

「例えば椅子からの立ち上がりで、足首の外側を捻挫しそうになる方がいます。その場合も触るのではなく、『足の裏に体重が乗っているのを意識しながら立ち上がってください』など、言葉で説明しながら指導します。後から自分で復習できることが最大のメリット。揉んで伸ばすリハビリはその場に理学療法士がいなければできません」 

 理学療法士に揉んで伸ばしてもらう代わりに一人でできるリハビリ指導もある。

「たとえば、脳出血の後遺症で左半身に麻痺が残ってしまった72歳の女性には、動かすことのできる右手を使って左腕をマッサージする方法を伝えています。理学療法士が側にいないときにでも一人でマッサージと関節の可動域を広げる訓練をやっているそうです。おかげで非常に予後がいい。また、触らないことが前提なのでオンライン通話などを使っての遠隔指導も可能です」

 新型コロナ禍のなか、生野氏の会社では、ビデオ通話を使った指導を実際に行なっている。

「指導の様子を録画しておき、後の見直しが可能なのも遠隔のいいところです」(同前)

介護の新様式【3】食事

大テーブルに集合→箱膳スタイル

 一日三度の食事介助は施設の重要な役割のひとつだ。ここでも常識の見直しが求められている。

「特養や有料老人ホームではリビングや食堂に入居者さんを集めて一斉に介助するのが一般的です。これだと3密は避けられません。食器なども共用の場合が多い。こうした部分に見直しが必要になってくる」(前出・高室氏)
 
 各自が個室で食事を摂ることができれば理想だが、現実はそうなっていない。介助が必要でない利用者の多い施設であれば可能だが、原則要介護3以上でないと入居できない特養などでは食事介助が必要な利用者が多いため、スタッフが個室を回っての介助は不可能だ。特養の運営のアドバイスを行なうUビジョン研究所の本間郁子氏の解説。

「大きなテーブルに集まって食事の介助を提供するのがこれまでの常識でしたが、コロナ後は一人用のテーブルを用意して、少し離して配置する工夫を提案しています。ただ距離を離すだけでは雰囲気も悪くなるので間にフラワーポットなどを置き、さり気なくアクリル板で仕切るなどの工夫を実践しています」

 食事介助の際、正面で表情を確認しながら食べさせるのがこれまでのスタンダードだったが、厚労省は斜め後ろから食べさせる方法を紹介した動画を制作し、これを推奨している。

→訪問介護職員のためのそうだったのか!感染対策!2(利用者とあなたの間でウイルスのやりとりをしないために)

 前出の高室氏は「箱膳」の活用を提唱する。

「江戸時代の日本人はお箸、茶碗、お椀が一揃い入った箱膳を使っていました。これは感染症で亡くなる方が多かった時代の一つの知恵だと思っています。自分専用の食器を箱から取り出し、その箱をお膳にして、食べるときは喋らない。日本古来の食事風景です」

 他人と食器を共有しない。自分専用のテーブル、食事中は喋らない。食事介助の現場の“温故知新”となる可能性がある。

新しい介護の様式【4】レク

1か所に集まる→リモートで談笑

 “食事中は飛沫が飛ばないようにあまり喋らない”コロナ後はこうした常識が一般化すると思われる。しかし、これは入居者同士のコミュニケーションの低下にもつながる。そこで重要になるのが日々のレクリエーションの充実だ。
 
 ただ、コロナ禍により感染予防の観点から、外部の講師やボランティアを招くことは当面は難しい。また、一つの場所に大勢を集めるレクリエーションもやりづらい。ここでも常識の転換が必要だ。

「レクリエーションがなぜ大切なのかというと、仲間との交流、会話を促すからなんです。他人と意思の疎通を図り、おしゃべりをすることで心身ともに活性化し、生活の質が向上するのです」

 そう語る高室氏は、先日ある介護施設で“新たな試み”を目にしたという。

「スタッフの手を借りながらですが、92歳のおばあちゃんが、同年代の友人と、スマホのビデオ通話機能を使っておしゃべりをしているのです。本当に楽しそうな女子トークでした」
 
 一つの場所に集まってレクリエーションができないのであれば、オンライン通話機能を使った遠隔でのレクが有効だ。複数人での同時通話が可能なZoomなどのビデオ通話アプリを使えば、遠隔であっても多人数レクが可能だ。

「双方向でお互いの様子を確認できるわけですから、クイズや合唱なども可能でしょう。また、順番に自己紹介をして、事前に決めておいたテーマに沿っておしゃべりをする。それだけでも立派なレクです」(同前)

 たとえ無症状であっても感染の疑いがある入居者は、施設の中で隔離される。そうした場合、部屋から出られず運動量が低下し、身体機能が低下するというケースも出てきている。遠隔であれば、そのような人の参加も可能だ。遠隔レクは従来以上のリハビリ効果をもたらす可能性がある。

介護の新様式【5】面会

家族が頻繁に訪問→画面越しの会話

 オンライン通話は面会の際にも有効だ。前出・本間氏は次のように指摘する。

「それぞれに家庭の事情があるとはいえ、家族が頻繁に面会に来ている入居者は概して笑顔が多い。ただ、コロナ禍で面会を停止せざるを得なかった施設もたくさんありました。それによって認知症が進んだという例も聞いています」

 そうしたなか、オンライン通話アプリを使った面会を実施する施設が増えている。前出・高室氏の話。

「実際に会うのと、オンラインで会うのと、さほどの違いはないと考えています。Zoomなどのオンライン通話のいいところは簡単に録画ができることです。面会の様子を記録しておけば、後から見返すことで、医師や介護職員が体調の変化や認知症の進行などを確認することができます」

 そう語る高室氏は、家族が入居者のために“リモート面会専用”のスマホを1台用意することを推奨する。

「施設側の機器を使おうとすると、万が一そこから情報が流出して施設全体の問題となることを懸念して、やりたがらないことも考えられます。解決策として家族側が専用のスマホを用意するわけです。これを施設の部屋に据えておけば、スイッチひとつでいつでも家族と会える環境を作れるのです」

→コロナで会えない親とオンラインで繋がる見守りツール

 ただし注意も必要だ。介護の現場を取材していると

「母がLINEビデオを覚えてくれたのはいいのだけど、仕事中でもお構いなしにかけてくるので困ってしまっている」

 などの愚痴を聞くことがある。

「昼間は仕事があるので19時以降」といったルールを決めるのも問題回避の方法のひとつだ。実際に会う機会が減る代わりに、オンライン面会を増やしていくのである。

教えてくれた人

高室成幸氏/ケアタウン総合研究所代表

取材/末並俊司(介護ジャーナリスト)と週刊ポスト取材班

※週刊ポスト2020年7月24日号

●親に家庭内感染させない対策とは?同居、帰省時の注意点|訪問看護師がアドバイス

●【3問で答えがわかる心理テスト】今のあなたを癒すカラーを診断!取り入れ方のアドバイスも

●蛭子能収が認知症発覚で始めた妻への家族信託|どんな制度?メリットは?

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