猫が母になつきません 第431話「あねおとうと」
私は長女。「長女は損だ」という話をやはり長女の友人とすることがあります。
「長女症候群(Eldest Daughter Syndrome)」という心理学用語があるくらいで、それは世界的に見ても特別なことではないようです。長女は家事の手伝いだけでなく、幼い頃から兄弟の世話や祖父母の介護など親の代理としての役割を担うことが多い。しかし長女が多大な貢献をしていてもその負担は家族に当然のこととして受け取られ、やっているのを気づかれないことさえ多く、感謝もされない。そういったことが長女に精神的な負担を与えたり、自己実現の機会を制限されたり、人間関係のこじれにつながったりするのが「長女症候群」なのだそう。
スーパーの入り口に座り込んで大きな声で泣く3〜4歳の男の子。そばには少し年上の女の子。大人の姿は見あたりません。女性のお客さんが「どうしたの?」と声をかけたりしていましたが女の子は硬い表情のまま身じろぎもせず答えません。私は女の子に近づいて「弟なの?」と聞きましたがやはり反応なし。でも何度目かの問いかけにやっと小さく小さくうなずきました。
二人の関係がわかったところで私は男の子を立たせようとしましたが、ぐにゃぐにゃして絶対に立とうとしない。しかたなく抱え上げてとりあえず店員さんのところに連れて行くことにしました。足をばたばたさせて大暴れする弟をなんとか抱えた私の前をなぜかそそくさと先に行くお姉ちゃん…そこには小さな赤ちゃんを抱っこしたお母さんが座っていました。入り口は見えない位置でしたが、泣き声は聞こえるくらいの場所。床に下ろすやいなや、男の子はお母さんに抱きついていきました。
大泣きして動かない弟を私が抱え上げたときのお姉ちゃんのほっとした顔が忘れられません。やっとこの状況を打開できると。知らない人にじろじろ見られたり、話かけられるのはつらい。でも弟をひとりにしておくことはできない。まだ小学校にもあがっていないような小さな子が責任感の重圧に耐えていました。わかるよ、わかる。しかもその関係性、歳をとっても全然変わらないと思うよ。がんばれ、長女。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母と暮らすため地元に帰る。ゴミ屋敷を片付け、野良の母猫に託された猫二匹(わび♀、さび♀)も一緒に暮らしていたが、帰って12年目に母が亡くなる。猫も今はさびだけ。実家を売却後60年近く前に建てられた海が見える平屋に引越し、草ボーボーの庭を楽園に変えようと奮闘中(←賃貸なので制限あり)。