「インフルエンザ予防の新常識」そのマスク、もしかして意味がない!?
毎年最新の治療法が脚光を浴びるインフルエンザ対策だが、必ずしも新しいものが最善の策というわけではない。本当に効果がある予防策は何なのか。とどまることを知らない猛威への巷に広がる誤解と正しい対処法を、医師がズバリ!
* * *
インフルエンザが全国で猛威をふるっている。
厚生労働省の発表によれば、今年1月14~20日までの1週間に報告されたインフルエンザ患者数は前週年比約40%増で、1医療機関当たり平均53.91人。前週から約49.5万人増え、定点医療機関当たりの患者報告数を都道府県別に見ると、愛知、埼玉、静岡の順。同省では、1月20日の時点で今期累計で約541万人の患者が医療機関を受診したと推計している。
医療の最前線で毎日多くの患者を診察する医師たちも「今年のインフルエンザは特別」と警鐘を鳴らす。
秋津医院院長の秋津壽男さんが話す。
「例年に比べ、流行のピークが訪れるのが早いような印象があります。患者数が多いということは、うつる可能性も高いということ。警戒態勢を強化してください」
そこで、インフルエンザ予防の新常識をご紹介!
マスクは「N95」タイプ以外あまり意味がない
インフルエンザの予防といえば、まず思い浮かぶのがマスク。今の時期、ドラッグストアの店頭には多くの種類が並べられている。だが「マスクはインフルエンザや風邪の予防に、それほど効果的ではない」と言うのは、野口内科院長の野口仁さんだ。
「インフルエンザは、患者のくしゃみなどの飛沫に含まれるウイルスを吸入すると感染しますが、飛沫が空中を漂う時間は短く、直撃しない限り口からウイルスが感染することはないので、マスクの意味はあまりありません。そもそも一般的なマスクは鼻や口元に隙間ができますし、ウイルスはものすごく小さいので不織布の隙間を通り抜けてしまうのです」
そのための特殊なマスクも市販されている。
「『N95』マスクといって、米国労働安全衛生研究所の規格をクリアした微粒子用マスクを適切につければ予防になります」(野口さん)
神戸大学医学部附属病院感染症内科・診療科長の岩田健太郎さんも日常生活ではマスクを使用しない。ただ、岩田さんはマスクをつけるよりも気をつけていることがあるという。
「ごく近い距離で話したり、街ですれ違いざまに咳を浴びたりすることで感染は起きますが、マスク着用で感染を防ぐ効果は限定的です。マスクをするより、多くの人が集まるようなイベントにみだりに参加しないことの方が予防になるでしょう」(岩田さん)
緑茶・紅茶でうがいを
 次の防御としては「うがい」が頭に浮かぶ。市販のうがい薬を活用すべきだろうか。
「成分によりいくつか種類があるのですが、『ヨード系』のうがい薬は逆効果。殺菌効果は非常に強いものの、粘膜を痛めるうえ、ふだんから口やのどに棲んでいる常在菌まで殺してしまい、かえってインフルエンザに感染しやすくなります」(野口さん)
寒空の下、わざわざうがい薬を買いに行くより、家庭にあるもので充分効果が期待できると野口さんが続ける。
「それは緑茶です。鹿児島の知覧や京都の宇治、静岡といった緑茶の名産地では小学校で緑茶でうがいをすることを励行しているところがある。『緑茶うがい』の導入とともにインフルエンザ感染率が下がり、学級閉鎖が出なくなったという話も耳にします。 理由は、緑茶の苦み成分であるカテキンに、殺菌、洗浄作用があるからです」
秋津さんは紅茶にも同様の効果があると話す。
「紅茶に含まれるテアフラビンにも、緑茶のカテキンと同じ効果があるので、紅茶うがいもいいでしょう」
うがいの回数や時間はどうしたらより効果的なのだろうか。
「ガラガラペッ、とすぐ終わらせてしまう人がいますが、予防効果を狙うなら、15秒以上かけてのどの奥の方までしっかりとやった方がウイルスなどの異物を洗い流せます。回数は1日3~4回、外出から戻ったときはもちろん追加しましょう」(野口さん)
その前に、やっておくとさらなる効果アップが望めることがある。
ガラガラうがいをする前に、口をゆすぐ
「ガラガラうがいをする前に、口をゆすぐのです。口の中のウイルスだけでなく歯や歯茎についた雑菌も洗い流せて、効果アップが期待できる。インフルエンザウイルスは10分もすれば体内に入ってしまうので、うがいの頻度は多めにした方がいいでしょう」(秋津さん)
緑茶・紅茶を10分に1回飲む
外出先や乗り物に乗っているときなど、頻繁にうがいするのは難しい。そんな場合に、誰でもできる簡単なうがい方法があるという。
「それは『飲みうがい』です。一口でいいので、水分を飲み込むのです。ウイルスは胃酸で死滅するので、飲み物と一緒に10分に1回程度胃に送り込んでしまえば、インフルエンザにかかることはありません」(秋津さん)
ここでも、水より緑茶や紅茶の方がカテキンの抗菌作用が加わり、効果が期待できるというが注意すべき点がある。
「緑茶や紅茶はペットボトルのものでもかまいません。ただし、ミルクティーはいけません。ミルクと反応し、抗菌作用が減少するといわれます。紅茶の場合はストレートティーを選びましょう」(秋津さん)
いちばんの感染源は「手」。スマホも拭いて
 ウイルスは目に見えないだけに、鼻やのどからの感染に注意が行きがちだが、実は注意すべきなのが「手」だという。
野口さんが指摘する。「インフルエンザウイルスは、患者のくしゃみが飛んだテーブルの上や、鼻水を触ったまま押したエレベーターのボタン、エスカレーターの手すり、ドアノブなどにも付着しています。飲食店のメニューや調味料も例外ではありません。そういったものに触ったあと、自分の目や鼻、口などの粘膜を触ると感染の危険がある。人間の体の中でいちばん汚いのは手のひら。感染予防は手洗いを徹底することに尽きます」
インフルエンザウイルスに感染する経路は飛沫感染と、手や物に付着したウイルスによる間接的な接触感染。専門家の意見を聞く限り、マスクをするよりも手洗いを徹底した方が実質的な予防につながるようだ。
その手洗いだが、水が冷たいからといってササッと済ませていてはダメ。
「少なくとも15秒以上かけて、きちんと石鹸を泡立てて洗ってください。汚れや菌、ウイルスなどを泡が落としてくれます。爪の先、指と指の間なども念を入れて。特に親指は反対の手で握るようにしてしっかり洗いましょう」(野口さん)
手を拭くときも、使いまわしのタオルはNG。この時期だけでもペーパータオルなど感染の危険がないものを用意したい。
ここまで徹底しても見落としがちなのが、いつも持ち歩くアレだ。 「スマホの画面はインフルエンザウイルスに限らず、雑菌などで汚れているといいます。スマホの画面をこまめに拭き、使い終わったら手を洗いましょう」(野口さん)
加湿器の過信は危険
 乾燥しやすい室内では加湿器などを使用している人も多い。一般的には湿度を50~60%に保つといいといわれている。
「加湿器はインフルエンザ予防としては確かな効果が報告されていません。湿度が50~60%に保てているからといって、ウイルスが必ず死滅すると過信してはいけません。そればかりか、加湿器そのものが汚れていて、ほかの病気をまき散らすことさえあります」(秋津さん)
帰宅後の「シャワー」は必須
 また、熱があるときは入浴を控えた方がいい、ともいうが、今は違う。
「住宅に風呂がない時代、湯冷めをしないように、という名残りでしょう。無理のない範囲で体についたウイルスや菌を落として布団に入ることをお勧めします。可能なら、ウイルスなどが付着した可能性のある髪も洗った方がいい」(野口さん)
起床後すぐに歯磨きを
 一見あまり関係なさそうな口内環境がインフルエンザ予防と関係があると言うのは、日本大学歯学部准教授の神尾宜昌さんだ。
「口腔細菌は睡眠中に増殖するので、就寝前と起床直後の歯磨きは重要です。疫学研究では、口腔ケアをした高齢者はインフルエンザ発症率が抑制されるという報告があります」
そればかりか、口の中の細菌がインフルエンザウイルス感染を促進する酵素を出すため、口腔内を不潔にしておくとインフルエンザ感染を助長するという研究結果もある。
「高齢者は、インフルエンザ後に細菌性肺炎を起こしやすいため、口腔細菌を肺に誤嚥させないためにも、口腔内を清潔に保つことが重要です。歯磨きだけでなく、舌磨きなども含めた口腔ケアをしっかり行ってほしいですね」(神尾さん)
インフルエンザ予防に裏ワザなし
 気になるのは予防接種の有効性だ。今回、取材した専門家の全員がいちばんの予防法に「ワクチン接種」をあげた。
「集団感染のニュースなどで、ワクチンを接種していたのに罹患したケースばかり取り上げるので効かないと思われがちですが、いちばん確実性の高い予防法であることはデータで立証されています」(岩田さん)
たしかに、医師など医療関係者はインフルエンザにかからないイメージがあるが、それはなぜか。
「それはワクチンをきちんと打っているから。先日もインフルエンザ患者さんのくしゃみをまともに浴びましたが体調を崩さなかったのは、ワクチンのおかげでしょう」(野口さん)
※女性セブン2019年2月14日号